032.実技教官ルナリア先生?~実践編(これは訓練です)~
「……目から鱗とはこのことね。ルナさんが言うことを実践できれば、必要な輝光力を無駄なく、素早く術へと変換することができるわ。さらには、ルナさんが心結晶から7の輝光力しか取り出していないのに10の輝光力が必要な【光球】が発動できているのは……身体のどこかに散らしてしまっている私とは逆で、身体に巡る輝光力まで『輝光路』に乗せて3を捻出しているから……?」
目をまん丸にしていた状態からいち早く復帰したアイネさんは、話の要領を得たのか、僕が説明しようとしていたことを見事に言い当てていた。
星導者としての力を発動させていない状態なら力の流れは僕もみんなと変わらないので、アイネさんの答えは全く間違っていない。
「正解です! ただ、身体に巡る輝光力から術に必要な輝光力を全て賄ってしまうと、身体活動に影響が出るので、その見極めは大事ですが……」
「なるほど……それはちゃんと訓練しないと怖いわね。でも、『輝光路』の考えはどんな適正でも実力を伸ばすことができる、素晴らしいものね」
「私、【輝光砲】を使うといつも身体がヘトヘトになってしまっていたのだけど、それは無意識に身体を巡る輝光力まで放出してしまっていたということかしら……?」
「そうですね、マリアナさん。この訓練を行えば、それを抑えることで術後の身体疲労を軽減できると思います」
「アタシの【光速移動】も省エネで発動できるし、逆に輝光力を調整すれば移動できる距離も伸びるってことッスか!?」
「はい」
アイネさんに続いて驚きから復帰したみんなも、それぞれ『輝光路』の有用性を理解してくれたようだ。
「それでルナさん、その訓練はどのように行えばいいのかしら? 今まで意識していなかったことだから、1から教えてもらえると嬉しいわ」
「はい、もちろんです。ここにいるみなさんはほとんどが【放出】に適正があるので、先程と同じように【光球】で訓練を行いましょう。あ、ミリリアさんとエルシーユさん、【放出】に適正がない方は掌を【強化】することとします」
『はい!』
セルベリア先生を前にしたときと同じように、元気よく揃った返事をしてくれるみんなにちょっとくすぐったさを感じながらも、僕はその手順を説明していく。共通語で進めていたので不思議そうにしているエルシーユさんには、順番に説明しておこう。
「まずは、とにかく意識してゆっくりと術を使ってみて下さい。最初は、心結晶から取り出した輝光力を血管を通じて肩から腕、掌、指先へと順番に動かすイメージで、流れを感じ取れるようにしましょう。この流れを感じ取れるようにするのが第一段階で、第二段階はそれをスムーズに行えるように繰り返し行います。あ、腕がだるくなってきたとか痛みを感じたら、それは身体活動に必要な輝光力まで移動させてしまってますので、一端止めましょう。詠唱しないと術が使えない方も、これができると詠唱が必要なくなりますので、ぜひ頑張ってください」
「本当ですの!?」
「それはすごいですわね!」
「ええ。では始め!」
『はい!』
僕の合図に返事をした女の子たちは、指示をしてないけど自然と列の間隔を少し広げて術を使い始めた。いくつもの【光球】が浮かび、周囲がより明るくなる。
僕は全体が見える位置に立ちながら、輝光力の流れを観察してアドバイスをしていった。
「あら、【光球】が発動しませんでしたの……」
「詠唱しながらだと輝光力を移動させるということが意識しづらいですわ……」
「ミキさんは、移動させることを意識しすぎて指先にたどり着くまでに別のところに流れていってしまっていますね。しっかり『輝光路』を意識して、少し多めに心結晶から輝光力を取り出して続けてみて下さい。ココさんも、多めに輝光力を取り出して【光球】を使ってみて下さい。詠唱しながらでも発動するときの輝光力の流れをつかみやすくなると思います」
「「はいっ!」」
当然と言えば当然なのだけど、初めて行う訓練にみんな苦戦しているようだ。
理論の他に感覚が重要となるこの訓練では、『前の記憶』にある自転車のように、最初の一歩を踏み出すことがとても難しい。
