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「と、その前に………」
「………?」
体の変化に目向きもせず款はフィソファの肩を突然叩いた。
恐ろしい形相ということに変わりはないが、さらにおかしなことがあった。
「………!」
フィソファにとって肩を叩かれたのは彼女自身の精場の中だったのだ。
「ふんふん、三本目ね」
「触るな」
すぐに生神が引き剥がそうと腕を立てる。
が、攻撃は出てこずに款が潔く離れた。
「別に私は争う気はないんだけどな」
「………」
フィソファは無言を押し通す。
いや、押し通しているというよりは言葉を発せないと言ったほうが正しいか。
彼女は、今にも死にそうなくらい青白く顔を硬直させ、膝を腕で抱きうずくまってしまっている。
そんな彼女を見て、生神が黙っているはずがない。
「………何をした」
「いや何も」
肩を叩いただけでフィソファをこんな状態にできるわけがない。
そうわかっている筈。
だというのに、生神も十分に困惑しているのか質問を続ける。
「お前の目的はなんだ?」
「………別に?」
憎しみが心を覆っていくのがわかる。
いい加減見ているだけなのに辛抱がつかないのは、誰にも明らかだった。
「では最後の質問だ」
「いや別に私は………」
「フィソファに謝る気は、あるか?」
「………私の話を聞いてくれるならね」
「死ね」
ズゥゥゥン………
フィソファの精場内が大きく揺れる。
当の本人はまだうずくまったままだが、その代わりの役割を自分が引き受けるとでもいうかのように生神が前に出る。
容姿は全体的に白、純白のスカートがひらりと揺れたかと思えば頭の簪を自らの手で外す。
「これは外しておくか」
そう優しく言いながらもソレを投げ捨てる。
心の揺さぶりが目に見えてしまうほどに。
「じゃあ私も」
款もそう言いながらこちらは衣装の胸の空いたところに無理やり捩じ込む。
そしてすぐに戦闘は始まった。
両者はすぐに精場から場所を変え、先ほどまでフィソファが戦っていた場所へ飛ぶ。
そこからは、説明のできない攻防戦だった。
款は鎌、フィソファは素手。
その二つがまるでパターンが決まっているかの如く交わり合う。
左には右、右には左。
が、長期戦になることを悟った両者は一度同時に攻撃を止める。
「埒があかないね」
「そうだな」
「じゃあ私は……」
と言いながら款は先程見せた黒い蒸気を体から出し始める。
ソレに対抗するかのように生神は、
「……しょうがねぇ、後遺症覚悟だ」
そう言い残すと、体が発光を始める。
そしてすぐに二本の水色の矢印が彼女の周りを回り始めた。
その周期は一秒に一回というもので、早い。
「……ソレ、後悔しないでね」
この変化に款は恐れることなく、蒸気を出し続けていると、ついに最終形態へと回った。
「ヨッ…………ト」
肌は完全に黒に染まり、時折光る黄色の装飾が僅かに彩る。
髪の毛は逆に黄金色に染まり、先程とはまたもや力が段違いであることを知らせる。
蒸気はもう出ておらず、ピッタリと止まっている。
鎌を取り出すというだけの簡単な所作だけでも空気を揺らし、周りの木々がゆれる。
「……
彼女は小さく技の名前を呟く。
(これは、やばいな)
生神はこれまでに感じたことのない危機感を覚えた。
そして、思い出した。
自分が昔全力を持って戦っていた時のことを。
あの時は、戦うのが楽しかった。
が、今そんなことを思ってもしょうがない。
目の前を見なければ、すぐに置いてかれてしまう。
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