第60話 ビンゴ大会は異常に盛り上がりました
「これより、セーラ様主催による第一回、ビンゴ大会を開催します!!」
待ってましたと村民たちから割れんばかりの拍手を頂きました。
歓声もメチャクチャ大きい。
これ、村民の8割方、いや……9割近くが集まってますね。
過疎村で娯楽に飢えきった人たちなので、こうなると分かっちゃいましたが、実際に目の前に大集合すると圧倒されてしまいそうです。
「皆さん、お手元に自分で引いたカードをお持ちかと思います。ルールはその際にお聞きでしょうが、もう一度僕からも説明させて頂きます────」
ビンゴカードを拡大印刷したものを見せながら、ルールを説明しました。
この異世界では完全に未知のゲームなので、ピンと来てない人がほとんどでしたが、それはもう仕方ない。実際にやって覚えてもらいましょう。
ただ、そのためにはモチベーションが必要です。
途中で面倒臭くなって帰ってしまわないようにしないといけません。
という訳で、最初に特大のエサをぶら下げておく訳です。
「ゲームを始める前に、勝者に与えられる豪華賞品を紹介します!」
─────うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!
このために来たんだという村民たちの雄叫びが響き渡りました。
前日に、ベルちゃんとミュウちゃんがチラシを配って告知してましたからね。
退屈しのぎだけでなく、ガチで賞品を狙ってる者たちもかなりいる模様。
僕はひな壇に置かれた大机の裏から最初の品を手に取り皆に見せます。
「まずはこちら、まるで宝石のような香り付き高級石鹸セットです!」
村民の大多数を占める、女性陣から黄色い歓声が上がりました。
本当に宝石のようなカットと透き通った本体が美しい逸品です。見た目だけでなく、香りも素晴らしく泡立ちも良いのできっと喜ばれるでしょう。
「さあ次はこちら、世にも珍しいレインコートです!」
これにはテンションの上がってる村民たちも総ポカーン状態。
仕方ありません。まだこの異世界には無いアイデアですから。
という訳で、予定通り実演してみせることにしました。
全身が見えるように大机のあるひな壇から下りて、皆の前で一張羅のスーツの上にレインコートを着て見せます。
「ベルちゃん、宜しく!」
「あいよ!」
─────ザッパーーーーーーーーン!ザバザバザバザバーン!
ベルちゃんが魔法で作った大量の水が僕の頭上から滝のように落ちて来た。
この異世界の常識では、僕はびしょ濡れの濡れネズミになるはずです。
当然、村民たちは何をやってるんだと呆れ顔でザワメキが広がりまくり。
ここで満を持して僕はレインコートを大袈裟に脱ぎ捨てました。
「まったく濡れてませーん! これがレインコートの実力です!」
村民たちは手の平返しでやんややんやの大喝采。
僕の目の前の丸テーブルにいた商人マルテは、とばっちりで受けた水しぶきにちょっと顔を濡らしたまま獲物を見る目でレインコートを見つめてました。
その後も、珍奇な白磁の花瓶、マイセンのティーセット、高価な紅茶葉、防水性多機能リュックサックなどなどを紹介していきました。
そして、ついに最後のアレを登場させます。
「さあ、とうとう今回の目玉商品ですよ! これで行きたい場所へ楽にスイスイと移動できるんです! 僕も愛用してる6段ギア付き自転車ぁぁああああ!!」
その言葉を合図に、マルゴさんがママチャリを店内から押して歩いてきます。
ざわ・・・ざわわ・・・ざわざわざわっ・・・・ざわっざわわっ!
