第122話 ロマン

【名前】男のロマン

【防御】1

【特殊】-

【価値】-

【詳細】男性専用装備。魔力を込めると装備者は透明になれる。透明になっている最中は全ステータス半減。透明になるのに1秒間にMP10消費する。


 なんと! この店主はとんでもない物を仕入れたな!賢者の杖(偽)といい、俺の専属の店主になってもらいたいくらいだ! 名前が男のロマンって言うのも頷ける。カレンが興味深そうに鑑定をしている。


「男のロマン? なにそれ?」


 カレンが言うとクラリスが感づいたようだ。


「アイテム名が男のロマンなの? じゃあ絶対にロクなことにはならないから買うのをやめましょう。マルスもいいわね?あと少し我慢してね……」


 とクラリスが言うと全員どういったものか悟ったようだ。だが正確には分かっていないようなので


「店主さんのロマンって何ですか? 例えばこのマントにどういった効果があったら嬉しいですか?」


 ミーシャがと聞くと店主が


「うーん。やっぱりこれを装備するとお前ら美女たちが俺の事を好きになるというのが一番いい効果だろうな。あとは勝手にお金が貯まるとか、美女が寄ってくるとか、病気しないとか、美女が寄ってくるとか……」


「じゃあマルスはこれいらないね」


 ミーシャが俺を見ながら言う。


「あと透明になって女湯というのも定番だよな」


 あっ余計なこと言いやがった。エリーがその言葉を聞いた瞬間の俺の表情を見逃さなかった。


「……それ……透明になれる……間違いない……」


 エリーは俺の表情の微妙な変化を読み取った。エリーには嘘をつけないからな……


「はぁ……エリーの言う通りだよ。だけどそれ装備できる人限られている。MPがとんでもなく多い人じゃない限り悪用は出来ないから安心して」


 俺の言葉を聞いたミーシャが


「これマルスにだけは渡してはいけないやつじゃない? 流石に婚約者が犯罪者にはなって欲しくないし……」


「これ私たちで買って燃やしましょうか? 私もマルスと獄中結婚とか嫌よ?」


 クラリスが言うとエリーまでも


「……賛成……」


 と一言。カレンに至っては


「捕まって犯罪奴隷になってもフレスバルド家がなんとか引っ張り上げてあげるから……元気出して」


 ……さすがに酷い。するとクラリスが


「冗談よ。冗談。でもマルスこれは我慢してね」


 結局俺は男のロマンを手に入れることが出来なかった。まぁネタで欲しいくらいのものだからと思っていたのだが、実際本当に手に入らないと思うとなぜか悔しい……やはり男のロマンと言うものは簡単に諦めることは出来ないのか……俺は賢者の杖(偽)を強く握り平常心を取り戻した。やはりこの杖は買ってよかった……



 店を出るとイリーナの所に行くことにした。明日死の森へ出発すると伝えるためにだ。


 イザーク辺境伯の屋敷に行き、イリーナに明日出発することを伝えると、イリーナが今回の魔物退治のお礼と言って報奨金をくれた。


 ちなみにカレンはイリーナに、俺がヴァンパイアを倒したことは伝えていない。イリーナどころか【暁】のメンバー以外には誰にも話していない。もしも話せば俺たち【黎明】のメンバーの冒険者ランクとパーティランクが上がるかもしれないが、それ以上に復讐が怖かったのだ。


 だからもう当分魔物が襲ってくることはないとだけ伝えてもらったのだ。俺が宿で寝ている間にイザークに残っている騎士団と訓練生で東を確認しに行ってもらい、結果本当に魔物の姿は無かったと報告された。


 報奨金を俺に渡した後イリーナはずっとクラリスの事を見ていた。実は2人が会うのは今日が始めてだ。基本イリーナとの交渉はカレンかライナーが行っており、クラリスは最初に騎士団員とシフトの打ち合わせに行って以来、ライナーに言われた通りイザークの人達と関わる事を極力避けていたからだ。


「い、イリーナ様。私に何かついておりますか?」


 クラリスがイリーナに聞いた。やはりイリーナの視線に気づいたのだろう。


「クラリスさんは普段どういったものを召し上がっているのですか? スキンケアはどうしているのですか?いい匂いがするのですがそれは何でですか? 美しくなる秘訣や心構えはありますか?」


 イリーナがクラリスに詰め寄った。


「食べ物はみんなと一緒で外食ばかりです。スキンケアはなるべく肌を乾燥させないようにしているくらいです。匂いは……私自身の匂いがあまり良く分からないのですが……いい匂いと言ってくださってとても嬉しいです……美しくなる秘訣は好きな人がずっと近くにいる事だと思います。好きな人に変な姿を見られて幻滅されたくないですから……」


 困ったようにクラリスが答えるとイリーナが俺とクラリスを見ながら


「まぁそうですわよね……」


 ため息をつきながら言うとカレンが


「イリーナ。クラリスといちいち比較するのはやめなさい。どこも勝てる要素が無くて落ち込むだけだから……」


 初めてイリーナに対して優しい口調で言った。


 俺たちはイザーク辺境伯の屋敷を後にしてかなり遅めの昼ご飯にすることにした。


 いつもの事なのだがレストランに入ると俺たちはほとんどの場合、店の外側の席に案内される。恐らく美女4人の集客効果を店側が狙っているのであろう。


 俺たちが席に座って少しすると昼過ぎでガラガラだった店内が徐々に騒がしくなってきた。これはお金とってもいいのではないだろうか?


