第27話 三角関係に巻き込まれました
「セーラ様、レジーさんがストラとお見えになりました…」
昨夜の晩餐でカニ鍋をつついた食堂で朝食をとった後、いつもなら直ぐに執務室へ向かうセーラさんが、お茶のお代りを頼んでゆっくりとしていた。
恐らく、ガラス細工でたんまりと手にしたお金が、領地経営にもゆとりをもたらしたのだと思われます。
そんなマッタリとした朝、マルゴさんが来客を告げにきたのですが、その表情や声色に少し暗いものを感じました。招かれざる客かもしれません。
「あら、早いですわね。緑の間へお通ししておいて」
「はい、それからエロオ様ともお会いしたいそうです……」
「エロオさんと………一体どのようなご用件かしら……?」
セーラさんは僕の都合を伺うようにこちらを向いて目を合わせた。
マルゴさんの態度から不穏なものを感じるけど、断る理由が見当たらない。
「僕なら構いません。喜んでお会いしますよ」
ホッとした様子でお礼の言葉を口にしたセーラさんは、僕と一緒に執務室へ行き準備を整えてからマルゴさんに客を案内させます。
緑の間へ繋がる扉から現れたのは、190センチはあろうかという大男と150センチほどの小柄な女性という凸凹コンビでした。
「御当主様、ご無沙汰しておりまして、申し訳ございませんでした」
「ご機嫌うるわしゅう、セーラ様」
「二人ともお久しぶりですね。さあ、こちらに掛けて頂戴」
セーラさんと僕が座ったソファーの対面にテーブルを挟んで座った二人と、簡単な自己紹介をしました。
大男のほうは、レジーという名で戦死したセーラさんの夫ゴードンの従者をしていたそうで、戦中に負った傷により右足が麻痺して杖をついています。
20歳ぐらいに見える女性の名はストラカーナ、レジーの奥さんでした。
毛穴から耳元までが黒、耳元から鎖骨までが黄色、鎖骨から先が緑色という三色グラデーションの長髪が嫌でも目立つ色白美人です。
「カニクイギツネのなめしをご依頼いただけるとお聞きました。真に感謝の言葉もございません。希少な魔獣ですから、全身全霊を捧げて打ち込みます」
「貴方の腕は信用に値しますから、安心してお任せできますわ」
レジーは今、皮なめしの職人をやっているようですね。
怪我をした後の第二の人生が順調なようでホッとしました。
その後は、思い出話に花が咲いたので、僕はまた聞き役に徹してます。
ただ、セーラさんたちの昔話を聞いていると、マルゴさんに少し元気がない訳が分かったようが気がします。
マルゴさんは12歳の新成人の頃からこの屋敷で働いていて、その時にはもう若きレジーがゴードンの従者をやっていた。
近くにいる逞しくて優しい美男子にマルゴさんは淡い思いを抱いていたのだけど、色々あって皮なめし職人の娘であるストラに奪われてしまった模様。
つまり、レジー、マルゴ、ストラの三角関係だった訳ですよ。
そりゃ会いたくないですよ。ため息も出ちゃいますよ。
後でズッポリと心の穴と別の穴を埋めてあげるとしましょう。
「それはそうとレジー、エロオさんにどんなお話があるのかしら?」
思い出話がひと段落したところで、セーラさんが外の天気でも聞くような感じで何気なく気軽に尋ねました。本当は一番気になってる筈なのに。
その話題に一番興味があるのは僕も同じです。
一体この凸凹夫婦、僕に何の用があるというんでしょうか。
「実は…町でとある噂を聞きまして、不躾なお願いに参りました……」
「あら、この町にどんな噂が流れているというの?」
「エロオ殿は類まれな魔力を秘めた性獣だと、専らの噂となっております」
「ま、まぁ……そんな噂が立っておりましたの………」
「本日、御当主様のお姿を拝見させていただき、ただの噂ではなく真実だと分かりました。まるで初めてお会いした頃の美しさにお戻りでございます!」
「大袈裟ですわ。ですが貴方のお願いがどんなものか察しがつきました。それで、エロオさんに種を蒔いて欲しい女性はどなたなのです?」
このパターンはちょっと前にあった気がする。嫌な予感ビンビンですよ。
この夫婦の姉妹か友人ならいいんですけど………
ふぅ、心の準備はできました。それで僕に誰の相手をしろというんですか?
「この俺の妻、ストラカーナです」
知ってた。
ベルちゃんの母親のリリアンと同じですよ。
あの時も、夫のジャンから妻を寝取ってくれてと頼まれましたからね。
正直、NTRにはトラウマがあるんで、されるのはもちろん、するのもダメージがあるんですよ。土壇場で萎えて修羅場になりそう……
それに、マルゴさんと訳アリの夫婦じゃないですか。
ここで僕がストラを抱いたら、マルゴさんはレジーに続いて僕まで寝取られることになる訳で。それは不味いでしょう。
そもそも、夫の自分が抱けば良いじゃないですか。
聞けばまだ32歳というんだから、現役バリバリでしょ?
