033.薔薇銀姫と陽光姫~かしましランチタイム~
「うぅ……ヒドイ目に遭ったッス……ルナっちにあんな鬼畜属性があったとは……このミリリアちゃんの目をしても見抜けなかったッスよ……」
実技の授業が終わり、昼休み。
着替えが終わった僕・アイネさん・ミリリアさんは、エルシーユさんと一緒に食堂へと向かっていた。
マリアナさんも誘ったけれど、訓練で疲れてしまったらしく、教室で食べるとのことだった。
僕を見るマリアナさんの顔が若干赤かったのは、見なかったことにしよう……。
お姉ちゃんの『輝光路』を開通させた時の様子を思い出してしまったのは僕も一緒だったから、見なかったことにしたのはお互い様かもしれない。
「貴女の目が節穴じゃなかったことなんてないじゃない……。そ、それとルナさんは私達のためにアレを……ええと、指導をしてくれたのよ。たしかに少し恥ずかしかったけれど、おかげでみんな『輝光路』とその流れを感じ取れるところまでいけたのだから、ルナさんを悪く言うものではないわ」
『ルナリアさん、ミリーは何であんなにぐったりしているのかしら? ルナリアさんにシてもらったあれ、すごく気持ちよかったのに』
『きっ……それはよかったです。きっとミリリアさんは訓練でお腹が減っているのでしょう』
すごいことになってたのは同じだというのに、ケロッとして言うエルシーユさん。
『こっ、こんなの初めてぇっ……!』という言葉が僕の耳にしっかり残ってしまっているのは内緒だ。
あと、今の彼女の言葉は訳さないでおこう……。
そうこうしているうちに校舎棟を抜け、隣設された大食堂までやってきた。
大食堂は、全生徒が利用できるように1棟丸々が食堂として利用されている。
昨日アイネさんに案内されて驚いたのが、1階が『前の記憶』のデパートなどにあるフードコートのようになっていて、いくつかのメニューから食べたい物を選んで、2階より上の席で食べるという仕組みだ。
費用は安くない学費に含まれているとのことで生徒がこの場で支払う必要はないが、何種類ものメニューから選べるというのは、お嬢様学校とはいえ物が豊かになったものだと感心してしまった。
4人で食堂に入ると、上級生下級生問わず既に多くの生徒で賑わっていた。
「見て、あの方……昨日もいらっしゃっていた白い髪が美しいあの……」
「ロゼーリアお姉さまもいらっしゃるわ。やはりご友人なのでしょうか?」
「お二方と一緒にいらっしゃる方も、金の髪がとてもお綺麗で……」
「純白、銀、金……あの方々の周りが神々しく見えますわ」
侯爵令嬢で『薔薇銀の姫』のアイネさん、白髪が目立つ見慣れない生徒の僕、そして今日は神々しい雰囲気を放つ美人なエルシーユさんまでいるからか、それとも女の子の口というのはそういうふうに出来ているものなのか、昨日と変わらず僕たちを見て噂話を始める光景があちこちで見受けられる。
「ちぇっ、ここにはスーパー美少女ミリリアちゃんもいるってゆーのに……」
「あはは……」
身長差がありすぎて見えてないのでは、とは言えなかった。僕たち三人とも、女性としては背が高いほうだし。
「噂話なんて気にしてもしょうがないわ。ほら、早く昼食を取りに行きましょう? ルナさんは今日は何にするのかしら? エルシーユさんは?」
『私? 私はいつも通りのパンと野菜のスープに……』
「え゛。あれってこういっちゃアレッスけど、ダイエットメニューだって言われてるくらい質素であんまり人気が無いヤツっすよ? エルっちにダイエットが必要だとは思えないッスけど、それをいつも食べてたんスか?」
『そうだったの……? 私の一族はお肉とか乳製品とか卵とかを食べられないから。メニューも読めないし、パッと見てわかる料理がパンと野菜のスープだけだったのよ』
「ほえー、大変ッスね」
「こらミリリア、種族的なことをそういうふうに言うのは感心しないわよ。でも、そうね……今日はルナさんがいるから、他のメニューで食べられるものを探してみてはどうかしら?」
『あぁ! そうよね! アイネ、いい案だわ! さすが私のお友達!』
「わっ、なになにっ? どうしたのエルシーユさん?」
「ふふっ、アイネさんの提案に喜んでいるのですよ」
「それならよかったわ……ルナさんが訳してくれる前だったからびっくりしちゃった」
「抱きつきはマリねぇの専売特許だと思ってたッスけど、エルっちもなかなかッスね。んじゃ、ルナっちはエルっちについてメニュー選びッスかね? そうなるとアタシとアイねぇのほうが早そうッスし、先に行って席を確保しておくッスかね」
「そうね。エルシーユさん、せっかくだからじっくり探してくるといいわ。ルナさん、よろしくね」
「ええ、分かりました」
