第84話 ルーティーン 後編
2030年3月1日16:00
俺たち【黎明】のメンバーはいつものように放置されているクエストを眺めている。
【紅蓮】のように早く知名度を上げて、絡まれないようにするのが目的だ。
最初は冒険者ランクを上げる気が無かったのだが、低ランクだと俺のようなハーレムパーティは冒険者たちに良く絡まれると、サーシャに言われてから、C級冒険者に早くなろうと決めたのだ。
俺とクラリスとエリーはアルメリア迷宮、イルグシア迷宮の功績があり、すぐにでもC級冒険者になれると言われたが、それはそれで何か言われそうな気がしたので、その功績を抜きにしてC級冒険者を目指している。
しかし、この学術都市リーガンに迷宮なんてあるわけもなく、外の魔物もリーガン公爵のリーガン騎士団により討伐されており、一気にランクアップできるようなクエストはない。
ちなみにこのリーガン騎士団はリーガン帝国学校の卒業生のみで構成されるエリート騎士団らしい。
入隊条件がリーガン帝国学校卒業でD級冒険者以上限定とかなり狭き門だが、その分待遇、俸給などは抜群との事だ。
「放置されているクエストないわねぇ……」
カレンがそう言うと、俺が
「いや、またこれ系のクエストがあるだろ……」
そう。いつものように残っているクエストがある。
それはスラム関係のクエストだ。
この巨大都市リーガンはとても華がある都市だ。
毎年のように世界各国から一流の子供たちが集まり、一流の学校生活を送っている。
だがどうしても光ある所には闇が生まれる。
この学校の退学者、このリーガンで犯罪を犯した者、もともとこの都市で何かを企んでいる者……
こういった者たちは街の南の方にあるスラムに住み着く。
リーガン公爵もスラムの治安維持に力を注いでいるが、やはり治安はかなり悪い……
そしてスラムからのクエストは報奨がとても低い。
だから他の冒険者たちはスラムのクエストを嫌がるのだ。
「依頼内容は……幽霊屋敷で幽霊の退治?」
俺がそう言うとミーシャが急にはしゃぎ出して
「やりたい! やりたい! 幽霊見てみたい!」
ミーシャは昔の経験を乗り越えたからか、かなりこういうのが好きなのである。
一方でこれ系がとても苦手な者がいた。
そう、さっきこのクエストを見えないふりをしたカレンである。
「嫌よ! こういうのは【紅蓮】に任せましょう! ねぇクラリス!?」
クラリスもあまりこういうのは得意ではないのをカレンは知っている。
だからクラリスを味方につけようとしているのだ。
「私もできればやりたくないけど……でもこれしか無さそうだし……エリーはどう思う!?」
「……別に……マルスがやるならやる。やらないならやらない……」
相変わらずエリーは自分の意見を言わない。
みんなが俺の発言に注目すると
「じゃあカレン。こういうのはどうだ? 今16:00だろ? まだ明るい。日が暮れる前の18:00までやってみるというのは? もしも怖いのが和らぐのであれば、俺がずっと手を握っていようか?」
「分かったわ。じゃあ手は絶対に離さないでよ」
そう言ってカレンは俺と手を繋ぎ始めた。
なぜ今から手を繋ぐ必要が? と思ったが、可愛かったので突っ込まなかった。
幽霊屋敷は普通の家よりかだいぶ広い家だった。
アルメリアで借りていた屋敷くらいの大きさはあった。
「結構いい屋敷だよなぁ。事故物件じゃなければ住みたいくらいだ」
俺がサーチを使う前にミーシャとエリーが屋敷の中に入っていく。
やはりエリーもこういうのが好きなようだ。
そしてカレンが左手を強く握りしめると、俺の右手を握る者がいた。
クラリスだ。やっぱりクラリスも苦手で
「こっちの手いい?」
と聞いてきたので「もちろん」と言って俺の両手は塞がった。
なかなかカレンの決心がつかないのか、中に入るのを躊躇っていると、すぐにミーシャとエリーが出てきて、「何もない。つまらなかった」と言ってきた。
結局俺とクラリスとカレンは屋敷の中に入ることは無かった。
それを男のギルド職員がじっと見ている。
何故ギルド職員がいるかと言うと、屋敷に入ってもいないのに何もなかったと報告されるのを防ぐためだ。
男のギルド職員は俺の方を不快な目で見ている。
(なんでこいつは美女と手を握っているだけなんだ? 屋敷に入っていった女は使い捨ての都合のいい女なのか?)
