帰宅・一日の終わり
帰宅して早々、アンナは玄関前で靴を脱いで、籠手やらなどの装備を外す。
血で固まった服が気持ち悪いので、着ていた装備を急いで脱ぐためだ。
邪魔な装備を脱ぎ捨て、そして上の服も躊躇なく脱ぎ捨てた。
「おぉい!! 俺の前で着替えんなよ!」
「っても、血が気持ち悪くて我慢できなくてねっ!」
とりあえず上の服を全て脱ぐ。
まるでチョコレートをぶち撒くように、パリパリになったアンナの血が玄関周りに飛び散った。
これは後で掃除するとして、血が下着すら侵食している。このままだと、赤色の下着になってしまう。
それに血の臭いが酷い。買ってもらったばっかりなのに、この下着をダメにするのは嫌だ。
「んっ!」
「ちょっ、ばかヤロー!!」
躊躇いなく上の下着をむしり取るアンナ。思春期の中学生のように、デリバーが両手で目を覆い、「アア〜、変態〜!」と叫ぶ。
「うるさいわよデリバー!! 頭に響くでしょうがァ!!」
頭を抑えながら、ネイさんが自室から飛び出して来た。髪の毛がボサボサなのを見ると、今まで二日酔いで寝込んでいたようだ。
「だって、男として見ちゃったらダメでしょ!」
「おわっ、何がどうなってんの!?」
兄妹二人してギャーギャーと叫んでいる。
そんな二人を無視して、ネイは汚れた服を抱えて持ち、ネイさんのもとに行き。
「洗濯ってどこですか?」と上半身裸のまま聞いた。
「あ、アンナちゃん!? どうしたのその血!?」
「ちょっと汚れちゃって。それで洗濯は......」
全てを言い終わる前に、ネイさんがアンナから衣服を奪い、急いで洗濯室へ。
そこへデリバーが一枚のタオルを持って、アンナに渡してきたので、受け取ったタオルをさらしのように巻いた。
騒動も一通り片付いて、結局全ての服をネイさんに預け、アンナは一足早くシャワーを浴びていた。
「うう......。髪の毛に混じったゴミが取れん......」
何度洗っても、髪の毛を手で揉む度に砂利などのゴミが見つかる。
その作業の繰り返しにイラつき、久しぶりに地元の訛りが口に出てしまった。
「くぅぅ!! こんな、腹が立つんがやけどぉ!」
「アンナちゃん。ここに服、置いとくよ〜」
「あ、は〜い!!」
今の言葉聞かれていただろうか。聞かれていたとしたらなんか恥ずかしい。
「......髪。短くするかぁ」
この世界にきた時から、髪は伸ばしたままにしてある。
この体は髪が伸びるのに時間がかかるようで、放置していても意外と違和感のない長さであった。
今は腰くらいまで、青い髪が伸びている。個人的な理想は肩くらいまで届くかどうかだ。
「ボブカットにするかなぁ」
髪に気合いを入れるほど、そこまで心は女子じゃない。
自分が女という自覚はなく、はたまた男かと言われるとそれも違う感じがする。
前世の自分はもはや遠い存在だと、この世界に来てからつくづく思っていた。
「ネイさん家のお風呂、意外と大きいな」
シャワーを終えて、足を伸ばして肩まで湯に浸かる。足を曲げなくてもお風呂に体が収まるとは。
こんなに大きなお風呂、今はないおばあちゃんの家にあった。
「ふいぃ......。はぁ〜〜ん......」
今日は一段とお風呂が気持ち良く感じる。このまま眠りたいくらいだ。
「少し目を閉じるかぁ」
左腕を浴槽から出して頭を縁に置き、アンナは目を閉じ瞑想した。
アンナがお風呂に入っている間。
デリバーとネイは「対アンナどうしよう会議・第二回」を、テーブルを挟んでお互い正面に向き合って開催していた。
「それで。見てたんでしょ? あの血はどうして......」
「ああ。ありゃ、アンナが首斬られたせいだ」
心配するネイに、あたかも「斬られたらそうなる」と当然のようにとんでもないことを言うデリバー。
「なんですと!? アンタなら危険な真似はさせないと思って頼んだのに、何死なせる思いさせてんの〜〜!」
ネイに首元の服を掴まれ、ぶんぶんと体を揺さぶられる。
「まあ落ち着け」とネイを宥めて、デリバーが言い訳を口にした。
「アンナは過去に臓器が吹っ飛ぶほどの傷を受けて、それすら再生したらしい。その話が本当かどうか確かめたくてな。首を斬られるとわかってても、あえて割って入らなかった。あと実力も測っておきたかった」
「でも死んでたらどうしたのよ!」
確かにネイの言う通りだ。アンナの言っていたことが嘘だったら、あの場でアンナは死んでいたことになる。
しかしデリバーだってただの人間じゃない。強さだけなら上位種と自負しているように、首を斬られて死にかけていたとしても、助け出す手段は持っていた。
「もしもの責任は果たすつもりだった。あの力を応用してな。だから......わかるだろ?」
「うっ......」と何かを言いかけていたネイも、不服そうではあるが、これ以上の追求は無駄だと分かってか黙り込んだ。
二日酔いもだいぶマシになったとはいえ、アンナとデリバーの無茶がいつか身を滅ぼすかもしれないと想像し、ネイの頭痛が酷くなっていく感じがした。
いや、身を滅ぼすかもしれないというのは間違っている。正確には、間違いなく......。
「ああ、頭痛いわぁ......」
今きいたこと。そして未来視で知ってしまったこと。色々な情報がごっちゃになって、ネイは頭を抱えた。
「すまん」と反省したのかしてないのかわからない調子で謝るデリバー。
顔をあげてジロリと睨み返し、その視線を受けてネイの気持ちを察し、話題を変えて宥めようとするデリバー。
「まあまあ。アンナが風呂から上がったら夜飯にしよう。今日は俺が作る。と言っても、鍋料理だがな」
「うわ。効率飯だ」
「おいおい、美味いからいいだろ別に」
もう夜飯の準備にしないとならない時間だ。
ネイはもちろん、デリバーの両者とも時間の流れを早く感じていた。大人になれば、子供の時には無限に感じた一日すら、全て自分で計画できるようになるとあっという間だと感じる。
(それにしても、もうそんな時間かぁ)
「んん? なんも入ってねえな」
デリバーは席から立ち上がり、冷蔵庫の中を勝手に見て漁る。
人様の冷蔵庫を覗いて失礼な物言いだ。
冷蔵庫を閉めて「全く......」と口うるさい母親のように振る舞うデリバーを見て、ふといたずら心が働き、少し冗談を飛ばしてからかう。
「いやんエッチな男」
「冷蔵庫に興奮する奴がいたら是非会ってみたいねぇ」
隙あらばくだらない冗談を送ってくるネイ。こんなくだらないことを何度も繰り返してきた関係なのだ。
適当にあしらいつつ、冷蔵庫の中には大した物が入っていないことを確認したので、買い出しにいく必要がある。
「よし。買い出しに行ってくる」
「じゃあアタシはアンナちゃんと談笑しちゃう。嫉妬しないでねっ!」
「うるせえ二日酔い」と言い返しながら、メモ用紙に買うものを記載。
マイバッグを手に持ち、デリバーは家を出発した。
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