第70話 リーガン公爵

「どうしてサーシャさんがいるんですか?」


 俺は疑問に思いサーシャに聞くと、サーシャは


「あら、言ってなかったっけ? 私が明日の試験3日目の実技試験の責任者よ。まぁキュルスと同じ立場ね」


「ちっ、あと少しでこの小僧の泣きっ面を拝めたのに止めやがって」


 キュルスが悪態をつくとサーシャが


「良かったわね。剣聖様に本気を出されなくて」


「いえ! 僕は十分本気でした。もうこれ以上は無理だと思うくらいでしたので!」


 俺は必死になって取り繕う。


 この学校でも剣聖として過ごした方がよさそうだ。


 魔法はあまり使えない設定にしておかなければな……そのためにはサーシャの口封じをしなくては……俺はサーシャの前でトルネードやファイアストームを使っているからサーシャは少なくとも3年前の俺の実力は知っている。


「サーシャさん。お願いですから後でお話をさせて頂けませんか?」


 俺がそう言うと、サーシャはにやりと笑って


「いいわよ」


 サーシャは俺が実力を隠したいのを知っていてこのタイミングでここに来たのだろう。


 完全に謀られたな……


 その後、俺とクラリスとエリーの3人は2日目の実技試験をすぐに切り上げられた。


 そしてサーシャとキュルスに別の場所に連れていかれた。


 ちなみにミーシャはまだ試験を受けている。


「どこに行くんですか?」


 俺が警戒しながら聞くとサーシャは「悪いようにはしないから黙ってついてきなさい」と言ってスタスタ歩いていく。


 サーシャが先頭で俺とクラリス、エリーが真ん中、最後尾にキュルスがいる。


 まるで俺たちを逃がさないというようなフォーメーションだ。



 クラリスとエリーも不安そうに俺の左右にぴったりとくっついている。


 後からキュルスがチンピラのような歩き方でついてくる。


 いや正直めっちゃ怖いんですけど……


 サーシャは大きな扉の前で止まるとノックをして


「サーシャ・フェブラントです。例の3人を連れてまいりました」


 サーシャが緊張感のある声で扉の向こうに話しかけると中から「入りなさい」と女の人の声が聞こえた。


 中に入るとこれまた綺麗な妖精族エルフの女の人がいた。


 髪の毛の色は緑ではなく薄い青だった。


 俺とクラリスとエリーは綺麗な妖精族エルフの前まで連れてこられた。


「初めまして。私はこのリスター帝国学校の校長でこのリーガンを治める、リーガン公爵セーラ・エリザベスです。マルス君、クラリスさん、エリーさん。ようこそリーガン帝国学校へ」


 うわ、この学校の校長先生がリーガン公爵なのか……


「あ、初めましてマルス・ブライアントです。よろしくお願いします」


 心の準備ができていなかったから、普通の挨拶になってしまった。


 もっと貴族の子供らしく立ち振る舞わないといけないと思う。


 俺の挨拶を見てかクラリスとエリーも同じような簡素な挨拶になってしまっている。



 するとリーガン公爵はずっと俺の目を見ている。


 口元で「ブライアント……って」と呟いている。


 リーガン公爵から何か感じるのだが……なんだろうこの嫌な視線は……


 もしかしたら鑑定されているのかなと思った。


 そう思って俺はリーガン公爵を鑑定すると



【名前】セーラ・エリザベス

【称号】風王

【身分】高妖精族ハイエルフ・リーガン公爵家当主

【状態】良好

【年齢】284歳

【レベル】65

【HP】89/89

【MP】724/824

【筋力】36

【敏捷】62

【魔力】104

【器用】72

【耐久】32

【運】5


【特殊能力】魔眼(LvMAX)

【特殊能力】水魔法(Lv7/B)

【特殊能力】風魔法(Lv9/A)



 まず驚いたのが284歳という事だ。そして高妖精族ハイエルフ


 それに風王の称号を持っている。俺と同じという事か……レベルとステータスの値もかなり高い。


 そして何よりスキルの魔眼というのがとても気になった。


 スキルの魔眼を鑑定しようとすると、リーガン公爵が驚いた様子で


「もしかして私を鑑定できるのですか?」


 と聞いてきたので俺は慌てて


「いえ、とても……その綺麗だなと思って見惚れてしまいました。申し訳ございません」


 と取り繕った。魔眼を鑑定できなかった。


 そう思っていると俺は左右からの強烈な視線に気が付いた。


 クラリスとエリーが嫉妬してくれている? のか俺を睨んできている。


 後でちゃんと弁解しよう……


「いいのです。もし興味があるのであれば後で来て頂いても構いませんよ。私もあなたに興味がありますから」


 大人? の色気を振りまいてリーガン公爵が言うと余計にクラリスとエリーの機嫌が悪くなった。


「公爵、冗談はそこまでにしてください。用件をお願いします」


 サーシャが地獄の空気を解消してくれた。ありがとう。なんでも言う事聞きます。


「そうですね。それではここに呼んだ理由をお教えしますね。あなた方3人をSクラスの特待生扱いとしての入学を認めます」


 俺たち3人はポカーンとして3人で見つめあう。


「え? いいんですか? 明日の試験を受けなくても?」


「ええ。結構です。1人はB級冒険者と互角に、1人はメイン武器ではない剣でC級冒険者を倒し、1人は本気を出さずにC級冒険者を圧倒。またマルス君とクラリスさんは昨日の筆記試験も満点でしたし、文句のつけようがないのです。これでSクラスでなかったら誰をSクラスにするのかというレベルです」


