8章 少年期 ~リスター帝国学校 1年生 リスター祭編~

第132話 リスター祭

2030年10月21日 14時


「リーガン公爵ただいま戻りました」


 俺たちは今リスター帝国学校の校長室に居る。俺たちというのはライナーとブラムを除く【暁】だ。


「よく戻りました。すでにイザーク辺境伯からの報告は受けております。城塞都市イザークの魔物の襲来を根本的に解決してくださったと。またイザーク辺境伯より詳細な活動報告も受けております。ヘラクレスアントを討伐したりキラーアントの巣を潰したり等Bランクパーティでも難しいようなことを成したとか……

取り敢えず【黎明】は全員C級冒険者に【創成】は全員D級冒険者にしますが、マルスにはイザーク辺境伯とレッカ騎士団長から連名でB級冒険者にと推薦状が届いております。リスター連合国でも勇名を轟かせている2人からの推薦ですがどうしますか? 私としても、リスター帝国学校としてもB級冒険者が誕生するのはとても喜ばしいことで是非この打診を受けて頂きたいのですが……」


 久しぶりに俺と会ったせいかリーガン公爵がかなり丁寧な話し方をしている。それに何か緊張しているようにも見える。


「分かりました。謹んでお受けいたします」


 大分自信がついてきたのでもうB級冒険者になってもいいだろう。

 俺がこう答えるとリーガン公爵がほっとしたように


「ありがとう。1つ聞いてもよろしいですか? マルス、急に成長したように見えるのですが何かありましたか? あとクラリスもこの1か月で大分変化したように見えますが?」


「いえ……特には何も……成長期なのではないですか?」


 俺が言うとクラリスも


「私も特にないですが……ただ戦闘三昧でレベルだけは大幅にあがりました」


「そうですか……Sクラスは25日まで休みとします。11月の3日にはリスター祭がありますからSクラスにも参加してもらいます。Sクラスでリスター帝国学校のすばらしさを伝えてくださいね」


 リスター祭って何だろう……それに11月3日という事は文化祭みたいなものか? 俺は1つ気になっていたことをリーガン公爵に聞いた。


「武神祭ってどうなりましたか?」


 俺が聞くとリーガン公爵が笑顔で


「素晴らしい戦いでしたよ。特に決勝戦のアイク対ディバルは名勝負でした。アイクは予選からずっと5年生の上位と戦っており疲弊しておりましたが、見事アイクが優勝しました。4年生で5年生を破るのはとても凄い事です。1年生が4年生を倒すことはたまに見かけますが、Aクラスの5年生を倒すという事は快挙と言ってもいいでしょう。まぁアイクにはそれだけの期待をしておりましたが……」


 俺は思わずガッツポーズをした。そしてもう1つ聞きたいことがあったのだがみんなの前で話せない事だったので先に他のメンバーには教室に戻ってもらった。


「リリアンってどうなりましたか?【紅蓮】に入りましたか?」


 神聖魔法使いのリリアンの事を聞いた。


「あら? やっぱりリリアンって分かったのですね。リリアンは他のAランクパーティに行くことになりました。リリアン本人は【紅蓮】か【黎明】に入りたかったようだけど、アイクからは正式にお断りをされました……あなた達兄弟は神聖魔法使いの貴重さを分かっているですか? 多少性格に難があってもとても貴重なのですよ? どうしてですか?」


 逆にリーガン公爵に質問されてしまった。


「【紅蓮】がなぜリリアンを断ったのかは分かりませんが、僕は今の【黎明】がとても気に入っております。リリアンが【黎明】に入ると絶対に問題が起きると思ったから断りました。【暁】にも入れるつもりはありません」


 きっぱり言うとリーガン公爵が


「そう……きっと【紅蓮】も一緒なのよね……」


 俺は校長室を後にして急いで1年Sクラスに戻るとみんな雑談をしていたので


「なぁカレン。リスター祭って文化祭みたいなものだよね?」


「そうね。他の学校では文化祭って呼んでいるけどリスター帝国学校だけはリスター祭って呼んでいるわ。まぁここがリスター連合国の文化祭の中心だからね。リスター祭は1週間も続くから結構疲れそうよね。それで私たちは何をやるの?」


