第58話 『カース中級六番・青迷宮』から冒険者組合
夕食時間の少し前、俺は方陣門を六番迷宮から直接、冒険者組合事務所へ繋いで移動した。
さっさと済ませて、ゆっくり夕食をとりたかったからだ。
「お待たせ……あら、あなた、今度はどこの地図を買いに来たの? 地図ばかり集めてても……」
「討伐部位の確認と換金、それと踏破証明の手続きだ。地図は要らない」
副組合長は無表情で押し黙り、事務所の奥へと消えていった。
そしてとんでもない勢いで、組合長らしき男が走ってきた。
「とととととと、踏破っ? 単独、で?」
どうもこの国の冒険者組合の奴等は、挙動不審な奴が多過ぎる。
もう少し、イグロストの冒険者組合や魔法師組合を見習えよ。
「もう一度、始めから全部言うか?」
「いえ、いえいえいえ、すみませんでした。すぐに手続き致しますよ」
やっと作り笑いができるようになったか。
踏破徽章を受け取り、登録を済ませ討伐部位の換金をした後、あの見知らぬ鳥の魔獣を見せた。
「確認部位が解らなかったんで、そのまま持ってきた」
「え……これ、
「珍しいのか?」
「魔賤鳥自体は、珍しいというほどではありません。魔虫の大量発生した場所には、よく居る魔鳥です。でも、このように色が残ったままの死骸で、しかもまだ体内の血が固まっていないなんてもの……僕は初めて見ましたよ」
その組合長の言葉が聞こえたのか、冒険者共が聞き耳を立てている。
どうやらこの魔賤鳥というのは甲高い鳴き声で魔虫を操り、獲物を襲わせてその獲物の『眼』だけを刳り抜いて食うらしい。
魔虫はそこから体内に入り込み、魔力の高い個体がまだ生きている内に卵を産み付けることができる……という共生関係のようだ。
「死ぬとすぐに血が腐り始め、羽の色が落ちます。あ、確認部位はその『羽根』なので、色が落ち過ぎたら当然認められないこともあります」
……なんで、腐らなかったんだろう?
【雷光魔法】のせいなのか?
それとも他に何か?
「で、この買い取り、是非ともさせてくださいね! こんなに状態の良いものなら……そうですね、皇国貨で七万、で如何ですか?」
「随分と大盤振る舞いだな」
あんまり吃驚して、棒読みになっちまった。
「この魔賤鳥は、無駄がないんですよ。嘴や爪は宝石と同じように取引されていますし、羽根も色落ちしてないものは装飾品としても薬の原料としても貴重です。肉は流石に食べられはしませんが、乾燥させ粉にしたものを原料にして痛み止めの塗り薬が作られてます。血は魔虫の毒を完全に消すことのできる、最も高価な毒消しですしね」
丸ごと持ってきて正解だったな……
まさかその他全部の討伐報酬より、この一羽の方が高くなるとは思いも寄らなかったぜ。
これなら魔虎の牙は、まだ売らなくていいな。
「ひとつ、お伺いしたいのですが、どうやってこの魔賤鳥を仕留めたんです? たいていの場合、魔虫と一緒に焼けてしまうものなんですけどね?」
「俺が使ったのは、雷光だ」
周囲にざわり、と低い声が漂う。
そうだよな【雷光魔法】は使える者が少ない上に、そんなに強力な魔法じゃねぇと思われているからな。
「流石、イグロストの魔法師は目の付けどころが違いますね! 【雷光魔法】ですか! もしかしたら、【雷光魔法】のお陰で、色落ちがなかったのかもしれませんねぇ」
こいつ、周りに聞こえるように言ってやがる。
この情報を広めて、どうしようっていうんだ?
それを聞いてか、何人かの冒険者達が慌てて外へと飛び出した。
組合長はニヤニヤと……ああ、そうか。
あいつ等、魔具屋に行ったんだな。
俺は『雷光の方陣札』を買わせるための宣伝に使われたってことか。
高価な割に威力が乏しい、人気のない方陣札だからな。
だがおそらくその方陣じゃ、全然役に立たないと思うが。
……方陣札って、魔具屋だけじゃなくて、冒険者組合も儲かるのか?
宿に戻るなりラウルクが抱きついてきて、危うく転びそうになった。
「馬、凄く心配してるみたいだったんだよ! 側に行ってやってよ」
……さすがラウルクだぜ。
客の夕食より馬優先か。
「ねぇ、馬に名前をつけないの?」
「名前?」
「それに所有者証明も付けてないじゃないか!」
なるほど……どっちも……付けておくか。
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