と思っているのがすぐに分かった。
完全にギルドから俺に対しての好感度が下がってしまった。
冒険者ギルドに戻ると17:00を過ぎたくらいで、いつもよりも少し早いが夜ご飯を食べることにした。
今日はカレンとミーシャと一緒に食べる日だ。
なぜみんなで食べないのかと言うとクラリスからの提案だった。
カレンとミーシャはクラリスとエリーに遠慮をしてなかなか俺に話しかけることができないらしい。
そんなことは無いと思うのだけど……
クラリスとエリーと食べる日、カレンとミーシャで食べる日、そしてみんなで食べる日の3つに分けようと言ってきたのだ。
クラリスは気配りのできる奥ゆかしい女の子なのです。はい。
またカレンとミーシャはクラリスとエリーと外では隣同士で歩くことを嫌がる。それは体形だ。
クラリスとエリーはもう大人と変わらない体形をしている。
一方のミーシャはまな板の学童体形で、カレンは胸は少し膨らんでいるが、身長はミーシャよりも低い。
どこからどう見ても姉たちと妹たちになってしまうのだ。
クラリスからの提案があった時、カレンとミーシャは飛び跳ねて喜んだ。相当気にしていたのだろう。
クラリスとエリーは先に帰り、寮の食堂でご飯を食べる。
俺とカレンとミーシャはお洒落な雰囲気のお店に入って楽しいディナーを取る。こんなことをしているから周囲の冒険者に疎まれるのだが、もうそれはしょうがない……違う所で挽回しなくては……
3人で食べるときは必ず20:00までには帰ることにしている。
流石に遅くなるとクラリスとエリーにも悪いしね。
全員で食べるときは門限の21:00までだ。
ご飯を食べ終えて、リーガンの街をゆっくり学校に向かって歩く。
そして女子寮の近くになったら、俺は2人が女子寮に入るまで遠くから見守る。どうして近くまで行かないかと言うとエリーに女子寮付近には来てはダメだと口酸っぱく言われているからだ。
俺はその後、自分の部屋に戻りシャワーを浴びて0:00まで魔法の練習をする。今はずっと部屋で剣を作っている。
ダンベルやパワーアンクル、ベンチプレスなどを土魔法で作って作る物が無くなったと思い、何かないかなと思ったら俺専用の剣が無いことに気が付いた。
俺が外を見ながら魔法の訓練をしている時に、寮から脱走している2つの影が見えた。
俺はサーチでその影を探索したら、ヨーゼフとヨハンだった。
もう0:00近いのにこれからどこに行くのだろう。
俺はそう思いながら魔力を枯渇させるのであった。
2030年3月2日
またいつものように3時に起きて朝の日課を始める。
マラソンに筋トレだ、そのあとは朝シャン、朝風呂。
そしてご飯を食べて登校して、生徒会に顔を出すとすっかり顔色が良くなっているアイクがもう生徒会長の席に座っていた。
「アイク兄。おはようございます。お加減はどうですか?」
「あぁ。心配をかけてすまなかったな。すっかり良くなったよ」
アイクは元気そうに見えた。
俺たちは軽い雑談をしてそれぞれの教室に向かった。
朝のホームルームが終わると早速俺はリーガン公爵に呼ばれて校長室に入るとサーシャもいた。
「マルス君。今日私が呼んだ理由は分かるわね?」
俺は「分かりません」と惚けると
「あなた風王の称号持っているでしょ? 風王の称号を得たのは4年前で間違いないかしら?」
え? なんで時期まで分かるんだと思っていると俺の表情を読んだサーシャが言った。
「まさか、マルス君だったのね。という事は最初に私に会った時にはもう既に風王だったのね。まぁ無詠唱でのウィンドカッター、トルネード、ファイアストームを見た時に気が付くべきだったのかもね」
