第4話 パラドクス
【詐欺師が自首した】という記事が出たあと、おばあさんは警察署に呼ばれました。おばあさんに席をすすめると、お茶を淹(い)れ
「おばあさん、よくオレオレ詐欺だと見破りましたね。オレオレ詐欺が話す言葉にはマニュアルがあって、だいたいのパターンは似ているんですが、それで気が付いたんですか?」
「そうですね、それもありますけど、実はもっと違うことが気になったのです」
「と言うと・・・」
おばあさんは話を続けました。
「AもBも詐欺師だというのは、始めから分かっていたのです。でも、二人の言っていることが余りにも違うものですから試してみようと思ったんです」
「それでですかねえ。オレオレ詐欺の犯人が自首してくるなんて、あまりないんで、警察でもちょったした話題になっていましてね」
と警察官も気になっていたというのです。
「今日、おばあさんに、わざわざ警察署にきていただいたのも、実はAがおばあさんに会いたいということできてもらったんですよ」
そう言うと、警察官はAが待っている面会室に、おばあさんを案内しました。
面会室に入ると、アクリル板で仕切られた向こう側にAが待っていました。
おばあさんはAに話しかけました。
「あなたは、本当に正直な人ですね。私は、あなたなら自分が正直者だと気付いて、警察に自首すると思っていたは」
Aは答えました。
「ええ、あれからよく考えたんです。どうして私の銀行口座には百万円が振り込まれていたのか。Bには1円も振り込まれなかったのか。そして、その理由が分かったのです」
おばあさんは、頷(うなず)きながら
「そうね、あなたはオレオレ詐欺だと言われたあと、こう言ったわよね『私はウソつきです。百万円必要だというのはウソだ』って・・・」
「はい、そうです」
「ウソつきのあなたが、自分はウソつきだといったのよ。だから、あなたはウソつきじゃないと私は思ったの。あなたが正直な人だと信じて良かったは」
おばあさんは続けました
「ところがね、そのあと電話をかけてきたBは『私はウソをつきです。でも、百万円必要なのは本当です』って言ったの。それで、この人はウソつきだと分かって1円も振り込まなかったのよ」
Aは明るい声で
「やっぱり、そうでしたか。じゃあ、私が自首することも、おばあさんは信じてくれてたんですね」
「もちろんよ」
と言って、二人は笑いました。
そのあと、Aは罪をつぐない、今では故郷の田舎に帰って、真面目に農業の仕事に励んでいます。そして毎年、春になるとカンパニュラという青紫色の花束が、おばあさんの家に届けられられるようになりました。カンパニュラには「感謝」と「誠実」という花言葉があります。もちろん、銀行に振り込まれた百万円も無事に、おばあさんの元に戻ったことは言うまでもありません。
お年寄りを言葉巧(たく)みにだまして、お金を取るのは立派な犯罪です。昔から【口は厄(わざわい)のもと】という諺(ことわざ)があります。だます方のオレオレ詐欺の人たちも気を付けた方がいいですよ!お年寄りも、ただ年齢を重ねているわけではありません。たくさんの人生経験を積んでいるのです。おばあさんは、名探偵なのです。詐欺師も、くれぐれも注意したほうがいいですよ。人を信じるという大事なことを、裏切るようなことをしてはいけません。おばあさんとAが笑い合ったような、信頼できる人間関係を作っていきたいものです。
お金を振り込んだ理由は? 善野 オン @honntou
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