『アイネ! ありがとう! さあさあいきましょルナリアさん!』
『わっ、分かりましたからそんなに引っ張らないでくださいっ』
よほどアイネさんの提案が嬉しかったのか、僕の手をとって早く早くと急かすエルシーユさんを微笑ましく思いながら、僕達はメニューを端から見て回る。
ひとつひとつがどんな料理なのかを説明し、エルシーユさんが興味を示したら食べられない食材が入っていないか給仕の女性に確認していくのだった。
*****
「あ、ルナっち! こっちッスよこっち!」
「ちょ、ちょっと、そんな大声を出して……はしたないわよ」
エルシーユさんとメニュー選びが終わり、トレイを手に階段を登りながら先に行っているであろう2人の姿を探していると、3階の隅のほうのテーブルを確保してくれたようだった。
声もそうだけど、ぴょこぴょこと動く桃色のツインテールが目立っていて、アイネさんがまるで『ウチの子がすみません』と謝る母親のように恥じ入っていた。
『あちらです。エルシーユさん、行きましょう』
『~~♪ あ、うんっ!』
先程からエルシーユさんは、トレイの上に載った料理たちに夢中だ。
彼女が誰かにぶつかってしまわないように注意しながら誘導し、なんとか席に着くと、何を選んだのかが気になっていたのか、アイネさんとミリリアさんが僕らのトレイの上を覗き込んだ。
「魚介のマリネと、月見草のサラダとフルーツゼリー、それとコメパンね。確かにこれなら肉も乳製品も卵も使っていないわ」
『ルナリアさんが見つけてくれたの! とっても美味しそう!』
ニコニコと嬉しそうなエルシーユさんに釣られたのか微笑みながら言うアイネさん。
ちなみにフルーツゼリーのゼリー部分は月見草のエキスを煮詰めてできたもので、『前の記憶』にあるゼラチンとは違うのでエルシーユさんでも大丈夫だ。ゼラチンは動物の骨や皮に多く含まれるコラーゲンというたんぱく質から作られたもの……らしいからね。
月見草は生食可能でサラダとしても親しまれている。
どうせならと僕も同じメニューにしてみた。
「くすっ、よかったわね。それではいただきましょう。『太陽と月と星の恵みに感謝し、其の光の下、我らがこれを糧とすることをお許し下さい。
「「光在れ」」
『いただきまーす!』
アイネさんが食前のお祈りをして、それに僕とミリリアさんが声を揃える形で昼食が始まる。
エルシーユさんも分からないなりに何となく手を合わせて待っていたが、お祈りが終わったのを見るとフォークを手にぱくつき始めるのだった。
*****
「へぇ、そうだったのね……大変だったわね、エルさん」
「美人な顔に似合わず大冒険したんスねぇ」
『うん。私は一族の長の娘で、『陽光姫』に選ばれた舞手だったんだけど、大戦が終わってからどうしても外の世界が見たくて、飛び出してきちゃったの。その時に外の言葉が分かる者に私の事情を伝えるためのお手紙を書いてもらったお陰で、この国で学院に入るところまでは良かったのだけれど、私自身は全然文字も言葉も覚えられなくて……』
ニコニコするエルシーユさんを見守りながら昼食を食べ終えた後、全メニューについてくる紅茶を前にしながら、僕らはエルシーユさんのこれまでについて聞いていた。
お友達ならということで、アイネさんからの呼び方も変わっている。
ちなみに、エルシーユさんは紅茶がサービスでついてくることも知らなかったらしく、とても喜んでいた。
『里を出る時にお父さまと1つだけ約束があって、その約束もずっと果たせないのかしら……なんて思ってたけど、もう大丈夫ね! ルナリアさんがお友達になってくれて、こうして2人ともお話できるようになったもの!』
「約束、ですか?」
『そう! 私たち『
「それでそれでっ?」
『『外の世界に出るなら、長の娘の相手として相応しく、外の世界に詳しい男を伴侶として見つけて帰ってくるのだ』というのが、お父さまとの約束。素敵な旦那様を見つけたくても、言葉が通じなければどうにもならないでしょう? 今まで、お出かけだってできなかったもの……』
「そりゃそうッスよね……外出申請とか、分からなかったッスよね」
「エ、エルさん……でもその、もしそんな素敵な殿方が見つかったとして、ルナさんも一緒に連れて行くわけにはいかないのではないかしら?」
『どうして? 当然、ルナリアさんにも気に入ってもらえるようなヒトを選ぶのよ?』
「「「えっ……?」」」
女の子3人の楽しそうな会話を訳しながら見守っていたら、思わぬところからすごい話が飛び出してきた。
「わ、私も……ですか?」
『そうよ。だって、ルナリアさんにお話を任せておきながら、私だけその殿方と結ばれるなんて、ルナリアさんに失礼でしょう? だから、一緒にお婿さんとしてもらっちゃえばいいのよ。もしかしてこの国?では、1人の殿方と2人の女性が幸せを分け合うような習慣はないのかしら? 『輝光樹族』ではよくあることよ?』