「レジー、貴方自分が何を言ってるのか分かってらっしゃるの!?」
そうだそうだ。セーラさん、もっと言ってやって!
「………お恥ずかしい限りですが、俺はもうストラを抱いてやれないのです」
えっ、もしかしてED……インポテンツってことですか……ゴクリ…
レジーが呻くような声で話したことには、右足の麻痺が悪化して、股間の方まで役立たずになってしまったそうです。不能になって、もう2年になるとか。
妻のストラは24歳になっており、20代前半までの出産適齢期がまもなく過ぎてしまう。彼女は跡取り娘だから、子孫を残す責任がある。
だけど自分は婿としての務めを果たせない、悔しいです、と訴えていました。
その話にショックを受けたセーラさんは、しばらく目を閉じて考えた後、懇願するような目で僕を見ました。
いや、そんな目で見られても困りますよぉ………
「少しの間、セーラさんと相談させてくれませんか?」
了承したレジーとストラは、また緑の間に下がって行きました。
二人きりになった執務室の重い沈黙をセーラさんの告白が破ります。
「レジーは、戦場で夫のゴードンを庇って負傷したのです」
「そうだったのですか……」
「私には彼の傷に対する責任がありますの。どうか彼を救ってあげてくれませんか、心よりお願い致しますわ……!」
「そういうことであれば、ご協力させて頂きますが、マルゴさんのことを思うと複雑な気持ちになります」
「え、マルゴがどうかしたのですか?」
んんん……あれだけストラが恋の勝利者アピールしてたのに気づいてない?
ずっとこの屋敷で一緒に暮らしていながら、マルゴさんの初恋がレジーだったことを知らなかったんですか。うーん、セーラさん女子力低いもんなぁ。
この件、マルゴさんに断らずにセーラさんに教えるのはダメですよねえ。
ここはお茶を濁しておきましょう。
「僕がセーラさんと肉体交渉を続けるためのリフレッシュ役(セックス)をして頂きましたから、その幼馴染みと関係を持つのはどうかと思いまして……」
「あら、そんな事でしたら、マルゴも気にしたり致しませんわ」
「そうですかぁ。でも、ストラさんに種付けする前に、一つだけ試したいことがあるんです。それがダメだった時は、僕も覚悟を決めますから」
「試したい事とは、何ですの?」
「治癒のスキル、もとい、治癒の奇跡です」
「それは有難い申し出ですが、レジーは以前、司祭様から治癒の奇跡を受けたことがありますの。ですが、効果はありませんでした。傷が重すぎたのですわ」
「たしかに僕の治癒は軽傷しか完治できません。でも治癒の重ねかけができます。先日、セーラさんの深い傷を治した時のように、二度三度と続けて治癒を使えば、もしかしたら快復に向かうかもしれないんです」
「そういうことでしたら、是非、試して頂きたいですわ!」
「はい、レジーさんの身体は今でも鍛え抜かれていました。怪我が癒えれば、この町の大きな戦力になります。セーラさんの負担が減ります」
「んまぁ、私のことをそこまで慮ってくれていたのですか……!?」
「当たり前じゃないですか。セーラさん僕の女なんですから。大切にしますし、いつもあなたのことを想っていますよ」
頬を染めてうつむきながら喜んでいる美魔女を抱き締めてキスをしました。
たっぷり1分かけてベロチューすると軽く果てたようです。
僕も我慢できなくなるので、この辺にしておきましょう。
「どうですか、何か感じますか?」
緑の間からレジーだけを呼んで、ソファーで横になってもらいました。
僕が治癒の奇跡を使えるとは言ってません。秘密にしたままです。
ただ、医術の心得があるので触診させてほしいと伝えました。
麻痺して動かない右足の太ももを両手で軽く揉むようにしながら治癒Aのスキルをかけると、右手から出た光が太ももから腰に伸び、さらに背骨を首元まで覆って行きました。どうやら、脊椎に損傷があるようです。
「驚きました。感覚が無かった右足に温かさを感じましたよ。しかし、動かすことはできません……」
僕は治癒Aのスキルをもう二回、立て続けに使った。
最初と同じように光が太ももから背骨まで包むように伸びていく。
だけど、結果は同じ。効果はまったく出ませんでした。
恐らく、何度かけても無駄なんでしょうね。
治癒Aをレベルアップさせないと重傷には利かないんですよ。
残念な結果と期待に応えられなかったか謝罪を、表情と視線に乗せてセーラさんに送ります。女領主は優しい微笑で返信してくれました。
その笑顔には「気になさらないで、ストラの種付け宜しく」と書かれてます。
こうして長年の因縁のある三角関係にまんまと巻き込まれた僕は、トラウマのあるNTRエッチをするハメになったのでした…………あぁ、胃が痛い……
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