085.お姉ちゃんとの個人レッスン♡~頑張るお姉ちゃんは好きですか?(前編)~



「や、やぁっ! えいっ!」


 気合は入っているけど微妙にコシが入っていない掛け声とともに、僕の真横を絶大なエネルギーを秘めた極太な水色の光線が走り抜けていく。


 ――ドゴオォォォッ!


 それは地面をえぐりながら突き進み、一瞬で訓練場に張られた結界にぶつかって派手な音と光を撒き散らした。


 朝の礼拝の時間でレイナさんから慈善活動の告知があった日、今は実技の授業の時間だ。


 結界はいつもの輝光具を利用したものとは別に、僕が自分で張ったものが重ねられているが……その内側は地面がボコボコになり、焦げた臭いが漂い、控えめに言って大惨事となっている。


「うわぁ……ルナっち、あの中でよく平然としていられるッスね……」


 どこか引いたようなミリリアさんの声が結界の外から聞こえるくらいには、ひどい光景だ。


「はぁっ……はぁっ……!」


 今、この結界の中にいるのはたった2人。

 1人は僕。そしてもう一人は、この光景を作り出した張本人……肩で大きく息をするのに合わせてその特盛なお胸を揺らす、マリアナさんだ。


 今日の実技の授業……最近は先生役として一人ひとりの相手をしているけれど、今日はマリアナさんの番だった。


 実戦形式でマリアナさんのスタイルに合わせて【放出】による砲撃戦の訓練を……と思ったのだけれど、開始してからこれまで、有効打になりそうな攻撃は一度もなかった。


 マリアナさんも他の学院生と同じで実戦慣れはしていないのだろうけれども、先日の経験のおかげか、慣れていないなりに足を止めずに色々な角度から攻撃をしてくるなど工夫は見られるが……いかんせん、運動神経がよろしくないマリアナさん自身にとって中々ハードな試みのようだ……。


 まぁ、マリアナさんの出力だと有効打になるような攻撃をされたら、防げるのは自分だけだろうから、こういう機会じゃないと試すこともなかったのだろう。


 そういう意味では、僕が相手をすることで彼女にとって発見があるといいのだけれど……。


「はぁっ……! ぅくっ……」


 また放たれた光線をひらりと躱しながら……なんだか非常に申し訳ない気持ちになるけれど、僕は汗ひとつかいてないし全く息も乱れていない。


 反対にマリアナさんは身体中に汗を浮かべて、息も絶え絶えといった様子で……こうして改めて見て指導するべき課題は分かったし、そろそろ切り上げ時かな……?


 これだけの出力の攻撃を何度も放っているのに衰えない勢いの光線を横目に、僕はその合間を縫って一息で距離を詰め――。


「あっ、あらっ? どこっ!?」


「ここですよ」


 ――ポンと、背中側からその肩を叩いた。


 マリアナさんは自分自身の攻撃の威力につい目を閉じてしまう瞬間があるので、死角に入られるとこうして相手を見失ってしまうのだろう。


「はぁっ……はぁっ……うぅ、ルナちゃん……降参よ……」


 マリアナさんは限界が来たのかへたり込んでしまい、唇を尖らせてちょっと涙目な様子。

 そんなマリアナさんのことを、子供っぽいけど可愛いな……なんて思ってしまった。


 あと、『降参』のポーズをするとそのお胸は揺れるし、汗をかいているからかマリアナさん特有の森の香りに女の子の香りが強く混じっていて……。


「あ、あはは……休憩にしましょうか」


 僕はその上気した顔をまっすぐに見られず、つい誤魔化すように笑ってから、彼女を立ち上がらせるために手を差し伸べた。


「あ、ありがとう……んっ」


 アイネさんよりは少し重みがあるかな……マリアナさんは背もあるしやっぱりお胸が……なんて失礼な考えはどこかに追いやりつつ、僕はしっとりとしたその手を引っ張ってマリアナさんを立たせた。


 ついでに【光壁】で作った結界を解除しておく。


「(後で整地作業が大変そうだなぁ……)」


 なんて、結界の外で見ていたギャラリー……他の生徒やセルベリア先生がおっかなびっくり自分たちの訓練に戻っていくのをどこか遠い目で見ていると、ようやく息が整ったらしいマリアナさんが口を開いた。