サーシャよ……それは内緒にしておいておくれ……
「どうして4年前って思ったのですか?」
俺がそう聞くとサーシャが
「私、実は元風王なのよ……4年前に急に風魔法の威力が弱まったと思ったら風王の称号が無くなっていたの……風王の称号はほとんどエルフが独占しているからまさかマルス君とは思わなかったのよ……」
あ、俺の風王はサーシャの物だったのか……そう言えばサーシャは会った時から風魔法レベル8だったな……
「申し訳ございません。仰る通りです……」
俺は素直に認めた。
「このことを知っているのは?」
「家族と婚約者だけだと思います」
「というとカレンとミーシャは」
「知りません」
次はサーシャから質問があった。
「昨日20:00ごろカレンちゃんとミーシャを女子寮に送ってくれたわよね?」
「はい。送りましたが……何か?」
「なぜ女子寮の前まで来なかったのかしら。遠目で見ていたようだけど……」
あ、もしかしたら自分の娘をちゃんと送っていかないから怒ってるのかも……
「エリーに女子寮には絶対に近づくなと言われておりますので。ただ、ちゃんと女子寮の中に入ったことだけは確認したくていつも遠目で見ております。ミーシャをしっかり送れなくて申し訳ございません」
「そういう事だったの。ありがとう。マルス君も大変ね」
サーシャはウィンクをして許してくれた。
このお母さんの可愛さも破壊力抜群なんだよな……
この話をリーガン公爵が聞いて何かつぶやいている。
「マルス君と同居…… エリーさんは嫉妬深い……女子寮に近づくの禁止……」
きっと良からぬことを考えているのだろう。
名案が浮かんだようでスッキリしたような顔で
「では最後の質問いいかしら?」
リーガン公爵がそう言うと俺は頷いた。
「ライナー先生と本気で戦って勝てそう?」
「分かりません。風魔法を駆使すれば何とかというレベルでしょうか」
「……そうですか。分かりました。もう戻っていいですよ」
リーガン公爵は俺にそう言うと、後ろを向いてサーシャと何か話しているが、俺は気にしないようにし、そのまま校長室を出た。
☆☆☆
「マルス君にライナーを任せるつもりですか!? 公爵」
マルスが校長室を去った後にサーシャが私に対して少し声を荒げた様子で聞いてくる。
「……分かりません……」
「でもこのままでは必ず2人はぶつかります! せめてブラムのことだけでも教えるべきではないのですか?」
「それを言ってしまったらライナーが負けてしまうでしょう……」
「ではマルス君に死ねと言うのですか!?」
徐々にサーシャは興奮してきて今は感情を剥き出しにしている。
「そんなことは言っておりません。ただ……ライナーも苦しんでいます……もしかしたらライナー以上にブラムも……彼らはこのリスター帝国学校を卒業してからずっと、18年前からずっと苦しんでいるのです……」
「では誰がそのライナーの呪縛を解いてあげるべきなのですか?」
サーシャの冷たい声が教室に響くと思わず涙が零れてしまった。
「分かっております。私がやらないといけないことくらい……そのせいで、何人もの命が失われたことも……」
私たち会話の最中にノックもしないで部屋に教頭が入ってきた。
「スラム街にてキュルスの遺体の
その日のうちにキュルスの死が学校中に知れ渡った。
-----あとがき-----
リーガン公爵が黎明のパーティ部屋を女子寮に作るというのは
この日に決定されたのかもしれません。
-----あとがき-----
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