第120話 常識と命の重さ

「ウピアルの反応が……消えた? おい! お前至急ウピイル、ウピウル、ウピエル、ウピオルの4人を私の所に連れてきなさい!」


 近くにいた配下に命じるとすぐに4人を招集しに行った。


 まさか私の部下の5伯爵の筆頭伯爵のウピアルがそう簡単にやられることは無いと思うが……A級冒険者に勝てなくても、負けない戦いが出来るはずなのだが……確かウピアルはリスター連合国へ派遣していたはずだ……もしかしたらS級冒険者の剣神が動いたか? いや……あいつは今、天大陸に行っているはずだ……だがもしも剣神が動いていたらこちらはただでは済まない。もしかしたら私を含めたすべての吸血鬼が根絶やしにされる可能性もある……


「カミラ様! ただいま馳せ参じました」


 4人の兄弟、つまりウピイル、ウピウル、ウピエル、ウピオルが私の前に片膝をついて頭を垂れている。


「お前たち! ウピアルがリスター連合国で死んだ可能性がある! ウピアルがもしやられるとしたら相手はかなりの大物の可能性がある。A級冒険者、もしかしたらS級冒険者の可能性もある! しばらくの間リスター連合国にちょっかいを出すのは禁止だ! いいな!?」


「なっ! 兄がやられた可能性があると!?……本来であれば仇討ちをしたいのですが……兄が負ける相手に我々が勝てる理由が見つからないのは確かです……承知いたしました……」


 ウピイルがそう言うと他の3人も頷いた。こんなところで躓くわけにはいかない……あいつらにウピアルの死はバレないようにしなければ……


 ☆☆☆


 エリーが言っていたマルスの本気は光ると言っていたけど……あのウピアルというヴァンパイアのステータスはとんでもなく高かった。それなのにマルス1人で倒すなんて……


 あの光る魔法の攻撃力はとんでもなく高い。初めて見たけどあれは雷か神聖魔法か……まだマルスは10歳……普通であればこれから強くなる年齢……それなのにもう既にB級冒険者……少なくともレッカよりは強い。


 なぜならレッカではあのヴァンパイアはどう考えても倒せないからだ。もしかしたら1番A級冒険者に近いのはマルスなのでは? 私も魔眼と類い稀なる魔力の高さでフレスバルド家の次女として認知されたけどマルスには遠く及ばない……マルスに出会えて本当に良かった。マルスに出会えなければ私はまだ井の中の蛙だった……



 ☆☆☆


 ウピアルは強かった。雷魔法が無ければ絶対に負けていた。やはりもっとこの雷魔法を磨くべきか……止めを刺した俺のレベルが上がっていた。人を倒してもレベルが上がるのか……



【名前】マルス・ブライアント

【称号】雷神/風王/聖者/ゴブリン虐殺者

【身分】人族・ブライアント伯爵家次男

【状態】良好

【年齢】10歳

【レベル】29

【HP】74/74

【MP】3241/7887

【筋力】71

【敏捷】71

【魔力】90

【器用】70

【耐久】64

【運】30


【固有能力】天賦(LvMAX)

【固有能力】天眼(Lv9)

【固有能力】雷魔法(Lv8/S)

【特殊能力】剣術(Lv9/A)

【特殊能力】火魔法(Lv3/E)

【特殊能力】水魔法(Lv3/E)

【特殊能力】土魔法(Lv4/D)

【特殊能力】風魔法(Lv9/A)

【特殊能力】神聖魔法(Lv7/B)


【装備】雷鳴剣

【装備】火精霊の剣サラマンダーソード

【装備】偽装の腕輪



 耐久以外が全て70を超えた。今回の戦いで色々思い知ったことがあるが今は何も考えることが出来ない。


「マルス!」


 俺の事を呼びながらクラリスが俺に抱き着いてきた。クラリスは泣いている。そして震えているようだ……


「クラリスもう大丈夫だ……なんとか倒せたよ」


「マルス……震えてる……ごめんね……」


 クラリスが俺の目元を拭い、俺の手を握った。どうやら俺は泣いていたようだ。そしてクラリスが震えていると思ったのだが、実は俺が震えていたらしい。人を殺したことで精神的にかなりダメージを負っていたのかもしれない。俺は震えている自分の手を見ながら


「ははは……いくらレベルが上がってもまだヘタレは治らないらしい……」


「そんなことない……マルスは日本でもグランザムでも私を助けてくれた。そして今もマルスが居なければ間違いなく私たちは全滅していたわ……本当にありがとう。そしてマルスにばかり背負わせてごめんね」


 クラリスが泣きながら俺をもっと強く抱きしめる。


「イザークに戻ろう……さすがに疲れたからもう休みたい」


 そう言うとクラリスは俺から離れたが今度はエリーが俺に抱き着いてきた。エリーも目に涙が溢れているのが分かる……エリーの次はカレンとミーシャが飛び込んできてくれた。みんな心配してくれていたんだな……