何度も【光球】を発動させては消してを繰り返しているアイネさんも同じようで、首を傾げてしまっている。
「これは思ったより難しいわね……。ルナさん、こんなことを聞くのはどうかと思うけど、何かコツのようなものはあるのかしら? 術はちゃんと発動するのだけれど、ちゃんと『輝光路』に輝光力を流せているのか、いまいち感覚がわからないの」
「コツですか、そうですね……」
アイネさんからの質問を受けて、僕はおとがいに手を当てて考える。
ホントは何度も繰り返してどこかのタイミングで感覚がつかめるようになる訓練なのだけれども、アイネさんレベルの実力者でも苦戦していること考えると、何日もかかってしまいそうだ。他の子はもっとだろう。
今回、僕が先生として教えるように言われたのは、近々行われるという校外実習に向けてのレベルアップのためだ。『輝光路』を習得したとしても、その上で各々が自身の適正に合った輝光術を訓練する時間も必要となるから……あまり日数はないと考えるべきだ。
それなら、ちょっとズルをしてしまっても問題ないだろう。
僕は自分にそう言い聞かせると、そのズルをアイネさんに対して行うことにした。
……そのズルというのがちょっと恥ずかしいしドキドキしてしまうけれど、『これは訓練、僕は先生』と何度も心の中で唱えて正当化する。
「アイネさん、ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
「ええ……って、ルナさんっ!?」
僕は近くまでやってきたアイネさんの背中側に回り、アイネさんの背中に身体を密着させると、右手をアイネさんの腕に絡ませて身体と同様にぴったりとくっつける。はたから見ると、僕がアイネさんの後ろから覆いかぶさっているようにも見えるかもしれない。
驚きで振り返ったアイネさんの顔が目の前にあり、全身で感じる彼女の温かさに早くも鼓動が高鳴っていく。
「す、すみません。こうしないといけないので……」
「え、ええ……ルナさんに任せるわ……」
アイネさんの顔が真っ赤になっている。
それは僕も同じで、彼女の背中にはきっと僕の鼓動が伝わってしまっているだろう。
「ルナっち、こんな人前で……意外と大胆ッスね」
「「「キャァ~~!」」」
外野が何か言っているけど、気にしたら駄目だ気にしたら駄目だ気にしたら駄目だ。
「今から、私の輝光力を【付与】の要領でアイネさんに注いで、それを指先まで移動させますので、それを感じることに集中してください。指先に輝光力が集まったら、【光球】を発動させてみて下さい」
「んっ……!? ひゃ、ひゃいっ」
耳元で話しているせいか僕の息が彼女の耳にかかってしまうと、アイネさんの身体がビクリと跳ねて僕の胸を押しつぶした。
その反応が、なんというかとても色っぽ……いやいや僕は先生今は訓練、これは訓練……!
「アイネさん……行きますよ……」
僕はアイネさんが感じ取りやすいように、自分の心結晶から多めに輝光力を取り出すと、自分の右胸から彼女の背中を伝って心結晶に注ぎ込んだ。
「っん、んんっ……!? なにっ、これっ……ぁっ……!? ルナさんのがっ……私の、なかにっ……ぁっ……入ってくる……はぁっ……!」
他者の力を身体の中で動かされるという今まで感じたことがない感覚に戸惑っているのか、アイネさんは身体をピクピクと跳ねさせながら左手で右胸を抑え、何かに耐えるようにギュッと目をつぶっている。
僕は耳元で上がる吐息混じりの声を意識しないように必死になりながら、注ぎ込んだ僕の白い輝光力が彼女の輝光力と混じってしまわないように注意して維持する。
「入りましたよ、アイネさん……わかりますか?」
「はぁっ……んっ……え、えぇっ……ルナ、さんのっ……ぁっ……白くて、大きくて……はっ……温かいのが……ぁん……わかるわ……!」
密着した背中がしっとりと汗ばみ、アイネさんの香りが強くなる。
「では……動かしますね……」
「ぁっっ……!? んんっっ……! ちょっ……ちょっと……はぁっ……ぃんっ……ルナさんっ……ぁっ……まってぇ……んっ……!」
僕の輝光力の塊を彼女自身の『輝光路』を使って動かし始めると、アイネさんの震えは膝にまで及んでしまい、僕が密着しながら支える形になる。