 そして俺たちの隣の席を指定する2人組の男たちが現れた。ライナーとブラムだ。


「今からご飯ですか? 私たちが言うのもあれですけど遅いですね?」


 クラリスが聞くとライナーが


「ああ。イザークの街を隅から隅まで観光しようと思ってな。マルス、今夜俺とブラムは別行動にさせてもらえないか? もしかしたらバロンも連れていくかもしれないからそのつもりで」


「ええ。分かりました。どこに行くんですか?」


「ちょっと……な?」


 俺の質問にブラムが答える。すぐに娼館だと分かった。そう言えばここイザークにはかなりの数の娼館があったな。騎士団員の精神を安定させるためなのかもしれない。


「男だけですか。たまには良さそうですね……では僕も」


 俺の言葉にクラリスが


「マルスが行くところだったら私も興味あるからついていくね」


 可愛く俺に言ってくる。だけどどこに行くかは分かっているようだ。更にエリー、カレン、ミーシャも


「……私も……一緒……店の中でも……一緒……」


「じゃあ私も行くわ。男の人たちが夜にどこに行くのか興味あるし」


「私も行くよ。マルスが犯罪者にならないように見張っとく」


 この反応にライナーが


「マルスは……な? まだ体が本調子じゃないだろ? 宿でゆっくり休んでいるといい。クラリスたちもマルスをいつものように癒してやってくれ。俺たちはバロンを少し元気づけに行くだけだから……な?」


 ライナーに裏切られた。ただ俺も娼館で何をしたいという事はない。前世と今を含めての初めてはクラリスと心に誓っているのだ。ただ興味だけはあるという程度だ……と思う……


 その後も買い食いをしながら街を歩いたり、話をしたり夜まであっという間だった。


 夕飯も食べ終わり宿に戻るとまだライナーとブラムは帰っていなかった。リビングではミネルバとドミニクが談笑をしていた。どうやらバロンは2人に連れていかれたようだ。


 俺たちは大部屋以外にも何部屋か部屋を取っているので各々思い思いの部屋でお風呂に入り、またリビングに戻ってきた。


 相変わらずミネルバとドミニクが良い雰囲気で談笑していたが、ミネルバが俺を見つけると話しかけてきた。


「ねぇマルス君。また新しい縛り方覚えたの。今度見せるから楽しみにしていてね」


 張り切った様子で言ってくる。今度は誰が被害者になるんだ。まぁ順当にいけばドミニクだが……そのうちミネルバ被害者の会でも結党されるのではないだろうか……


 俺はそのまま寝室に行って魔法の練習をしながら寝ようとしたが、エリーが俺の寝室に来ていきなり布団に潜りこんできた。


「……みんなで……マルス……マッサージ……揃うまで……マルス成分……吸収……」


 最近のエリーのブームである俺の左の首筋に顔を埋めて思いっきり息を吸い込んだ。これ最初はくすぐったかったのだが、今は頭のてっぺんからジーンと痺れる感じがするようになってきた。き、気持ちいい……


「え、エリー、今日買ってきた杖を持ってきてくれないか?」


 相棒が起きたのでたまらずエリーにそう言うとエリーが


「……みんなが来るまで……独占……来てからでいい?」


 俺の左腕を抱えながら言う。こんなの断れるわけが無い。


「あ、ああ。じゃあ誰か来たら持ってきてくれ」


 ミーシャが来る10分間俺は耐え続けた。


「マルス。待ったぁ?」


 ミーシャが寝室に入ってきてエリーが俺に絡みついているのを見ると


「エリリンずるい! 私も!」


 ミーシャもベッドに入ってこようとする。


「ミーシャ。その前に杖を取ってきてくれ。あれがないと落ち着かないんだ。頼む」


「取ってきたら入っていい?」


 と聞いてきたので「もちろん」と答えると、すぐにミーシャは賢者の杖(偽)を持ってきてベッドに入ってきた。俺は賢者の杖(偽)を枕の下に敷くと相棒が正常に戻っていった。


 しばらくしてクラリスとカレンが一緒に寝室に入ってきて俺へのマッサージが始まる。美女4人によるマッサージは刺激が強いがとても気持ち良かった。今回は前回のように地雷を踏むことなくマッサージが無事に終わり【黎明】女子たちはそれぞれの部屋に戻って眠りについた。


 俺は少し興奮気味だったのでリビングに行って心を落ち着かせようとした。さっきまでリビングに居たミネルバとドミニクの2人は部屋に戻ったようだ。するとそこにライナー、ブラム、バロンの3人が戻ってきた。


 ライナーとブラムはすでに風呂に入ってきたらしく、そのまま部屋に戻って寝た。だがバロンは俺に


「今から風呂に入ってくるから、少し待っててくれないか?」


 そう言って風呂に入っていった。バロンはすぐに風呂から上がってきて俺に一言


「……結局……中に入る事は出来なかった。ずっと外にいた。俺はここまで来て何やっているんだと……」


 俺はバロンの話を黙って聞いた。


「入ろうとするとクラリスとミネルバ、そしてカレンの顔が頭をよぎるんだ……そしてもう1人の俺がこう言うんだ。ここは超えてはいけないと……俺はヘタレか?」


「そんなことはない。俺だって同じだ。興味はある。いつかは行ってみたい。だけど最初の相手はもう決めてある」


 俺が言うとバロンが信じられないような顔をして俺に


「最初の相手って……いつかマルスは……そうか……ライナー先生やブラム先生よりもマルスは上という事か……」


 えっ? ライナーもブラムも何もしないで帰ってきたの? 案外2人もヘタレなんだな……するとバロンが俺に


「今日の事は俺の胸にしまっておく……だが俺にはその気はないから……勘違いはしないでくれ。おやすみ」


 うん? 俺なんか変なこと言ったか?


「あ、ああお休み。ちなみにバロンどこに行ったんだ?」


 するとバロンが1枚の名刺のような物を俺に差し出した。そこにはこう書いてあった。


「オカマBar 髭女将」

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