052.誓いの証~温かな時間と、ふれんちなふれあい~
寮に帰り、食堂で昼食を済ませたその後。
「ユ……ルナさん、その……もしよければ、なんだけど……このまま、私のお部屋でお話しない……? 食後のお茶でもどうかと思って……」
「アイネさん……もちろん良いですよ」
なんとなくこのまま離れるのが嫌で、ゆっくりと階段を登っていた僕は、僕に合わせたのか同じくゆっくりを歩を進めるアイネさんからそう提案されて、同じことを思ってくれていたのか……と、嬉しくなる心を我慢できず顔に出してしまっていた。
「くすっ、ルナさんったら、ここはもう寮なのだから、私は嬉しいけれどその顔は気をつけないと」
「……愛しい人を見る顔になっていましたか?」
「ぁぅ……そこでそう返すのは意地悪よ……私だって、我慢してるのに……」
「あはは……すみません。では、早く行くとしましょうか」
「もう……くすっ、こっちよ」
闇将を倒して帰ったときに、手を繋いだままのところをミリリアさんだけでなくクライスメイトには見られているので、『女の子同士の恋人』くらいには察せられてしまっている気もする。
それでも一応は人目を気にしながら、僕たちは2階のアイネさんの部屋に入った。
「いま、お茶を用意するわ。好きなところに掛けてて」
「わかりました、お手数をおかけします」
「ふふ、いいのよ」
僕が部屋に来ることを承諾したことが嬉しかったのか、アイネさんは微笑みを残して準備を始めた。
僕はその背をなんとなく眺めながら、部屋を見回して、少し悩んだ末に勉強机のほうの椅子に腰掛けた。
ベッドに並んで……という想像をして慌ててそれを振り払ったのは内緒だ。
「はい、おまたせ。今日のは上手く出来た自信があるわよ」
しばらくして、僕の好きな香りが部屋に漂いだし、アイネさんがアリーア入りのカップを届けてくれた。
僕はお礼を言ってそれを受け取り、例によってアイネさんが先に口をつけるのを待ってから香りと味を楽しむと、確かに、この前よりも深みがあるように感じられた。
「……おいしいです。これは……ほんの少し、蒸らし時間を変えたのですか?」
「あら、分かっちゃったのね。さすがだわ」
「あはは……城では色々と仕込まれましたので……」
「ふふ、そうだったのね。私も公爵家の娘としてそれなりに色々と覚えてきたけど……。ねぇ、ル……ユエさんは、他にはどんなことをしてきたの……?」
「そうですね……あ、名前の使い分けが難しかったら、ルナで統一しても大丈夫ですよ?」
「それは……せっかく二人っきりなんだもの。ちゃんと使い分けられるようにするわ」
そういって何でもないように言いながらも、頬を染めているアイネさんはやはり可愛い。
「ふふっ。努力家ですね、アイネさんは」
「ユエさんもそうでしょう……それで?」
「ああすみません、そうですね――」
僕は先日の繰り返しのように、アイネさんに願われるままにいろいろな話をした。
しかし、その内容は先日とは違い、僕の事情を知るアイネさんだからこそ話せる内容ばかりだった。
話したのは僕だけではなく、アイネさんも気持ちを通じ合わせた今だからこそ……というように、恥ずかしそうにしながらも正直な気持ちを交えた昔話や最近の話をしてくれた。
それは、まるでお互いの知らない自分を知ってもらうかのように、これまでの時間を埋めるかのように……とても心温まる時間だった。
……のだが。
「むぅ……ユエさんの前であまりこういう事を言うのもダメだと思うけど、やっぱりツバキさんに妬いちゃうわ……」
なぜかツバキさんとの出会いから一緒に王国に来て生活をする辺りのことを重点的に聞かれ、『アノ日』のことだけはなんとかはぐらかしつつ話を終えた僕に対して、アイネさんが言った言葉がこれである。
僕は冷や汗を流しながら必死に考えた。
ここで『出会ったのはアイネさんのほうが先ですから』といっても、『でも、先に……シちゃったのよね?』と返ってくる気がする。『僕が一番好きなのはアイネさんですから』といっても、『それは嬉しいけれど、ツバキさんが可愛そうよ』となる気がする。
全部『気がする』だけど、こんな場合に上手く言い訳ができるほど……というか、全くもって僕には女性とのお付き合いの経験が不足している。
「そ、その……あの……」
「……くすっ、ごめんなさい。ユエさんにも事情があるってことだし、この言い方は意地が悪かったわね」
結局は何も言えないでいる僕だったが、その様子がおかしかったのか、アイネさんは優しく微笑んでくれた。
「妬いちゃうのは本当のことだけれど、そのことは……もういいわ。ユエさんが相手を区別するとは思えないし、私は今からユエさんとの時間を深いものにしていけるのだもの」
「……ごめんなさい。そう言っていただけると、その……嬉しいです」
「ふふ、ユエさんを困らせてしまったわ。困った顔もステキよ」
そういうアイネさんの顔には、もう嫉妬の色はなくなっていた。僕を困らせるようにベッドを離れて顔を覗き込んでくるのも、僕が深く考えないようにということだろう。
ぐぬぬ……これは完全に気を使わせてしまった。
こういうとツバキさんには申し訳ないけれど、本当に大好きな相手にこれでは、求婚した側の男としては情けない限りだ。
何か、僕の気持ちをしっかりと表せられるものはないだろうか……と考えたところで、アイネさんの髪で輝く光結晶の髪飾りが目に入った。
――これだ!