「まずは……胸から肩」
「はぁっ……はぁっ……ひゃんっ、んんっ……!? ルナさんのがっ……ぁっ……動いてるのが……わかるぅっ……ぁんっ……!」
「肩から腕を通って……」
「ひぅっ……んんっ……! こっ……これが……ぅんっ……きこうろ……はぁっ……!」
「腕から指先へ……」
「あぁっ……! く、るっ……指先にっ……ルナさんっ……ルナさんっ……! きちゃっ……きちゃうぅっ……んんーーーーっっ!」
「い、今です。術を発動してみて下さいっ」
「はぁっ……はぁっ……ら、らいとっ、ぼーる……」
ガクガクと膝を震わせ、大きく口を開けて息も絶え絶えなアイネさんが、何とか術名を口にすると、僕の白い輝光力に一部アイネさんの薔薇色が混じった【光球】が生み出された。
「はぁっ……はぁ……んっ……はぁっ……」
……なんだか思ってたよりすごいことになってしまっているアイネさんから僕が身体を離すと、アイネさんはくたっと力が抜けてしまったように座り込んでしまった。
「え、えーと、その……どうでしょうか? しっかり『輝光路』を通すようにしたので、その存在を感じられたと思うのですが……」
「はぁ……ぅん……ルナさん……ありがとう……。すごかった……すごいわ……これ……」
「うっ……」
へたり込んで荒い息を吐きながらこちらを見上げてきたアイネさんの目はトロンとしていて頬は上気し、もう言い訳もできないほどに色っぽく……僕は見事に撃沈し『溜まって』しまった。
アイネさんは自分の状態を自覚していないのか、そのまま何度も【光球】を発動させている。その輝光力の流れを見ていると、心結晶から取り出した輝光力が全くロスなく指先まで集められてちゃんと術が発動しているので、僕のズル……『輝光路開発』は完璧に成功したようだ。
「「「(……ゴクリ……)」」」
そういえば、アイネさんにズルをしている間はずっと静かだったなと思って振り返ると……みんなこちらをじっと見ていた。赤くなった顔に手を当てていても目を隠す気が無いほど指が開いているので、もう『見ていた』でいいだろう……。
「ル、ルナちゃん……」
「ルナっち……恐ろしい子ッス……」
ミリリアさんまで赤くなってそんな事を言うものだから、次の言葉を口にするのがためらわれてしまうが……これは訓練で、僕は先生だ。言わなければならない。
「では……次はミリリアさんですね」
「ほわっ!? ア、アタシッスか!? ってまさか、みんなソレをされるんスか!?」
「そうですよ……これは訓練です。私は教官として、校外実習日までにみなさんの実力を伸ばす責任があります……さあ、私も恥ずかしいのですから、早く済ませてしまいましょう……?」
フフフ……もうどうにでもなぁれ……。
「こっ、こわっ!? ルナっち、目がマジッス!? い、イヤッス! あんなアイねぇみたいにトロトロになっちゃったら、アタシお嫁に行けないッス! ここは逃げっ――」
「――逃しませんよ?(ニッコリ)」
「ひぅっ!? なっ、なんッスかコレッ……光の輪!?」
【光速移動】で逃げようとしたミリリアさんを、僕は彼女よりも早く発動させた【光縛】で拘束してその場に留めた。
「ほら……『輝光路』を強化して術の発動を早くできれば、逃げられていたかもしれないですよ……?」
「やっ、やめるッスルナっち……! やっ、やめっ――――んんーーーーっ!」
晴れ渡る空に、ミリリアさんのくぐもった声が響いた……。
その後、グラウンドの一角では、訓練中とはとても思えないほどの、女の子たちの嬌声が上がっていたという。
いや、これはあくまで訓練ですから。嬌声なんて上がっていません。ええ。
とはいえ、僕は人数分、きっちり『溜まって』しまいましたとさ……。
――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★3」をよろしくお願いいたします。
皆様からいただく応援が筆者の励みと活力になります!
次回、「薔薇銀姫と陽光姫~かしましランチタイム~」
女の子たちは恋バナが大好物。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます