第74話 トウモロコシは焼き派です
「あのウロップは天才じゃあ………絶対に果樹園で働いてもらうぞい!」
3月33日(この異世界の1ヵ月は36日)という3並びの水曜日、朝食後に領主の屋敷でセーラさんと謁見した移民たちを連れて村の案内に出かけました。
まずやって来たのが、この村で唯一の収入源である果樹園です。
住人の多くが働く村の基盤なのですが、一つ大きな問題が起こっています。
そう、魔獣ダイオウコウモリの襲来です。
奴らはこの果樹園のブドウとリンゴが大好物。
収穫期の秋にやってきては果実を貪っていくのです。
果樹園で生計を立てているこの村にとっては、まさに天敵と言える大害獣。
そこで僕は、ダイオウコウモリを追い払う武器を授けました。
それが、スリングショットです。
一般的にはパチンコと呼ばれるゴムを伸ばして玉を飛ばす武器ですね。
国内外で超有名な某海賊漫画でもお馴染みのアレです。
それだけに、ウロップという名前を聞いた時は胸騒ぎがしたんですが……
「初めて使うのに12回撃って6発命中はもうバケモンですよねえ。特に最後の3連続命中はマグレじゃない証拠ですもん。分かりました。ウロップの就職先は果樹園に決定します。仕事の方は適正が無いかもですが長い目で見てやって下さいね」
「大丈夫じゃ。ここの仕事は単純労働が多いからのお。若い男というだけで、いくらでも使い道はあるわい」
若いというかまだ14歳の少年ですからね。手加減してもらわないと。
「体ができあがる前に、過度の肉体労働をさせるのはダメですよ」
「分かっとる分かっとる。貴重な若い男じゃ。潰すような真似はせん」
それなら何も問題はありませんね。
ウロップには他に何かやりたい仕事があるかもしれませんが、そこは我慢してもらいましょう。しばらく働いてどうしてもダメなら転職させますけど。
「エロオ君、ここでもまた面白いことをやってるじゃないか」
護衛の冒険者エドガーの顔には、俺にもやらせてくれと書いてありました。
「移民たちが一通り試し撃ちした後にエドガーさん達もやってみて下さい。冒険者として何か得る者があるかもしれませんし、単純に楽しいですから」
「催促したみたいで悪いな。遠慮なくそうさせてもらうよ」
「どうぞどうぞ、僕はエマさんたちと事務所にいます。この後、ジェロ監督が移民たちに果樹園内を見せて回るので、お二人はそれに同行して下さい」
まず無いと思いますが、移民たちが暴挙に出た時は止めてもらわないと。
「了解だ。その間のエロオ君の護衛は任せたぞ、エマ」
「ああ、安心してアタシに任せときな」
182センチの自分とほぼ同じ身長で自分よりも筋肉が発達している女戦士に快諾されたエドガーは、ニカっと精悍な笑顔で礼を言うとビアンカと一緒にスリングショットの試し撃ちに向かいました。
さて、僕は僕でやるべき事をやっておかないと。
「ジェロ監督、事務所の休憩室を1時間ほどお借りしますね」
「そりゃ構わんが何を……おおっ、出張種付けしてくれるんじゃな?」
「はい、この二日間忙しくて、お待たせさせていますからね」
「そりゃ助かる。欲求不満の女たちは扱いが大変でなぁ………それで、誰の相手をしてくれるんじゃ?」
「アンネとフローラとモニカです」
「3人まとめてか! お前さんの性獣ぶりはまだまだ底が見えんのぉ」
驚きと呆れのない交ぜになった表情を残してジェロ監督は指名された3人を呼びに行き、すぐに連れて来てくれました。
20代後半から30代半ばの種付け希望者たちと一緒に休憩室に入った僕は、年上順で1発目をアンネに、2発目をモニカに、3発目と4発目をフローラに中出ししてあげたのですが、それで3人とも失神してしまいました。
となると、最後の5発目は物欲しそうなエマさんにおすそ分けですね……
「そうだっ、その調子だ!腕だけじゃなくて腰で回せ! お~い、あのヴァンてのは筋がイイじゃねーか。アッチの方も強そうだし……絶対私ンとこに回せよな」
果樹園の仕事見学が終わった後、移民たちを農地に連れて行きました。
戦中・戦後で農家の多くが亡くなったり移住したり離農したりしてしまったので、この村には放置された農地が大量にあったりします。
僕はそれをトウモロコシ畑にすることを女領主に進言し承諾を得ました。
その現場では、女戦士エマの娘エヴァが僕を襲った罰として強制労働させられているのですが、意外にもノリノリで作業に従事しています。
キャシーが不安になって報告するほどの熱中ぶりというのは事実でしたよ。
このトウモロコシ畑にはチートも使いまくってます。
日本から持ち込んだ強い種、効果抜群の肥料、時代を先取りした農具。
そして、明らかなオーパーツであるホ●ダ製の小型耕運機!