「はぁ……ダメねぇ、私ったら……ルナちゃんはこんなに平然としてるっていうのに……」


「あ、あの……?」


 引っ張り上げるのに握ったままだった手を『さわさわ』といじられると、くすぐったいし恥ずかしいのですが……。


 あと、汗をかいたマリアナさんは訓練着がピッタリと張り付いているし、露出した肌に浮かぶ汗は色っぽいし、香りは頭を直接刺激してくるようだし……。


「あっ、ごめんなさいね。ルナちゃんの手、すべすべでさわり心地が良くて……。ふふっ、ドキドキしちゃった?」


「え、えぇ……まぁ……。って、そうじゃなくてですねっ」


 ドキドキしていたことを言い当てられてつい素直に答えてしまった僕は、慌てて掴んだままだった手を放し一歩引いて距離を取った。


「ふふっ、そうね……私の訓練の話よね」


 僕の様子を見ていたずらっぽく微笑んだマリアナさんだったが、先程までのことを思い出したのか、片手を頬に当てて困ったような表情になっていた。


「ダメダメなのはわかるのだけれど……どうしたら良いのかしら……? ルナちゃんやセルベリア先生に言われた通り、実戦を意識して足を止めないようにしてみたのだけれど……私、本当に運動は苦手で……」


「ええ、それは見て取れましたし、試み自体は良かったと思います」


「そう……? ルナちゃんにそう言ってもらえるなら嬉しいけれど……どうすれば良かったのかしら?」


「そうですね……マリアナさんは、『使い所』を意識することが重要だと思います」


「使い所……?」


 首を傾げるマリアナさんに頷いて、僕は先程の模擬戦で見つけた課題について話していく。


「はい。マリアナさんは、常に全力……というように見受けられました。移動するときも、【輝光砲】を放つときの出力も、です。もう少し緩急をつけることを意識することと、身体の動かし方や攻撃の出力を効率化することが大事……でしょうか」


「緩急と、効率化……」


「以前にお教えした輝光路の訓練を重ねて、術に注ぐ輝光力の調整ができれば術自体に緩急をつけることは難しくないと思います。マリアナさんはあれだけ大出力の【輝光砲】を何度も放てるほどに、輝光力を蓄えておく力が強いようですので……それだけで息切れが早くなることは防げると思いますよ」


「輝光力を蓄えておく力……ふふっ、なんだか昔にも言われた気がするわ」


 そ、それはまぁ……僕が言いましたからね……。


 懐かしむように目を細めたマリアナさんだったが、輝光術ではないもう一つの課題を思い出したのか、また困ったような表情に戻ってしまった。


「じゃあ……身体の動かし方というのは……?」


「それは……そうですね。先程見ていて思いましたが、重心を動かしやすくする工夫をすれば改善できると思います。すぐに動けるようにすることを意識して……」


 僕はその場でわかりやすいように、かかとを少し上げて立つと、右に、左にと方向転換して見せる。


 マリアナさんは自覚があるほどに運動が苦手だと言うし、実際見たところ、走るときは『ドタドタッ』とか『ペタペタッ』いうよう足運びをしている印象を受けた。

 運動神経自体はどうしようもないのかもしれないけれど、意識ひとつで改善できる部分はあると思う。


「こ、こうかしら……きゃっ!?」


「おっと……!」


 僕がやった動きを真似ようとしたマリアナさんだったけれども……かかとを上げて方向転換をしようとしたところで、まるで自分自身の動きに振り回されるようにバランスを崩して、前のめりに倒れ込んでしまいそうになっていた。


 え、えー? これくらいは……なんて思うのは失礼かな……。


 僕が咄嗟に支えたので、マリアナさんは転ばずに済んだので良かったけれど……。


「あ、ありがとうルナちゃん……」


「いえ……どうされたのですか? 何か、振り回されているように見えましたが……」


 ちゃんと原因が分かっていないと解決はできない。


 これも訓練だし、気を悪くされてしまっても僕は先生役としてちゃんと指導するべき立場にいるから……と、至極真面目に自分に言い聞かせてその質問を投げかけた。


「うぅっ……その、意識しながら動いてみて分かったのだけれど……」


 対して僕の真剣な質問を受けたマリアナさんは、なぜか顔を赤くして、その大きなお胸を抱くようにしていて……え、もしかして……?


 いやまさか……? そうなのですか、お姉ちゃん……?


「む、胸が……胸に、身体が引っ張られちゃって……」


 かかる遠心力で身体のバランスを崩すほどのお胸様って、マジっすか……。


 恥ずかしそうなマリアナさんの様子につられて僕まで頬が熱くなってしまうのを感じながら、心の中ではミリリアさんみたいな驚き方をする僕だった……。







――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


1話に収まりませんでした……(

前後編に分けております。


お読みいただき、ありがとうございます。

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次回、「お姉ちゃんとの個人レッスン♡~頑張るお姉ちゃんは好きですか?(後編)~」

『訓練』、再び。

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