「おい、あれは……鉄の馬じゃねーか!?」
「間違いない、エロオの鉄馬だよ!」
「エロオの鉄馬キターーーーッ!」
「あぁ、エロオさんが使ってる不思議な乗り物だわ。私も欲しかったのよ~」
「お母さん、ぼくもアレ乗りたい!」
「鉄馬があれば隣村へのお使いが凄く楽になるわ!」
よーしよしよしっ。
エロオの鉄馬が当たるという大チャンスに村民たちも大興奮ですよ。
隙あらば乗り回して村中に便利アピールしてきた甲斐がありました。
さて、一気に膨れ上がった熱量が冷めない内にゲームを始めるとしましょう。
「皆さん、静粛に!! これらの豪華賞品が与えられる運命の抽選をいよいよ開始します! 最初にビンゴした人から好きな商品を選べますよ! 当選者は上位12人となりまーす! さあ、行きますよー、ベルちゃん宜しく!」
「あいよ!」
クルーレ騎士領の領主セーラの次女である10歳の娘がひな壇に登場。
ベルちゃんが大机に置いてある抽選箱にガッと手を突っ込みます。
25センチ四方の抽選箱は正面がクリアなアクリル板になっているので、元気娘の手がグルグル動いてナンバーボールを選んでいるのが村民から丸見え。
そしてついに、ベルちゃんが一つのボールを掴んで取り出しました。
その全てを見ていた観衆たちがゴクリと唾を飲んで発表を待ちます。
「21番!」
─────うわぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!
ベルちゃんの不思議なほど良く通る大きな声を聞き取った村民たちから、たくさんの悲鳴と少しの歓声が沸き上がった。
「21番! 最初の番号は21番です!」
僕もベルちゃんに負けじと大声を張り上げて選ばれた番号を告知した。
ひな壇の隣に設置した掲示板の前にいるミュウちゃんが、21と書かれた札を板に打ち付けられた釘に引っかけて抽選番号が分かるようにしてくれます。
それは10メートル先にいるキャシーとマルゴも一緒でした。
最後尾の席では見づらいですから、そちらにも掲示板を用意したのです。
周到に準備したのが功を奏し、ビンゴゲームはさしたる混乱も起きないまま順調に抽選が進んでいきました。
地道に進めていたアラビア数字の周知、テーブルに置いたこの国の数字とアラビア数字の対応表とルールの説明書、現場スタッフによるサポートが効いてます。
それに、村民たちも分からない者に教えてあげてくれてましたからね。
そんな感じで、二つ目、三つ目と抽選番号が増えていくたびに手元のビンゴカードの穴も増えていき、いよいよリーチがかかった村民も出始めました。
「いよいよこのビンゴゲームも佳境に入って参りました! 今現在リーチがかかっているのは3人! なめし屋の跡取り娘ストラ、鍛冶屋の息子ボーン、果樹園の働き者アデーレです! さあ、この3人の中からビンゴ達成者が出るのかっ、はたまた誰か別の者がまくって逆転勝利するのかっ、ベルちゃん宜しく!」
「あいよ!(ゴソゴソゴソゴソゴソゴソ) 72番!」
「ビ、ビビビ、ビンゴーーーッ! やった!当たったわレジー!」
────うわぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!
ストラの歓喜の叫びを聞いた村民たちから悲鳴とどよめきが沸き上がった。
目の前のVIP席にいるマルテも頭を抱えてオーマイガー状態です。
その間にも、キャシーが動いてストラのカードを確認し、間違いなくビンゴですと僕に合図を送ってきました。
「おめでとうございまーーーーす!!!」
────カランカランカランカラ~ンカランカランカランカラ~ン
大当たりのハンドベルを振り回しながら、村民たちの喧噪に負けない大声を張り上げました。その効果があって皆が僕に注目してくれます。
「見事に誰よりも早くビンゴを達成したストラさん、前に出て来て下さい!」
ストラは嬉しそうに夫のレジーと一緒にひな壇に上がってきました。
僕にどの賞品を選ぶかと聞かれると、当然のように自転車を選びます。
「それでは、主催者のセーラ様から自転車の鍵を授与して頂きます」
ひな壇の後方にある賞品が並べられたテーブルの前で椅子に座っていたセーラさんが優雅に立ち上がり、おめでとうと言って自転車の鍵をストラに渡します。
────パチパチパチ、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
ベルちゃんやミュウちゃんが拍手を始めると村民も大拍手で応えました。
