第44話 現代工芸品チートは楽しいです

「あたしがいつどこでお前とヤったっていうんだよ? フカシてたら殺すぞ!」


 殺害宣言いただきましたー。

 ダメですこの殺人マッスィ~ン、早く何とかしないと!

 だけど、たしかにこの娘とヤった記憶はまったくありませんよ。

 僕がヤったというか、ヤらされた女とは別人28号です。

 ということは………………あぁ、何となく真相が見えてきました。


 つまり、僕を空き家に連れ込んだ強チン女は、偽物エリーだったんだ。


 エリーを騙って男を襲ってるとんでもないレイパーだったんですよ。


 そして、目の前で瞳に炎を宿して激怒されてるのが本物エリー。

 これは不味い。

 彼女の中では、僕こそが自分とセックスしたと騙るゲス野郎ですもん。

 これはヤバイ。

 可及的速やかに誤解を解いてアマゾネスもどきの怒りを解かなくては!

 

「謎はすべては解けました!」


「は? ナニ言ってんだい、誤魔化そうたってそうはいかないよ」


「誤魔化しも逃げも隠れもしません。ここでは何ですから僕の店でじっくりと納得がいくまで事情を説明させて頂きます」


 さっき閉めたばかりのエロオ雑貨のカギを開けると、扉を開けて中に入りながらあなたもどうぞと本物エリーを招きます。

 店内の奥になる階段で二階にあがって入ったのは、少し前までリリアンと交尾していたヤリ部屋です。テーブルセットの席を勧めたあと、午後ティーを百均で買ったグラス二つに注いで一つをエリーの方へ置きました。


「フカシ野郎の施しは受けないよ。とっとと事情とやらを話しな」


「僕は確かにエリーと名乗る女性と種付け交尾をしました」


「へぇ、あんたやっぱり命がいらないみたいだね(ゴゴゴゴゴ)」


「最後まで聞いて下さい。その女性は僕の名前を知っていたうえに『私のことは母さんから聞いてるよな』とまで言ったんです」


「だからそれが何だって言うんだよ!?」


「つまり、エマさんが娘に種付けしてくれと僕に頼んだことを知ってる人物が、今回のトラブルを引き起こした犯人なんですよ」


「………おい、まさかその女……不吉な赤い髪をしてなかったか?」


「不吉かどうかは知りませんが、赤毛のセミロングで目は金色、褐色の肌に赤いビキニアーマーを着てました。ついでに胸はエマさんより大きかったですよ」


「やっぱりエヴァだ、間違いない。あのバカ…盗み聞きしてたんだね……」


「どうやら犯人に心当たりがあるようですね」


 そうだと思いましたよ。

 君たちは別人だけど、似た特徴がたくさんありすぎる。

 きっと、身内か同族なんでしょう。


「ああ、こうしちゃいられない。あたしは行くよ。この落とし前はいずれつけるから、今は借りにしといておくれ!」


 立ち上がりながらそう告げたエリーは、僕の出した午後ティーを一気に飲み干すと、ごちそうさんと言って外へ駆けだして行った。

 ふぅ、やれやれですよ。

 一先ず危機は去りましたが、今のが本物エリーでエマさんから孕むまで種付けを頼まれた娘ですかぁ。僕に大人しく抱かれるようなタマじゃないでしょ……

 一難去ってまた一難とはこのことですよ。ハァ~。




「エロオさん、このピーラーは本当に凄いですね!」


 本物エリーと嵐のような邂逅をした後、今度こそ真っすぐ屋敷に帰った僕は、マルゴさんに会いたくて夕食の準備をしているキッチンへ向かった。

 すると、開口一番で日本から持ち込んだ調理器具を絶賛されましたよ。


「そうでしょう。僕の国でもあっという間に広がった大人気商品です。きっとこの国でも需要があると思いました」


「ええ、必ずここでも大流行しますよ。間違いないです」


 手にしたピーラーを見ながら、ウフフと幸せそうに笑うマルゴさんが尊い。

 思わず腰に手を回して抱き寄せると妊婦メイドも僕の手に手を重ねてきた。

 そのままお互い無言でまったりとした時を過ごします。


「気持ちは分かるけどね、ディナーの準備が先ですよ」


 おっと、年配メイドのコニーに注意されちゃいました。

 仕方ないので、マルゴさんを解放して立ち去ることにしましょう。


「邪魔して申し訳ない。あ、アク取りシートも使ってくれてるんですね」


 火にかけられた大きな鍋の水面に浮かぶ白いモコモコのシートが、アクや油を吸って黄色くなっているのが目に入りました。


「これもとにかく便利ですよ。あんたのお店は大繁盛まちがいなしだね」


 この私が太鼓判押すよ、と50近いベテランメイドが胸を張ります。

 食材ではないものを鍋に入れることに抵抗があるかもと心配してましたが、杞憂に終わりましたね。これなら本当にバカ売れしそうです。


「このキッチンポリ袋ってのもスゴイよ!」


 う、初めて付き合った女の子にそっくりなトラウマ1号ことジーナも、100枚入りの使い捨てビニール袋に感動していました。

 ただ、その使い方がちょっとオカシイですね。


「それ、何をしてるんですか?」


「なにって、水筒に決まってるでしょ」


 そうきましたかー。

 ビニール袋に水を入れてタプタプやってるんで、何をしてるのかと思ったら、そんなクリエイティブなことを企画してたとは想像もつきませんでしたよ。


「だけど、それだと飲みにくいでしょ?」


「エロオくん、頭悪いなぁ。そんなのストローを使えばいいじゃん」


 ストロー?