「それは……この国でも貴族や王族の中で一夫多妻はなくはないけれど……。でも、ルナさんはどうなるの? ルナさんはこの国の貴族になったのよ? 名誉子爵家とはいえ、そう簡単に国を離れることは出来ないわ」
『そうなのね……それなら200年後くらいならどうかと思ったけれど、そのときにはルナリアさんはいないわよね……』
「え、ええ。そうでしょうね、きっと」
随分とスケールが大きいというか、長命種だからというだけではない文化や考え方の違いを感じてしまった。
『はぁ……どこかに私と同じ言葉がお話できて、綺麗で、強くて、優しい……ルナリアさんみたいな殿方がいないものかしら』
「……美人だから許される雰囲気があるッスけど、エルっち、サラッとすごいこと言うッスね。それにルナっちみたいなオトコがいたとしたら、倍率どんだけッスか。きっと嫁候補に入るだけでも大変ッスよ。ねぇアイねぇ?」
「えっ? そ、そうね……」
『どうしたの? アイネ、だれか知り合いにそういう殿方がいるの?』
「あー、アタシから振っておいてアレッスけど、やめとくッスよエルっち。砂糖を入れてないのに紅茶が甘々になるッスよ……」
『ということはいるのねっ!?』
う……この話の流れだと、もしかして……。
女の子らしく恋バナは大好物なのか3人の話はとても盛り上がってるので、訳さないわけにはいかないよね……。
「言葉はどうかはわからないけれど……素敵な殿方なら、いるわ」
アイネさんは頬を染めながら、大切な想いを告白するかのようにそう言った。
『へぇ……! ねえねえ、どんな殿方なの?』
「エルさんみたいな金の髪が眩しくて、スラっと背が高くて、優しい笑顔が印象的な方よ……。誰よりも強くて、多くの人があの方に救われているわ。私も……その1人。素敵な殿方と言ったら、私にはあの方しか思いつかないわね」
うあああぁぁぁぁぁ、は、恥ずかしい……!
『……ルナリアさん? アイネはなんて言ってるの? 早く早くっ』
『え、えぇ……』
エルシーユさんに急かせれて、内心で身悶えしながらも通訳を続ける。
『まぁ! そんな素敵な殿方がいるのね! 強くて優しい笑顔っていうのは、確かにルナリアさんと似ているかしら?』
「そうね……あの方は男性だからルナリアさんとは違うはずなのだけれど、そう言われてみると……どこか雰囲気は似ているかもしれないわ。ふふっ、不思議よね」
ギクッ。
『それでそれでっ? その方はどこの方なのっ? 私も一度会ってみたいわ!』
「どこっていうと……王城にいらっしゃる方よ。今は……お会いすることは叶わないわ」
すみませんすみません……。
『王城って、この国の長……王様がいるところだったかしら? そんな方と知り合いだなんて、アイネはすごいわね! あ、アイネも貴族というものだったかしら?』
「そうッスよー。アイねぇは貴族の中でも、えらーい貴族なんス」
『そうなのね。じゃあお城にいる人を知っていてもおかしくはないわね。ねぇ、アイネは、その素敵な殿方と一緒になるのかしら? 結婚っていうの、したい?』
エルシーユさんのその問いを僕が顔から火が出そうな思いで訳すと、アイネさんはより頬を染めながら、はにかむような微笑みで―――
「そうなりたいと、想っているわ。ずっと、これからもずっと……私はあの方を、想い続けるわ」
――そう、告げたのだった。
「…………」
『素敵! とても素敵だわ!』
「うへぇ……アタシは何度か聞いてるッスけど、アイねぇの乙女パワーにやられそうッス……」
「…………」
『ねぇアイネ……あれ、ルナリアさん? ミリーはなんて……ルナリアさん?』
「およ、ルナっちが固まっちったッスね。アイねぇは乙女モードから帰ってこないッスし……これはさすがにルナっちがかわいそうになってきたッスね……。よーしっ、ここはミリリアちゃんに任せるッスよー!」
『ねぇ! ルナリアさんってば!』
アイネさんの口から直接語られた、温かで真っ直ぐ過ぎる気持ちを聞いて頭がオーバーヒートしてしまった僕は、その後に昼休み終了を知らせる鐘が鳴って我に返るまで、何も言えずにいるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★3」をよろしくお願いいたします。
皆様からいただく応援が筆者の励みと活力になります!
次回、「気になるあのコのお部屋訪問~その発想はなかった~」
(・∀・)ニヤニヤは続く。
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