 1週間も続くのか……まぁこのメンバーでやるんだったらなんでも楽しいだろうな。するとバロンが


「どこの学校に行くか迷っている人もたくさん来るからな。俺も去年のリスター祭に来たけど凄かったな。その時にはもう【紅蓮】が有名で、特にアイクさんは有名だったから一目見ようと思ったんだけどあまりにも人気が高すぎて見られなかったな」


 するとカレンが


「でも今年の私たちの方が凄い注目されていると思うわよ。なんせ新入生闘技大会でセレアンス王立学校を武術の部で倒して完全優勝したって言うのも世間には知られているし、何と言ってもマルスの評判は去年のアイクの比じゃないわ。パパやサンマリーナ侯爵が宣伝しているようだし、人族嫌いのセレアンス公爵もマルスだけは認めていると世間も知っているわ。しかもクラリスの美貌も相当広まっているらしいわよ。股間クラッシャーという2つ名と共にだけど……」


 あ……俺たちは完全に忘れていたけど世間ではまだ記憶に新しいのか……それにしてもいつの間にか俺の名声も上がっていたのか……あまり目立たないようにはしていたつもりなんだが……


「うーん……何しようか?……」


 俺が迷っているとミーシャが


「マルス、何迷っているの? もうメイド喫茶で決まりでしょ?」


 え? もう決まっているの? それにメイド喫茶って……クラリス経由の情報か? するとメイド喫茶という響きにバロン、ドミニク、ミネルバが賛成の意志を示した。


「分かった。じゃあメイド喫茶にしよう。俺たちは明日から休みだから休みの間にサービス内容とか料金とか決めよう」


 話がまとまったので俺とクラリス以外全員寮に戻った。俺とクラリスはこれから生徒会室に向かう事にした。


「失礼しまーす」


 扉をノックしてから生徒会室に入るとみんな俺とクラリスをみてビックリしていた。


「お、久しぶりだな。マルス……凄い大人になったというか……成長したよな? もう身長が俺よりも高くなってないか……? クラリスも……直視できないくらい……なんというか……」


 アイクが言葉を濁すと眼鏡っ子先輩が


「あー、婚約者の前で他の女に惚れるなんてひどーい。しかもその相手が弟の婚約者なんて信じられない。でも本当にクラリス可愛くなった……美の結晶という感じになったわね……今年の大本命はクラリスね……マルスも相当というか……これ以上なく……かっこよく……」


 そう言いながら俺の顔を覗き込むと眼鏡っ子先輩の顔がどんどん赤くなっていった。


「エーデこそマルスにお熱じゃないか……いや本当にお前ら2人にはいろいろと驚かされる事ばかりだ」


 どうやら俺たち2人は相当成長したらしい。確かに俺は相当身長が伸びて体つきもがっしりしてきた。俺の身長は170cmを優に超えただろう。


 まぁクラリスの身長は変わっていないが容姿がずば抜け過ぎたし完全に大人の体形となったのは制服の上からでも分かる。胸だけではなく体のラインが完全に大人っぽいのだ。クラリスは「ありがとうございます」と言って照れてしまっている。


「アイク兄。武神祭の優勝おめでとうございます。ディバル先輩と城塞都市イザークで会いましたが相当強そうでした。そして斧使いっぽくて正直槍使いのアイク兄は相性が悪そうでしたが見事に勝たれたようで」


 というとアイクが嬉しそうに


「ありがとう。今年がラストチャンスだったからな。来年はマルスがいるから絶対に今年のうちに武神祭優勝したかったんだ」


 ちなみにアイクのステータスは



【名前】アイク・ブライアント

【称号】-

【身分】人族・ブライアント伯爵家嫡男

【状態】良好

【年齢】13歳

【レベル】28

【HP】82/82

【MP】1102/1102

【筋力】63

【敏捷】54

【魔力】35

【器用】36

【耐久】58

【運】10

【特殊能力】剣術(Lv6/C)

【特殊能力】槍術(Lv8/B)

【特殊能力】火魔法(Lv6/C)