過疎村を見捨てずに残ってくれてる領民たちだけあって、みんな素朴で良い人たちばかりだ。まぁ、中にはアクの強い者も何人かいるけど……
ともかく、ストラの優勝は温かいムードの中で祝福されていました。
「さあ、豪華賞品はまだまだ残っていますよ! ゲームを再開しましょう!」
そうだ、まだ賞品は残っていると思い出した村民たちから歓声が沸いた。
再びやる気が充満し手元のカードを確認しては、当たり番号よ来いと祈る者たちがたくさん目に付きました。
皆さんのモチベーションが復活したところで、すかさず僕も進行を続けます。
その後、二人目と三人目とビンゴ達成者が現れ、最後まで興奮と熱量が落ちないまま12人目の当選者が決まったところでビンゴゲームは終了となりました。
「それでは最後に、主催者のセーラ様から非常に重大な発表があります!」
再びひな壇の椅子から立ち上がったセーラさんが僕の隣に来ました。
ついでに役目を終えたベルちゃんもセーラさんの横に並びます。
少し前までヒステリー持ちの怖い領主と評判だっただけに、セーラさんが壇上の大机の前に立つと、ピリッとした空気が漂い村民は静まりかえった。
「領民の皆さんに嬉しいご報告をさせて戴きます」
いつも通りの声量の上品な話し声ですが、10メートル先の最後尾の席にいる村民にもハッキリと聞こえるほどメインストリートに響き渡りました。
隣にいるベルちゃんが、風の魔法で空気の振動を増幅させたのです。
魔法の拡声器みたいなもんですね。
「この度、私は懐妊致しました」
「「「「「「 えぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!? 」」」」」」
ざわ・・・ざわわ・・・ざわざわざわっ・・・・ざわっざわわっ!
「嘘でしょ……セーラ様はたしかもう34歳の筈よ………!?」
「な、何かの間違いじゃないのかねえ……!」
「有り得ない! そんなの有り得ないわ………ゴクリ…」
「エロオだっ、エロオがまたやりやがったんだっ!」
「だって、エロオさんがこの村に来てまだひと月なのよ……?」
「そうだね! あの性獣ならこんな奇跡を起こしても不思議じゃないさね!」
「おめでとうございまーーーーす!」
「あぁ、お前さんの言う通りだ。セーラ様おめでとーーーーっ!!」
俄かに信じられない報告にしばらく騒然となっていた村民たちだったが、何とか事態を飲み込んで消化すると、一斉に祝いの言葉を送り始めた。
にこやかに領民たちの声に耳を傾けていたセーラさんは、スッと右手を上げて皆を静かにさせると、またも領民たちが耳を疑う発表を響き渡らせた。
「この慶事を祝し、今年は一切の租税を免除と致します」
「「「「「「 うわぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!! 」」」」」」
一瞬の間を置いてから、悲鳴に近い大歓声が上がった。
席から立ち上がってガッツポーズをする者や抱き合って喜ぶ者、中には感極まって涙を流す老人もいる。それだけ、この村の生活はドン尻だったんでしょうね。
そんな廃村一歩手前の村が、租税免除になった。
きっと村民たちは、まだこの村は大丈夫だと安心したことでしょう。
この大騒ぎには、そんな彼らの心の内が透けて見えるようです。
さて、最後の詰めをするとしましょうか。
「僕からも一つ報告があります────」
ベルちゃんの魔法拡声器によって僕の声も全員に轟いて皆が静まった。
「お陰様でビンゴ大会は好評を博して大成功となりました。そこで、皆さんの熱いご声援にお応えし毎月30日の日曜に、今後もビンゴ大会を定期開催します! エロオの鉄馬など豪華賞品をまたご用意しますので皆さんふるってご参加下さい!」
「「「「「「 うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!! 」」」」」」
今度はもう村民総立ちです。
いわゆるスタンディングオベーション。
拍手喝采と大歓声と口笛が鳴り響く中、「セーラ様万歳!」「エロオ最高!」といった叫び声が聞こえてきます。
あぁ、セーラさんの大切な領民たちが喜んでくれたようで僕も嬉しいですよ。
時間や人手が少なくて苦労したけど、頑張った甲斐があったなぁ……
こうして、第一回ビンゴ大会は、異常な盛り上がりを見せる大興奮のクライマックスで閉会しました。
進行した僕も村民もまさに完全燃焼といった最高のイベントになりました。
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