第56話 事前準備

「うん!美味い!」


 オルと俺、アイク、クラリスと黒い三狼星とカレン、リサの8人で豪勢な肉料理を堪能している。


 この世界の常識からすれば奴隷と一緒に食事をするという事はまずありえない。


 普通であれば俺とアイクとクラリスが食べ終わり、その食べ残しとかを奴隷たちが食べるようなのだが、ブライアント家は違う。


 みんなで一緒に食べるのだ。だってみんなで一緒にワイワイ食べた方が楽しいじゃん。


 しかし来客があった時などは、一緒に食べられないと伝えてある。ただしそのような時でも必ず俺たちと同等の物を食べさせると言ってある。


 これは奴隷契約した時の衣食住の保障にはあたらないが、ブライアント家で決めたハウスルールだ。


 この環境を奴隷の5人は気に入ってくれたらしく、楽しい生活をスタートさせることが出来た。


「マルス、キラーアント1000匹だったら結構余裕で倒せそうじゃない?」


 クラリスが食事中に聞いて来る。


「うーん。俺はあまり火魔法得意じゃないからなぁ。アイク兄くらい火魔法のレベルが高ければファイアストームで倒せそうなんだけど、多分俺のファイアストームでは火力が低いから燃え広がらないと思うんだよね。あと酸とか飛ばされて消火されそうな気がするし。階段の所でずっとトルネードを撃ち続けているのがいいかなぁと思っているんだけど……」


「そうかぁ。トルネードだったら消費MPもファイアストームより少ないから、ある程度の持久戦も耐えられそうだもんね。ある程度ダメージを与えてくれればあとは私たちの一撃で倒せそうだしね」


「そうだね。ただ蟻って壁や天井も移動するかな?そうするとクラリスは魔法の弓よりも普通の弓矢の方がいいかもしれない。多分壁や天井に行く蟻は全てクラリスに頼むと思うから。魔法使いのMPはなるべく温存したいだろうし……」


「じゃあ明日は弓矢の調達をしなければならないな。1つ聞きたいのだが俺たちでは脅威度Bの魔物は倒せないのか? 脅威度Cなら倒しているから倒せるものだと思ったのだが……」


「僕はクラリスと一緒にイルグシアに帰って来る途中で脅威度B-の魔物と戦いましたが、死ぬかと思いました。僕が戦った相手の耐久が凄く高かったというのもありますが、もしも僕1人で戦っていたら先ほども言いましたが、死んでいたと思います」


「そこまで差があるのか……もうそろそろ俺もB級冒険者くらいのステータスがあるかなと思っていたが……」


「恐らく僕やアイク兄はステータスだけだったらまだC級冒険者クラスかと思います。ただ、僕たちの場合はスキルが高いので、もしかしたらB級下位グループくらいには入れるかもしれませんが……ただB級冒険者と1回手合わせをしたのですが、僕は簡単にあしらわれてしまいました。完璧に力の差を見せつけられました」


「マルスでそれか……まだまだこの世界は広いという事だな」


 その話を聞いていたガイが


「お2人がまだその位置であれば、我々は……獣人だからと言って少し驕っていたようで誠に恥ずかしい限りでございます。これからは精一杯精進させていただきますのでよろしくお願い致します」


「まぁ俺も少し驕っていた部分もあったしな。みんなこれからも頑張ろう。もちろんカレンとリサもまだ覚えてもらう事もあると思うからよろしくな」


 夕食が終わると俺は1人で迷宮に向かった。


 雷魔法の訓練をしようと思ったのだ。


 あまりにも威力が高いので安心して訓練出来るのが迷宮しかないのだ。



 まず纏雷を展開してみる。俺の周囲がの光で薄く包まれている。


 あれぇ? 雷って青白いよな? ただ俺が雷をしっかり見たのは1回だけでそれはクラリスと一緒にこの世界に来た時の雷だけだった。まぁ色は別に気にしなくていいか。


 纏雷は自分にはダメージは無いらしい。そして自分が身に着けている物に対してもだ。


 別に服が焦げたりしていないので、纏雷は自分に対しては無害という事が分かった。



 俺は纏雷を使いながら自分が思い描く雷魔法を試行錯誤しながら練習してみる。


 素質Sだから簡単に操れると思っていたのだが、そういう訳ではないらしい。


 雷を落とそうとしてもやはり上からは落ちてこない。



 通路を歩いていると目の前にコンドルが5羽いた。


 どうにかして雷魔法で倒せないかと思っていたら、名案を思い付いた。


 纏雷を放出するイメージで敵にぶつければいいと思ったのだ。



 俺は意識を集中して纏雷をコンドルに放った。


 すると俺の体から魔力が抜けるような感覚がし、俺の手先が光ったと思った瞬間、コンドルはもう焼け焦げていた。そして『ドゴォォォオオオン』という雷が落ちた轟音が鳴った。