今は、自己紹介もそこそこにエヴァが移民の年長組(16歳以上)に耕運機を使わせて適性をテストしているところです。
そして、お眼鏡にかなったのが18歳のヴァンでした。ご愁傷様。
「分かりました。同村の仲間のショー(19歳)とシンラ(17歳)もここで働いてもらいますから、ちゃんと面倒をみてあげて下さいね」
────面倒をみるんですよ。面倒を起こすんじゃなくて!
「そんな顔しなくても分かってるから心配すんなって。全員ちゃんと可愛がってやるから、お前は安心して私に任せときゃイイんだよ」
口からヨダレを垂らして言われてもなぁ。
こりゃ3人とも早々に喰われてしまいますね。このケダモノに。
姉の硬派なエリーにしっかりと監視・監督を頼んでおかないと。
「おいエヴァ、そろそろ茹で上がるから皆をこっちに集めろ!」
そのエリーの大声が、荒れ果てた農地の一角に立てられた大きな天幕の下から飛んできた。母のエマより大きいエリーも意外なことに料理上手でした。
今は、テーブルの上に並べたカセットコンロで大鍋を使ってトウモロコシを茹でてくれています。移民たちに試食させたくて僕がお願いしたのです。
「うまっ、クソうっま、うっまぁぁぁぁああああああ!!」
6センチぐらいに輪切りにした茹でたトウモロコシを移民たちに振る舞うと、見たこともない食べ物におっかなびっくりで口をつけていましたが、すぐにその美味しさの虜になっていきました。
その感動を大袈裟に表現しているのは、やはりあのジンです。
彼は正式な移民ではないので、セーラさんとの謁見は遠慮してもらいましたが、その後のクルーレ村見学ツアーにはちゃっかり同行してきました。
それはあの塩シスター、プリティアも一緒だったりします。
移民たちに交じり茹でモロコシをかじるシスターがちょっとシュール……
さて、上級村民である僕は、茹でたトウモロコシなんて食べたりしません。
二つの大鍋の横に設置された炉端焼きカセットコンロの上で、こんがりと焼きあがったトウモロコシこそ至高と信じる訳であります。
エリーに焼きモロコシ2本をまた6センチ幅で輪切りにしてもらい、ハフハフ言いながらかぶりつきました。あぁ、これこれ、もうこの一言に尽きる……
「うぅぅぅぅまぁぁぁあいぃぃぞぉぉおおおおおおお!!!」
トウモロコシ本来の自然な甘さ、それに焦げた醤油の香ばしさと沁み込んだ芳醇なバターが相まって極上のハーモニーを奏でてますねえ。ホント最高で~す。
だから、思わずジンに対抗して絶叫しちゃいました。
でも、皆さんドン引きですね。
まぁ、一人だけ別のものを食べて絶賛ですから浮いちゃうのは当然。
という訳で、3人にだけ、この幸せのおすそ分けをしてあげましょう。
「ショーとヴァンとシンラ、君たちにはこのトウモロコシを作ってもらうことにしましたから、生産者特権である焼きモロコシを試食させてあげましょう」
輪切りを3つ乗せた紙の皿をシンラに差し出しました。
バター醤油から立ち上る香りでまず嗅覚を刺激された3人は、我先にとかじりつき、味覚からのかつてない絶賛信号を脳が受け取ると、目を極限まで見開いて焼きモロコシを貪っていく。
「な、なんだこれ……!?」
「こんなのエリンでも食ったことないぞ!」
「ホント美味しいよね~」
そうでしょうそうでしょう。
その感動を原動力に荒れた農地を開墾してトウモロコシを育てて下さいね。
エヴァのセクハラを乗り越えながら……
「これは、ジーメイですね」
いつの間にか隣に来ていたシスター・プリティアが凄いこと言いました。
「えっ、この国にも同じ穀物があるんですか!?」
「南の暗黒大陸にこれと同種の穀物があるそうです。聞いた話ではもっと小さくて茶色だということですが。この大陸で栽培している国はまだない筈です」
貴重な情報を話しながら、塩シスターは僕が持つ皿に乗った焼きモロコシの輪切りをガン見しています。明らかに喰わせろと要求してますよね。
「お一ついかがでし────」
「頂きましょう」
僕の言葉に返事を被せながらシュッとフリッカージャブで焼きモロコシを取ったプリティアは、すぐさまカリカリカリっと歯を立てて食べ始めました。
頬に手を当てホゥと感嘆の声を漏らす彼女にちょっと萌えたのは秘密です。
「獲れたてはもっともっと美味しいですよ。きっと子供たちも喜びます」
「………そうでしょうね」
エレナのことを想ったのか優しく微笑したプリティアでしたが、すぐにいつもの不愛想な表情に戻って耕運機の方に歩き出しました。
────これで少しはこの過疎村のことを気に入ってくれたかな……
孤児院の移転がどうなるにしろ、エレナには旬の美味しい焼きモロコシを食べさせてあげたい。産地直送の獲れたてにほっぺたが落ちる幼女を見たい。
だからこのトウモロコシ畑は絶対に成功させないと!
さあ、頑張っていきますよー。主にエヴァと移民たちがだけどー。
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