 俺等がイザークへ戻るまでの間にもう魔物と遭遇することは無かった。


 やはりウピアルのあの壁から魔物が出てきていたのであろう……本当はウピアルに壁の事をもっと聞きたかった……イルグシア迷宮からグランザムに行った時の壁と酷似していたからだ。


 もしかしたらあの壁は門魔法というのかもしれないな……固有能力ではなかったからウピアル以外にも使える者がいるのだろう。もしも会う事があればその人に門魔法の事を聞いてみよう。


 イザークに着き、俺はすぐに宿屋に戻った。イリーナへの報告はカレンが中心となって引き受けてくれた。今はとにかく休みたいからお風呂に入り、魔力の枯渇をさせずにそのままベッドに潜って泥のように眠りについた。


 何時間寝ただろうか? こんなに寝たのはいつ以来だろう? 相当寝てしまったらしく体が重い……ゆっくり目を覚ますと俺の目の前にはクラリスがいた。クラリスは添い寝をしながらずっと俺の顔を見ていた。


「マルス? 起きたの? 大丈夫?」


 クラリスの目にどんどん涙が溜まっていき、涙声になっていた。


「うん……ちょっと体が重い……けど大丈夫……」


 俺が言い終わる前にクラリスは俺の顔をクラリスの胸に引き寄せた。俺の顔が服の上からとはいえ、クラリスの柔らかい2つの丘に挟まれる。こ、これは……男の夢のパフパフというやつではないか! 柔らかい……いい匂い……俺がそんなことを思っているとも露知らずクラリスは


「本当に良かった……精神的ダメージが大きくてもうマルスが起きないかと思った……他の人たちはこんなの日常茶飯事だから大丈夫って言ってるけど、私たちは日本での経験というか常識があるから人を殺めるのは……」


 もう最後の方は泣いていて何を言っているか分からなかったが、言いたいことは分かった。命の重さと常識が日本と……地球と全く違うのだ。


「クラリス。ありがとう」


 俺はそう言いながらクラリスの腰に手をまわしてクラリス成分を思いっきり吸収した。するとクラリスが


「も、もう元気になったようだからみんなに伝えてくるね」


 クラリスが顔を赤くしながらそそくさとベッドから出る。なぜなら俺のキカン棒が何度もクラリスの膝をノックしたからだ。もう少し自重してくれれば最高の時間をもっと堪能できたのに……頼むよ相棒……


 クラリスが部屋から出ていきしばらくするとバロンとミネルバ以外の【暁】メンバーが俺の所にやってきた。


 キカン棒がイキり立っている俺は布団から出られないし、仰向けにもなれない。そんな俺を見てクラリス以外のメンバーが心配している。エリー、カレン、ミーシャの3人は目が潤んでいる。ざ、罪悪感が……


「みんな心配かけてすまなかった。今は寝すぎて体が重いんだ。もう少ししたら部屋を出るから待っててくれないか? それにしても今何時だ? かなり寝ていたようだけど……」


 俺がそう聞くとクラリスが


「今は13日の7時よ。マルスは15時間くらい寝ていたわ。ショートスリーパーのマルスが10時間以上も寝ているなんて心配で……」


 じゅ、15時間か……何日も寝ていた感覚だったが……クラリスが皆に目配せをして寝室から出ると他のメンバーもみんな出て行った。ふぅ……自家発電っと……


 1時間くらい経った後、俺は誰にも見つからないように風呂に入った。特にエリーに見つかってしまうと匂いで自家発電したことがバレてしまうかもしれないからね。


 風呂に入ってからみんなのいるリビングみたいな広い部屋に入るとすぐにエリーが抱き着いてきた。俺の首筋に顔を埋めて思いっきり息を吸い込んでくる。く、くすぐったい……


「……もう……大丈夫……?」


 エリーが俺の耳元で囁いてきたので俺は黙って頷いた。


 その様子を見たカレンとミーシャも俺の左右から抱きついてきてエリーと同じように俺の首筋に顔を埋めて思いっきり吸い込んできた。


「この光景を見たら世界中の男がマルスを敵だと思うだろうな……本当に羨ましい限りだ……1度でもいいから体験したいものだよ」


 俺の事を見ながらドミニクが言うとライナーも


「俺たちにもこういう青春が欲しかったなぁ。な、ブラム」


「全くだ。世界広しとは言えこれだけの美女に囲まれるのは1人だけだろう」


 た、確かに俺もそう思う……だけどそろそろ俺の相棒がまた目を覚ましそうだ……


「さ、3人ともちょっといいかい? バロンとミネルバを呼んでくるから。後で俺の力の事をみんなに知らせておきたいんだ」


 俺がそう言うと3人の美女たちは分かってくれたらしく俺から離れてくれた。ちょっと残念だが仕方ない。


 そしてバロンとミネルバがいる部屋の扉の前まで行った。


 この時俺は扉の奥で何が行われているか知る由もなかった……

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