 筆記試験満点は凄いうれしい。するとキュルスが


「公爵。俺への褒美も忘れないでくれよ。こいつらがここに来た理由の1つは俺だと思うからな」


「ええ。キュルス。とっておきの褒美を用意しておくから期待しておいて」


 リーガン公爵がキュルスにそう言うとキュルスは満足そうに頷いた。


 リーガン公爵は改めて俺の方に向かって話を始めた。


「マルス君にここに来て頂いたもう1つの理由は1月1日の入学式なのですが、1つ謝らせてもらいたいことがあります。それは新入生代表の挨拶なのですが、あなたは筆記も2日目の実技も満点で明日の実技が何点でも本来であればあなたに挨拶をしてもらうのですが……」


 リーガン公爵はとても言いづらそうに俺を見ながら言ってくる。


「マルス君たちと同じくこの学校に今年入ってくる子の中にリスター連合国の筆頭公爵の子供がいてね。その子に新入生代表挨拶をしてもらう事になっているの……いいかしら」


「……絶対にダメ。マルスが1番……」


 と俺じゃなくエリーが答えた。


 だが恐らくエリーは俺がなんと回答するか分かっていて一言言ったのだろう。


「ええ。僕としてはむしろその方がいいです。できる事ならあまり目立ちたくないので……」


「マルス君ありがとう。エリーさんごめんね。何かで埋め合わせが出来ればいいんだけど……」


「……学生寮……一番広い部屋……私はマルスの妻……一緒に居なければいけない」


 一緒に居なければいけないって……これにはリーガン公爵も驚いて


「ごめんなさい。この学校の寮は男女分かれているの……でも9歳で結婚って……」


 サーシャが事情を説明すると


「ブライアント伯爵って……失礼だけどマルス君のお兄さんって……」


「はい。恐らくこの学校にアイク・ブライアントという人がいると思いますが、彼が僕の兄です」


 リーガン公爵はとんでもなく驚いている。


 サーシャも驚いているようでリーガン公爵に


「アイクってグレンですか?」


 と聞いてリーガン公爵が頷く。グレンってなんだ?


「ええ。確かにアイク君はこの学校に在籍しております。彼は来年4年生で、このリスター帝国学校の生徒会長です。それにしてもマルス君がアイク君の弟……」


「グレンって何ですか?聞かせて頂いてもよろしいですか?」


「えぇ。グレンね。アイク君はこの学校で紅蓮というパーティを結成したの。色々あってこの学校でアイク君はグレンと呼ばれているわ。詳しくはこの学校の学生にでも聞いてみるといいわ」


 アイク本気出し過ぎだろう……


「最後に1つ質問してよろしいでしょうか?」


 俺がリーガン公爵に尋ねると、リーガン公爵が頷く。


「Sクラスって何人いるのですか? できれば今わかる範囲で誰がSクラスなのか聞いておきたいんですが」


「ええ。この学校で今Sクラスがあるのは3年生だけ。つまりアイク君の学年だけ。今の3年生でSクラスは10人ね。本当のSクラスと言えるのは3人だけだったんだけど、さすがにアイク君がAクラスというのはおかしいだろうって思ってね」


 アイクの世代はほぼアイク1人の為にSクラスが作られたのか。さすがアイクだ。


「今回の新入生でSクラス確定なのは、ここに居る3人とサーシャの子供のミーシャ、そして北の勇者と呼ばれているバロン君、フレスバルド筆頭公爵の娘のカレンさん。そして入学するのが遅れるけどイセリア大陸から魔族の子2人。この8人は確実にSクラスね」


 8人か……結構少ないな……そう思っていると


「他にも多分デアドア神聖王国のドミニク君も恐らくSクラス。そしてリスター、バルクス、デアドアとSクラスに入れて、ザルカム王国からは入れないとはいかないから、ザルカムからも1人入れると思う。恐らく今年も10人位だと思うわ」


「質問に答えて頂きありがとうございます」


 俺がそう言うとリーガン公爵が


「それでは1月1日に待っているわ。もうすぐに入寮できるけどどうする?」


「……いいえ……結構です……」


 エリーが即答した。


 俺たちは無事?リスター帝国学校の試験に受かることが出来た。

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