第20話
さて、秒で決着がついた。
司会が言い放った、『はじめ!』の号令と共に決着はついてしまった。
俺たちの目の前には、為す術なくクリスタル漬けにされてしまった試験官達の姿。
「こんな罠、初めて見ましたよ」
俺の言葉に答えたのは、農家兼ハンターの女の子冒険者だった。
「トラバサミが残酷だからって禁止されたから、お父さんが趣味で作った」
お父さん、すげぇぇえ!!
「商業ギルドに登録してあるから、お金出せば術式を買える」
マジか!
今度買ってこよう!
俺だけでなく、他の受験者も盛り上がっていたら観客席からヤジが飛んだ。
えー、勝ったのにー。
冒険者ギルド側からも、仕切り直しの判定が出た。
ブーブー!
俺たち勝ったのに、なんだよそれー!
と、ブーたれたが当然俺たちの言葉なんて却下された。
そして、改めて試験再開となったが。
また秒で終わった。
目の前には、毒で倒れる試験官たちの姿。
俺たちは、すでに解毒魔法を掛けているのでノーダメージである。
「毒の霧ですか。でも、見えないのが怖いですね」
「特別調合だ。水魔法の応用だな。
アレで足元に毒を仕込んだ水を精製、瞬時に気化していく。
気化したのは下から上へ上がっていくから一息呼吸しただけで即死レベルだ」
と説明してくれたのは、この会場の手配をするために縁をフル活用したあの男性だった。
ちなみに、本来なら災害級モンスター向けの毒らしい。
はい、終了終了。
これは合格確実じゃないのか?
と思ったがダメだった。
ちくしょうめ。
いや、まぁ分かってたことだけど。
万が一にも普通にやりあって、俺たちの誰かが立ってたとしても、これ合格判定出なかったんだろうなぁ。
というわけで仕切り直しになった。
そんなことを十回ほど繰り返したところで、さすがに試験官の心が折れそうになっている。
かわいそうだなぁ。
でも、実力差が認められないんだろうなぁ。
運も実力のうちとはよく言うが、持っている技術も実力のうちだ。
ちなみに農家には、害獣にもだが人間を秒で殺せる程度の薬物がゴロゴロしている。
農薬っていうんだけどね。あはは。
さすがに観客達も、顔を青ざめさせている。
それは、未知の化け物を見る目だ。
もしも、たとえば、この場にいるのが農民の俺たちでなかったら、きっとあの目は羨望のそれだったんだろう。
でも、農民は弱いとされている。
どんなに努力しても、魔法や技術を持っていても、農民以外の階級の人達の多くは心の底でこう考えているのだ。
農民が自分たちより強くなる事などありえない。
そこに明確な理屈はない。
ただ、そう刷り込まれている。
洗脳と言ってもいいかもしれない。
それが覆された時、信じていたものが崩れ去った時、現れるのは羨望なんかじゃない。
期待なんかじゃない。
【否定】だ。
信じられない、間違っている。
だから、正しく直さないと。
それを受け入れちゃいけないのだと。
でも、もしもそれを受け入れざるを得なくなった時、どうなるのか?
その答えが、今だ。
相手を、対象を、化け物に置換してしまうのだ。
「まだ、合格にはなりませんか?」
俺は、冒険者ギルドのお偉いさんが座っている席へ向かって、拡声魔法を使って問いかけた。
「もう十回やりましたよ?
十回とも、俺たち農民出身冒険者が勝ちました。
十回やっても足りませんか?
何回やれば合格なんですか?
まさか、俺たちが負けるまでやるなんて、ことありませんよね?
いやいやまさかのまさか、こんな事になるなんて思ってなかったとか泣きべそ言わないですよね?」
会場が、静まり返っている。
しかし、俺たちはドヤ顔だ。
それがムカついたのだろう。
試験内容が変更された。
ちくしょうめ。
さて、その変更になった試験内容だが。
「うわぁ、そう来たか」
啖呵をきった俺が、S級冒険者五人を相手に戦う、というものだった。
嫌がらせにも程があるだろ。
ちなみに、俺が選ばれた理由だが、啖呵もそうだが、この受験者の中で一番、冒険者としての戦績が低かったかららしい。
一番弱い判定をされたのだ。
まぁ、本当の事は言うまい。
その戦績をわざわざ訂正してたのは冒険者ギルド側だから。
それだけ強者揃いなのだから、一番弱いお前が勝てないわけがないだろ、という安い挑発だった。
そして、やはり秒で決着は着いた。
何でもありなのだ。
親戚の家でやったのと同じことをした。
それだけなのに、滅茶苦茶観客達から怖がられてしまった。
試験官五人の脳みそを小石でぶち抜いただけだ。
そのあとちゃんと蘇生させられていたし、なにも問題はなかったと言うのに、怖がられるなんて反応、理不尽過ぎるだろ。
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