第63話 『カース上級十三番・紫迷宮』-4
記章を取り、迷宮の核である首飾りも拝見し終わった俺は、方陣門で『休憩部屋』に戻った。
やはり魔虫の一匹すらも、入り込んではいない。
天井にも周囲にも魔力溜まりや毒は見当たらず、とても清潔な状態のままだった。
自分の身体を浄化して水を飲み、菓子などつまみながら冒険者組合に提出する討伐部位の整理をしておこうと思ったのだ。
なんという贅沢……
切り取った討伐部位は種類ごとにまとめ、数を数えて……だが、まとめて入れるデカイ袋を買い忘れていた。
なんか持ってなかったかな?
あ、保存食の手提げ袋が、確か三枚ほどあったぞ。
中身を他のふたつに分けて入れ込み、なんとかひとつを使えるようにした。
血抜きはしてあるがちょっと中が汚れそうだ……まぁ、後で洗えばいいか。
全てその袋に入れ、まだ少し余裕があったので魔賤鳥も一緒に入れておこうと布にくるんだ方を開いたら……羽根の色が随分と褪せていた。
うわ、時間が経つと抜いてなくても褪せるのか!
【収納魔法】に入れていれば平気かと思ったが、血が残っているせいだろうか?
いや、それだと何故、この間の魔賤鳥は平気だったんだ?
慌てて菓子袋に入れていた二羽を確かめたが、こちらは全く変化していない。
俺が仕留めた時のままだ。
どういうことだろう?
この菓子袋には……魔法が付与されている。
『二百日もつ』と袋に書かれている。
そして、その下の行に『開封後は十日以内に食べきってください』と。
つまり、この袋の中身は再度蓋を閉じれば、十日間は開けた時のままの状態を保つ……ということなのでは?
……すげぇ!
なんて、とんでもない魔法だ!
魔力を通さずに何度も発動する魔法なんて、そんなものあるとは思ってもいなかった!
普通は【付与魔法】で、こんな長期間の維持なんかできねぇはずだ。
俺はこれ以上色が褪せないように、布でくるんでいた方の羽根を毟り取り嘴と爪を外す。
これくらいなら、まだ菓子袋の中に入る。
血はすっかり固まってしまい、肉もおそらく使えないだろう。
残りは焼いてしまおう。
他の保存食の袋には開封後はこの袋は使用できない、と、態々記載されていた。
つまりこっちには『保管の【付与魔法】』はかかっていないのだ。
まぁ、そうだよな。
食べ切っちまうから、必要ねぇもんな。
くそー、これが【方陣魔法】だったら俺にも使えるようになったかもしれないのに。
上に戻ろうと休憩部屋に使ったぼろ外套を回収し、魔虫除けの香も完全に消えたことを確認した。
結構魔力を使用したので、迷宮入口からカースの町までの方陣門の分くらいしか残っていない。
前室には札の方陣門で戻った。
そして門番という奴等は本当に暇なのだろう、またしても賭けの対象にされ、当然またしてもどちらも当たらなかった。
六番で交わしたような会話を再度繰り返し、もういいだろうとカースに戻ろうとした時に、衛兵がひとりとんでもない勢いで走ってきた。
「あんたっ! なんで、三十五番に来なかったんだよ!」
は?
えーと……あ、こいつはあのデルクとか言っていた衛兵か。
門前町から追いかけてきたのか?
うわー……
「絶対にデルムトなら最初は三十五番だろうと思って、四日間も待っていたのに!」
「……それが、俺となんの関係があるんだ?」
「イグロストの二等魔法師になんかあったら、戦争になっちまうからだよ!」
……は?
この説明と言葉が足りない割にどうでもいいことばかり喋る
皇国から来た二等位以上の魔法師には、衛兵団から必ず護衛が付くようだ。
迷宮に慣れていない『冒険者でもない初心者』が、死んでしまわないように……というのはおそらく建前。
死んだとしてもすぐに隠蔽できるように、が正しいような気がする。
「大きなお世話だ」
「まぁ、なんにしてもまだ迷宮に入ってないんだろ? なら、何も問題はない」
「既に三基、踏破しているが?」
「え?」
「冒険者組合に確認しろ」
俺は方陣門を展開し、目だけでなく口まで馬鹿でかく開いたデルクを置き去りにして、カースの冒険者組合へと移動した。
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