第78話 ダフト冒険者組合-2

「あー……ガイエスくん、その、採掘品は……売らないのか?」

「金には困っていないから、考えてなかったが」

「ひとつも?」


 ……食い下がるな、組合長。

 後ろにいる冒険者共も、どうやらかなり興味津々のようだ。


 そうか、武器なんてこんなに持ってても、仕方ないといえば仕方ないか……

 多分、こいつ等も組合長も売って欲しいのは『武器』と『防具』だろう。


 ……そうだな、必要ない物は売ってもいいか。

 だが、今すぐに判断する必要はない。


「一度宿に戻って、食事をしてからまた来るよ。その時に……いくつか売ってもいい」

 おおーっ! と組合員からも、冒険者達からも声が上がる。

「絶対、絶対に来てくれよな! 待ってるからな!」


 組合長がもの凄く必死だ。

 迷宮の発掘品は、ただでさえ高く売れるらしい。

 冒険者なら、垂涎の品も多いのだろう。


「ひとつ、聞いてもいいか?」

 組合長からそう言われてなんのことかと思ったのだが、何故こんなにも発掘品が綺麗なのか……ということだった。


「……洗浄の魔法を使っただけだ。【収納魔法】に小汚いないものを入れておくのが、嫌だったんでな」

 と、いうことにしておく。

 あの手提げ袋のことは、言いたくないからな。


「ガイエスさん、お待たせいたしました。全ての品の手続きを終了いたしました。こちらがその所持証明書と承認書……と、持ち出し許可証です。身分証の更新もしてございます」


 書類や証明札を確認し、一度全部の発掘品をしまう。

 受け取った身分証の冒険者段位が『金段一位』に上がっていた。



 宿に戻り、少し遅めの昼飯を食べた後に、部屋で発掘品の魔力や付与を確認する。

 鎧と長剣に、方陣が描かれているものがいくつかあった。

 どれも珍しい方陣ではないが、魔力がかなり入っているから強力だろう。

 そこそこ長期間効果が続く物が多そうだが、俺には必要がなさそうなものばかりだった。


 髪留めや指輪と腕輪のいくつかには、方陣ではない魔法付与がされているものがあった。

 どれも回復や耐性で、ひとつだけ浄化の付与されている腕輪もみつけた。

 だが、どの発掘品も魔法や魔力という点では、そこまで強いものではなさそうだ。

 あったら便利だがなくてもなんとかなると思えるのは、俺が【方陣魔法】を使えるからだろう。


 それに……どう見てもセイリーレで手に入れた剣より強くて、効率のいい魔法が付与されている物はなかったし、道具類もあの手提げ袋や菓子袋以上に便利そうな物も見当たらない。

 貴金属や装備品も、貴石として売った方が、高く売れるような気がする。


 大した魔力も効果もなさそうな長剣は四本全部、自分では使わないだろうと思われる大盾二枚、重めで分厚いだけの鎧なんかなら売っちまってもいいか。


 防具は胸当てと脛当ては使えそうだし、手甲なんかも取っておいてよさそうだ。

 弓とやじりも使うだろうな。

 短剣はいいのを持っていなかったから、討伐部位解体などには絶対に便利なので取っておこう。


 装飾品系は……まだ様子見かな。

 ああ、でも明らかに女性用の髪留めみたいな奴は売ってしまおう。



 夕方、もう一度冒険者組合に行くと随分と冒険者達で賑わっていた。

 そうか、今日迷宮から出て来た奴等の手続きとか、明日潜る迷宮の地図探しか。

 こんな時間まで熱心なことだ。

 俺も『不殺』の地図を買っておかなくちゃ。


「おおーっ! 待っていたぞ、ガイエスくん!」

 なんだ、この大歓迎は。

 俺が何を売りに出すか、周りの連中も気になっている様子だがそんなに大した物はないぞ。


「売るのは、この袋のもの全部だ」

 大袋には選別した鎧や大盾などの防具、そして長剣が入っている。

 おや、組合長が眼をぱちくりとさせているが……ああ、期待はずれだったか?


「い、いいのか? これ……剣は全部じゃないか」

「長剣は必要ない」

「魔剣士だろう、君は」

「俺には、セイリーレで買った剣がある。こっちのは使わないからな」


 セイリーレ……と、組合長が繰り返す呟きは、様子を窺っていた冒険者達のざわめきで掻き消えた。

「そうか。確かにセイリーレの剣と比べりゃあ……採掘品は劣るかもしれんな。いや、愚問だった。君は、イグロストの魔法師だったんだよな」

 どうやらやはりあの町の剣の価値は、かなり上のようだ。


「だが、その剣があっても、もう一本くらい持ってた方がいいんじゃないのか? 魔獣の血が付けば、切れ味が鈍るだろうに」

「いや、洗浄と強化の魔法が付いているから全く問題ない。魔黒猩まこくしょうを切り刻んでも、血糊が剣身に残ることはないから」


 魔黒猩の血は固まりやすくて厄介らしいのだが、討伐確認部位を切り落とした時も一滴たりと残らなかったのだ。


「……凄い剣だな。解った。じゃあ、全部買い取らせてもらうよ」

「ああ、頼む」

 組合長は、いろいろと心配してくれたのだろうな。

 見た目に反して、随分と面倒見のよさそうなおっさんのようだ。


「迷宮品は競りになる。落札価格の七割が、君の取り分だ。いいか?」

「ああ」


 買取と言っても、まだ俺の魔力が入れられたまま。

 競り落とされたらその買い取った奴が、支払い完了後に組合立会人の元でそいつの魔力を入れるらしい。


 物品への魔力というのは持ち続けていなければ、だいたい十日ほどで再度入れないと判別はできなくなってしまうという。

 俺の手から離れたら、俺の魔力は十日間の間に少しずつ弱くなり、上書きした奴のものになるのだそうだ。


 ……盗まれたら十日間の間にみつけねぇと、盗った奴のもの……ってことなのかもしれん。

 念のため馬に付けたものは? と聞いたら、生きているものが身につけていれば少なくはなるが、十日で判らなくなるということはないらしい。


 そして、他の誰かが魔力を入れていなければ、かなり長い間魔力残滓が残っているのだとか。

 ちょっと、安心した。


「金を渡すために、競りが終わる明後日までこの町にいて欲しい」

「ああ、解った。ゆっくり休ませてもらうことにするよ」


 もともと不殺への対策を立てるために、少しの間滞在するつもりだったから丁度良い。


 俺は品物を預け、不殺の迷宮の地図を買ってから宿へと戻った。

 明後日の競りの日までに、だいたいの支度は調えておこう。

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