「アイネさんっ!」
「きゃっ!? な、なにかしら、ユエさん……?」
「すみません、少しだけ後ろを向いていてもらえませんか?」
「え、えぇ……」
突然立ち上がったせいで、目の前にいたアイネさんを驚かせてしまったけれども、僕は頭に舞い降りたアイディアを急いで組み立てるのに忙しく、フォローは後回しにすることにした。
アイネさんの髪飾り……これは、僕があの日の夜にアイネさんから請われてプレゼントしたものだ。
そして、ずっとそれを大切にしてくれているアイネさんならきっと……今度は僕から、形ある僕の気持ちの証として贈ろうとしているコレなら、きっと喜んでくれるはず……!
急な申し出にも関わらず、大人しく僕の言う通り後ろを向いてくれているアイネさんをあまり待たせるのも申し訳ない。
僕は早速……何か役に立つこともあろうかと、珠状にしていつも少量を持ち歩いている光結晶を2つ取り出して握りしめると。イメージを固めていく。
……実物を見たことは、『前の記憶』には無い。
たった一度だけ、この世界で……孤児院で僕の世話係をしてくれていたシスター・レイナさんを見送った日に見たことがあるだけだ。
だからその記憶はイメージを補助するだけに留め、僕が彼女に贈りたい気持ちを丁寧に込めた。
光が漏れないように注意しながら流し込んだ輝光力が、僕の手の中で光結晶をイメージ通りの形に姿を変えていく。
……よし!
そしてもうひとつ……今度は単純なのですぐに出来た。
こうして……出来上がった2つを組み合わせれば……完成だ。
僕は同じものをもう1セット作ると、1つを手にとってアイネさんの後ろに立った。
「……ユ、ユエさん?」
「すみません、少しそのままで……」
僕が彼女の背に密着しそうなほど近寄ったからか、アイネさんが声を上ずらせている。
実際、僕がソレを着けるためにアイネさんの首に腕を回したときに覗き見てみれば、アイネさんは何かに身構えるかのようにギュッと目を瞑っていた。
……なんだか別の期待をさせてしまったかなと思いつつ、全てを終えた僕はアイネさんの両肩に手をおいて声をかけた。
「もういいですよ、アイネさん……目を開けて下さい」
「……ぅぅっ……ユエさんの意地悪…………えっ――」
僕が声をかけると、肩越しに頬を染めて口をとがらせた顔を見せてくれたアイネさんだったが、首を動かしたことでその胸元で鳴った澄んだ音に驚いた。
驚きのままにアイネさんが胸元に手をやると、ソレ……僕が光結晶で作った指輪と、それをネックレスとして身につけるための光結晶製のチェーンが、窓から差し込む陽光を反射して輝いていた。
指輪は記憶にあったシンプルな銀のリングよりも少し幅広で、側面には月と薔薇の文様を彫ってみた。
僕が、アイネさんに捧げる想いの証だ。
「ユエさんっ……こっ……これっ……」
「婚約指輪……のつもりです。学院では指に付けていると目立ってしまいますので、ネックレスとして身につけられるようにしてみたのですが……どうでしょうか?」
「ぅっ……っ……うっ、嬉しいわ……嬉しいわユエさんっ……」
僕がプレゼントの説明をしている間にも、アイネさんはその指輪部分を握りしめてポロポロと涙をこぼし始めてしまっていた。
言葉の通り、それは嬉し涙なのだろう。
「僕も……ほら、同じものを身につけるようにします。これで、その……僕の中でどれだけアイネさんが大切か……分かってもらえましたか?」
「えぇっ……えぇっ……! こんなっ……こんな素敵な想いをもらって、分からないわけないわよっ……ぅっ……ぅぇぇぇぇんっ!」
「あぁ……アイネさん、泣かないでください……」
とうとう堪えきれなかったのか声を上げて泣き出してしまったアイネさんを振り向かせると、僕はそっと抱きしめで背中を優しく撫でた。
僕がそうして幸せを噛み締めていると、徐々にアイネさんの声は収まっていき、鼻をすするようにグズグズと言っているのが胸の中で聞こえた。
「……ぐすっ……ごめんなさい、制服を汚してしまったわ……」
「気にしないで下さい。大好きな女の子が泣いている時に胸を貸せるのは、男にとっては誇りなのですよ。それが嬉し涙なら、僕もこれ以上なく誇らしいです」