 回りのコンドルも全て地面に落ちていて、音と衝撃と電気で気を失っている。


 光の速さほどではないかもしれないが、音よりは速いかもしれない。チート魔法か?……と思っていたが、代償も凄かった。消費MPが異常なのだ。


 正確に自分がどのくらいMPが残っていたのかは覚えていないが、もしかしたら1000は消費したかもしれない。スピードや威力を調節すれば消費MPが抑えられるかもしれないと思った俺は纏雷を展開して魔力操作に努めた。すると後ろから


「大丈夫? 凄い光と音だったけど……何しているの?」


 とクラリスの声が聞こえた。


「え!? どうして……ここにいるの?」


「いえ……ご飯食べたらマルスが家から出ていくのが見えて。心配だからついてきちゃった」


 クラリスがそう言って俺に近づいてくるので、俺も近づきながら話した。


「俺は魔法の練習をしていたんだ。周りに人や物があると迷惑が掛かる類いの魔法だから」


 クラリスの手を取るときに気づいた。まだ纏雷を解除していなかった!


「危ない!」


 俺がクラリスに言うも虚しく、俺の体からクラリスの右手に金色の雷が襲った。


「きゃぁっあ!!!」


 ………


 ……


 …


「あ、あれ?」


 確かにクラリスに纏雷が直撃したはずなんだが……


「だ、大丈夫か?」


「う、うん……なんだったの……今のは?」


「多分、今俺が訓練している魔法がクラリスに当たったんだと思うんだけど……本当に大丈夫? この前バーンズ様にダメージを与えた魔法だから早く使えるようになりたくて。だけど人前で練習すると今みたいなことが起きるかもしれないと思ったから1人でここにきて訓練しようと……」


「今の感覚はなんか懐かしい感じがした……私この感覚知ってる……と思う」


「雷魔法なんだ。俺も心当たりはある。多分あのコンビニの時の感覚じゃないかな?」


「やっぱり……私耐性があるってことかな?」


「どうだろうか……」


 もしかしたら聖女の法衣セイントローブのおかげかもしれないと思った俺はクラリスに


「ちょっと、あまり痛くはしないようにするから脱いでもらっていい?」


 俺の言葉にクラリスはきょとんとした顔をしてから顔を赤らめて


「ちょっ! な、何言っているの!? ここで!? ここでは嫌よ……」


 あ、間違いなく俺の言い方が悪かった……こりゃ絶対にセクハラ案件だよな。


「い、いや、そういう意味じゃなくて。もしかしたら聖女の法衣セイントローブのおかげでクラリスにダメージや状態異常の感電が与えられなかったのかなと思って。決してそういう意味じゃないよ」


「あ!……ちゃんと言ってよね」


 そう言ってクラリスは聖女の法衣セイントローブを脱いだ。


 なんかさっきの会話で妙に意識をしてしまって衣擦れの音だけでも……


 俺は煩悩を一生懸命断ち切り、なるべく平然と、


「じゃあ始めるよ、なるべく優しく……じゃなくて痛くないように……じゃなくて……とにかく傷つけないようにするけど、初めてでまだ魔力調整がうまくいかないから少しでも痛かったら言ってくれ」


 もう何を言ってもあっち系の言葉にしか受け止められないような気がする。


 だけどクラリスは分かってくれたようで、


「マルスを信じているわ。私も初めてだから、痛くしないで優しくしてね」


 と揶揄いながら言ってきた。


 俺は纏雷を極力弱くしてさっきクラリスに触れた方の手に触る。


 すると特に何もなかったように自然とクラリスの手が光った。


「これはやっぱり私に耐性があるってことよね?」


「うん。無効なのかな?」


「でもこれで私も一緒に潜れるね。いくらマルスでも一人で迷宮は危ないから」


「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて援護の方お願いするよ」


 そう言って俺は纏雷を敵に放出する魔法の練習をした。


 クラリスも魔法の弓矢マジックアローの消費MPをどうにか軽減し、それでも威力が落ちないように出来ないか試行錯誤している。


 俺のMPがだいぶ少なくなってきたし、時間が経ってしまったので


「あまり遅くなると明日に響くからもう帰ろうか?」


 俺がクラリスに言うと


「そうね。もしかしたら明日本番になるかもしれないから早く休みましょう」


 俺たちは誰にも気づかれないように家にこっそり帰ろうとしたが、黒い三狼星の3人をごまかせるわけがなく、見つかってしまった。獣人の嗅覚や聴覚恐るべし。


 アルメリアの治安はとてもいいがやはり危ないから2人で外に出るのは控えてほしいと言われてしまった。


「ごめんなさい」と2人で謝りながら、今度から風魔法で音とか匂いとか消さないと訓練と言う名の迷宮デートが出来なくなってしまうと考えながら部屋に戻った。

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