【特殊能力】風魔法(Lv2/G)


【装備】火精霊の槍サラマンダーランス

【装備】火幻獣の鎧イフリートメイル

【装備】火の腕輪フレイムブレスレット

【装備】守護の指輪



 レベル28でこのステータスはかなり高いと思う。


 まぁ俺たち【黎明】【創成】のメンバーは加齢によるステータスUPも見込めるから一概に比較は出来ないんだが……だがこのステータスだともう既にクラリスとエリーの方が強い。もしかしたらミーシャの方が強いかもしれない。


 それを知ってか知らずかドワーフのガルが


「今のアイクに学生で勝てる奴などおらんな。間違いなくアイクはA級冒険者になるだろう……

 それに儂らもかなり強いしな。儂もそう遠くないうちにA級冒険者になれるかもしれんな」


 ガルの言葉にアイクが


「ガル……俺はマルスよりも弱いのは間違いないんだ。それだけは分かってくれ。そしてクラリスよりも恐らく弱い……クラリス悪いが腕輪を外してくれないか?」


 偽装の腕輪を外せという事か……そう言えばいつの間にかアイクは偽装の腕輪を装備していなかった。クラリスが俺の方を見て確認を取ってきたので俺は黙って頷いた。眼鏡っ子先輩の束縛眼はどこまで鑑定できるのか分からないが、ここはアイクを信じる事にしよう。


 多分眼鏡っ子先輩に鑑定させるのであろう。クラリスが腕輪を外すとアイクが眼鏡っ子先輩にクラリスを鑑定するように言う。当然眼鏡っ子先輩はクラリスを鑑定して驚くわけで……


「え……? 噓でしょ……? アイクよりも全てのステータスが上って……だってクラリスは後衛よね? どうしたらそんなステータスになるの……?」


 クラリスは眼鏡っ子先輩に鑑定されるとすぐに偽装の腕輪を装備した。眼鏡っ子先輩の言葉にガルや他の紅蓮のメンバーも驚いていた。


「分かったか? ガル? これが現実だ。確かに俺たちは強いと思うが俺たちよりも強い学生は必ずいる。ここにいるマルスとクラリスだけではない。恐らくエリーも俺より強い。だがそれでも俺たちは強くならないといけない。

マルスやクラリスよりも弱いからと言って卑屈になってはいけない。これまで以上に努力を重ねて、時には研鑽も積まなければならない。決して天狗にならないで努力を重ねた結果がマルスやクラリスだ。

才能の差だって当然あるが、俺は小さい頃からマルスとクラリスの人並み外れた努力も見てきているからな。驕る事無く強くなろう。俺たち【紅蓮】が強くなるのはこれからだ!」


 アイクの言葉にこの場に居た【紅蓮】のメンバーがみんな頷いた。なんかアイクって本当に立派だよな。アイクが兄で本当に良かった。


「ところでアイク兄たち4年Sクラスはリスター祭で何をするんですか?」


 俺が聞くとアイクが


「今の話をしてから言うのもあれなんだが……組み手をしようと思っているんだ。4年生でリスター帝国学校の武神祭優勝者って珍しいからな。今年受験しようか迷っている人にここに居れば4年生でここまで強くなれるという事を教えてあげたいんだ。あと5年生たちも参加してくれる予定だ。ちなみにマルスたち1年Sクラスはなにをするんだ?」


「僕たちはメイド喫茶をすることになりそうです。25日まで休みを頂いたのでそれまでに具体的に決めようかなと」


 俺が言うとアイクが


「それは傑作だな! 1年Sクラスは美男美女しかいないからな! きっと行列が絶えないだろう。どうやって混雑を抑えるか考えといたほうがいいぞ。あと絶対にリーガン公爵に相談したほうがいい。他の先生方にもな」


【紅蓮】のみんなと一通り話をすると俺とクラリスは生徒会室を出て、久しぶりに2人っきりで学術都市リーガンでデートすることにした。



-----あとがき-----


この章は視点変更がかなりあります。

敢えて○○視点とは書いてないので、これは誰視点だろう? と推理しながら呼んで頂ければと思います。


『いいね』お待ちしておりますのでよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る