第25話 シルフィのドン引き
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「アメリア様、怖いです」
夕方、裏庭デビュタントを無事終えた後。
自室のテーブルにどっちゃり並べた戦利品(しょくぶつたち)を眺めていたら、シルフィに引き気味に言われた。
「え、怖い? そんなに?」
「邪教に捧げる供物を恍惚と眺める信者のようですよ」
「何それ怖い」
こほんと、アメリアは咳払いする。
(いけないいけない、久しぶりの植物採集ではしゃいでしまっていたわ)
手でほっぺをむにむに動かし元の表情に戻していると、シルフィが口を押さえ小さな声で漏らした。
「……なんですか、その可愛い動作は」
「え? なんて言いました?」
「なんでもございませんよ」
今度はシルフィが咳払いして、「それで」と言葉を続ける。
「その草花はどうするんですか?」
「食べるけど?」
「何を当たり前のことを、みたいな顔でさらっと衝撃発言かまさないでください」
「流石に全部は食べないわよ。半分は調合して薬にするの」
「半分は食べるんですか……」
シルフィの顔が引き攣る。
平民としてはそれなりの良家出身で公爵家の侍女として働いてきたシルフィにとって、その辺に生えている草を食すというのは価値観外であった。
「もちろん食べるわ! ヨモキはサラダにできるし、ハコぺはおひたしに! あ、実家ではできなかったんだけど、タンポの葉をクリームスープに入れたり、ノビーをパスタに絡めたり……ああ……もう想像しただけでお腹が鳴るわ……」
「ソ……ソウナンデスネ」
もはやシルフィには、瞳をきらきらと輝かせたいそう幸せそうに頬をさするアメリアに苦言を呈するなぞ出来るはずもなかった。
「それで……お願いがあるんだけど……」
「はい、なんでしょう?」
一転、肩を縮こませながらアメリアが、おずおずと尋ねた。
「調理場を、使ってもいいかしら……?」
シルフィが目を丸める。
「ああ、そんなことでしたら大丈夫ですが……料理の経験がおありで?」
じとーっと、疑い深い目を向けるシルフィにアメリアがむっと口を尖らせる。
「失敬な。こう見えても私、自炊歴十年以上あるのよ?」
サバイバル歴といった方が正しいかもしれないが。
「それは失礼いたしました。でしたら大丈夫でしょう」
「やたっ、ありがとう、シルフィ!」
胸の前で拳をぎゅっと握り締め、アメリアがぴょんっと跳ねると、シルフィは再び口元を抑えぷるぷると震えた。
「シルフィ? どうしたの?」
「いえ、なんでもございません……取り急ぎシェフに伝えにいきますね。また呼びにきます」
「うん! お願い!」
口元を隠したままシルフィは一礼して、逃げるように部屋を出て行った。
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