「ぅぅっ……それはズルいわよ、ユエさん……。私と同じ制服を着てる美人さんなのに、とってもカッコよく見えるわ……」
「ふふっ、それは何よりですね。今はこんな見た目ですが、僕は……アイネさんの夫になるのですからね。お嫁さんの前では、男はカッコよくありたいものなのです」
「くすっ……そうなのね……でも、今のユエさんも、とてもステキよ……」
抱き合ったまま、優しく微笑み合う僕ら。
胸には幸せな気持ちが一杯で、きっとそれはアイネさんも同じなのだろう。
目の前にある潤んだ綺麗な瞳が、それを物語っていた。
「ねぇ……ユエさん……」
「……えぇ、アイネさん」
目の端に涙を残しながら、僕の名前を呼んで僕の胸に当てた手を握ったアイネさんの瞳が、ゆっくりと閉じられる。
僕はその可愛くて仕方がない『おねだり』に応え、ゆっくりと唇を合わせていった。
「んっ……んぅっ……」
アイネさんに僕の想いを告白したあの夜よりも、ずっと長く、深く、溢れ出す想いを押し付け合う。
「……ふぁっ……ちゅっ……んむっ……ちゅっ……んんぅっ……」
「……んっ……はぁっ……はぁっ……アイネさんっ……」
啄むようなキスに一生懸命なアイネさんが可愛くて愛しくて、僕はつい舌を差し込んでしまう。
「んむぅっ!? んちゅっ……んぁっ……んんっ……れろっ……」
それでも、アイネさんは一度身体をビクッとさせたものの、僕を受け入れ、たどたどしくも僕の動きに応え始めてくれていた。
「んぁんっ……んむっ……ちゅっ……ちゅむっ……んんぅっ!?」
絡み合わせた舌から伝わる感覚や……アイネさんの口から漏れる湿り気混じりの音や声が、荒い吐息が……僕の五感全てを刺激して、何とも言えない感覚……快感が脳を沸騰させていき、僕は夢中になってこの刺激を求めた。
「ちゅっ……んちゅっ、レロッ……ぁんっ……んんぅっ! ユエ、さぁんっ……ちゅっ、んぅっ……!」
アイネさんも僕と同じなのか、舌を絡ませるたびに目を蕩けさせ何度も身体を震わせながらも、僕の制服を必死に握りしめてその絶え間ない感覚に耐えているようだった。
「……ちゅっ……ぷはっ……ハァ……ハァ……」
もっと、もっと……と思う気持ちでどうにかなりそうだったが、これ以上は『溜まって』しまって強制的に頭を冷やされてしまいそうだった。
僕はこの感覚に冷や水を浴びせるのが嫌で、なけなしの理性をフル動員させると、そっとアイネさんから顔を離した。
すると、荒い吐息を漏らす僕らの繋がりが深かったことを表すかのように銀色の糸が結ばれ、すぐに消えていった。
「ハァ……はぁ……ぁんっ、はぁっ……ユエ、さぁんっ……すごかったわ……」
アイネさんはどこか名残惜しそうに、切なそうな声で僕の名前を呼んだ。
そのことにまた理性を吹き飛ばされそうになりながら、力が抜けてしまっているようなアイネさんを支えるという名目で抱きしめて、蕩けて色っぽすぎる顔を見ないようにした。
ついでに膝をこすり合わせるようなアイネさんの仕草も全力で見なかったことにする。
……今だけは、女の子の身体でよかったと思う。
抱き合った密着状態で僕がこの感じだと、男の身体だったら絶対に気づかれていただろうし、そうなったらもう、お互いに止められなかっただろう
「ごめんなさい……その、大丈夫ですか?」
「ハァ……ハァ……ふぇ……? なにが……?」
「い、いえ……何でもないです……」
下着とか……とは、今の僕にはとても言えなかった。
そうして、しばらく抱き合ったまま、落ち着くのを待った。
…………。
……………………。
「――っ!? ~~~~ッ!」
息を整える中で、アイネさんが急に顔を真っ赤にして何かに気づいた様子だったのにも、僕は気づかないふりをしたのだった……。
――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★3」をよろしくお願いいたします。
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次回、「パワー・浴場(バス)・ガールズ~前編~」
再びお風呂回。そしてイチャイチャも続く。
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