 へぇ、この異世界には既にそんなもんがあったんだ。

 素直に感心してたら、ジーナが得意げな顔で実演してくれました。

 でもそれ、僕が思ってたストローと違いますね。


 ライ麦の茎……ですか。


 そういえば、ストローの語源てまんま藁でしたもんね。

 むしろ、これが正しいスタイルでした。

 そんな感じで、日本の商品のモニター会場と化していたキッチンに満足した僕は、それじゃあまたとマルゴさんに愛想を振りまいて自室に戻りました。




「男爵家のお抱え商人マルテと至急に連絡が取りたいのですが」


 長い付き合いで女領主と親しく、乳母をしていたキャシーとも談笑できるコニーが給仕していたので、以前よりも賑やかな晩餐を終えた後、セーラさんと一緒に執務室へ入った僕は、次の取引に向けて動き出しました。


「分かりました。エマに書簡の配達依頼を出しましょう」


「お願いします。それで、前回好評だったガラス玉やトンボ玉だけでなく、それ以上の目玉商品も仕入れてきましたから、まずはぜひセーラさんに見て頂いきたいのですが、今よろしいですか?」


「もちろんですわ。ガラスビーズ以上の目玉商品……とても楽しみです」


 女領主のクリスタルグレーの瞳が宝石のようにキラリと光りました。

 逼迫している財政を立て直す商品を切望しているのでしょう。

 義母にして恋人の期待には必ず応えなくてはいけませんね。

 そして、この商品なら、きっとやってくれるはずです。


 新調したソフトアタッシュケースを開き、横20センチ縦6センチになる横長の箱を取り出してテーブルに置くと、セーラさんの目の前で開けました。


「これぞガラス細工の最高峰の一つ────ガラスペンです」


 箱にキッチリ詰められたスポンジクッションに押しこまれたガラスペンは、その透き通った細長いひねりのあるガラスというフォルムだけでもう芸術品だった。

 そのうえ、ガラスペンには羽ペンよりも優れた実用性を兼ね備えている。

 これから体験してもらうセーラさんのリアクションが楽しみで仕方ない。


「……この美し過ぎるガラス細工が………ペンだと仰るのですか…!?」


 羽ペンが当たり前で万年筆すらないこの異世界では、この外形でペンと言われてもピンと来ないでしょうし、ましてやガラス製となると未知との遭遇です。

 理解が追い付かなくて信じられなくても無理はありません。


「お疑いはごもっともですが、これは正真正銘、本物のペンなんです。どうぞ実際に使用してその優れた性能と書き味を堪能して下さい」


 国宝級とすら思えるガラスペンの存在感に圧倒され、まだ触れることすらできないセーラさんは数秒ほど固まってましたが、やっと意を決して娘に命じます。


「キャシー、机から紙とインク壺を」


 すっかりソファーの置物と化していましたが、長女で跡取り娘のキャシーも最初からこの場にいました。メイドが増えたことで家事から解放され、領主の手伝いをする時間が増えて来てるようです。

 僕の婚約者でもあるキャシーは、はいと小声で返事をすると言われた品物を奥の大机から持ってきてセーラさんの前に置きました。


「ガラスですから壊れやすいですけど、それはセーラさんに進呈しますので気を遣わずに好きなように使って下さい。そうしないとテストになりませんから」


「な………これを私に……下さる…と言うのですか……!?」


「はい、この領地で販売するのですから、領主のセーラさんに献上するのは当たり前のことです。それに僕たちはもう一心同体ですからね」


 僕は対面のソファーに座ってるセーラさんとキャシーの間に割り込んで座ると、望外の喜びに興奮している女領主を抱き寄せて甘いキスをしました。

 ただ、これでは片手落ちなのでちゃんと婚約者にもフォローは忘れません。


「はい、これはキャシーの分だよ。今ここで使用して感想を聞かせてね」


「え……私にもくれるんですか…?」


「僕の婚約者なんだから当たり前だよ。さ、早く箱を空けて使ってみて」


「まぁ、エロオさん、こんなに良くして戴いて感謝の言葉もありませんわ」


「感謝だなんて水臭いですよ。僕たちはもう家族じゃないですか。さあ、セーラさんも早く使って下さい。あ、そうだ、マルテへの手紙を書いてもらえますか。開店準備が終わったので、売り切れる前に来店して欲しいと伝えて下さい」


「承知しましたわ」


 セーラさんは有頂天の笑顔を見せると、ついにガラスペンを手に取り、至高の美術品の細部をウットリと鑑賞しています。

 その間に、既に文字を書き始めたキャシーはすぐに感嘆の声をあげました。


「お母様…これ凄いです…! 一度のインク補充で羽ペンの何倍も書けます!」


「そんなこと…………あら、本当ですわ! どうしてこんな……!? それにどの角度からでも文字が書けるなんて……まるで魔法具のよう……ホゥ…」


「ふふふ、あとで説明しますから、今は存分にガラスペンを堪能して下さい」


 素直に僕の言うことを実践し始めた母娘の愛しい横顔と、いつ見ても頬が緩む爆乳を交互に観察しながら、二人の尻を揉んで柔らかな感触を楽しみます。

 しかし、そんな至福の時を邪魔する来客が現れました。


 マルゴさんが入室して、困惑の隠せない表情で訪問客の名を告げます。


「エマさんがお越しになりました。娘たちも同行されておられます」


 こんな夜中にエマさんが来た?

 しかも、娘ってことは本物エリーも一緒に?

 さらに、娘たちってことは、偽物エリーもエマさんの娘だったってこと?


 ハァ~、異世界に戻って来た初日から波乱万丈で草しか生えませんよ……

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