第56話 『カース中級六番・青迷宮』-1
翌朝、俺は馬を宿に預けて方陣門で移動することにした。
迷宮の外に馬留めの仮小屋はあるが、丸一日そこに繋いでおきたくはなかった。
門番は餌なんてやってはくれないだろうし、もし俺が戻らなかったらこいつもそこで死んでしまう。
ならばこの宿に預けておいて、戻らなかったら……売るか、そのまま面倒みてやって欲しいと頼んだ。
ラウルクはちょっと複雑そうな顔をしたが、うん、と頷き、早く戻ってね、と言ってくれた。
朝早く迷宮に辿り着く者などいないのだろう、門番も驚いていた。
「早いな。飯くらい食ってから来りゃいいのに」
「ちゃんと食べてきたぞ」
「……そっか、まぁ、頑張れや」
信じてねぇな。
迷宮の地図は、だいたい五階層くらいまでの分岐が書かれている。
そこから先は自分で何度か訪れて書き足すか、カンを頼りに進んでいくしかない。
迷宮の途中で『比較的安全』といわれる場所がいくつかある。
魔獣が入って来にくいだけで、入って来ない訳ではないがまずはそこを目指して降りていくことになる。
入口の扉をくぐると、ここにも『前室』がある。
ここに、門の方陣札を貼っておく。
魔力切れを起こした時でも戻れるように、念のため、だ。
使わなければ、帰ってきた時に回収すればいい。
おっと、入ってきた扉は魔力を通して『施錠』しておかねぇと。
これが閉まっている限り『中にいる冒険者は生きている』ってことらしい。
……五番迷宮の時にそんなこと、教えられなかったぜ……
常識なのか、碌に知識のない馬鹿者など、どうなってもいいということなのか。
迷宮に続く扉の真ん中辺りに触れてみた。
あ、やっぱり『浄化の方陣』が書かれている。
でも、普通の浄化とは少し違う方陣だ。
門専用なのか?
こんな華奢な扉なのに、なんで魔獣が突き破らないのか不思議だったんだよな。
これはちゃんと覚えておこう。
休む時、出入口にこの方陣を書いた札で魔法を展開しておけば、魔獣が近付く確率が更に低くなるんじゃないかと思う。
最奥の記章のある場所の扉にも、きっと同じように方陣が書かれているんだろうな。
よし、迷宮内に入るか!
一階層から五階層までは魔狼が数匹出ただけで、最短経路を順調に進んだ。
まだたいして広くもなかったし、あの白い森での波状攻撃をしてくる魔狼に比べたら可愛いものである。
早々に地図は役に立たなくなって、俺は探知と毒物鑑定をしながら進んでいく。
探知で魔力溜まりを、毒物鑑定で移動している魔虫を少しでも捉えられれば、と思ったのだ。
このやり方は、素晴らしく良い結果をもたらした。
毒物を感知したら、その方向に光の剣を発動したまま雷光を放つ。
そしてその場所を確かめに行くと、全ての魔虫が悉く生きたまま地面に墜落しているのである。
後は綺麗に焼いてしまうだけ……だ。
この『雷光剣』は、途轍もない発見だ。
しかも、殆ど魔力を使わずに、全体を攻撃できる雷光が放てるなんて!
そのおかげで俺は難なく、魔虎がいるという十二階層までやってきた。
魔力溜まりは右側に溜まっているが、毒物反応は左から正面が多い。
まずは、魔虫を駆除してしまおう。
俺は正面の広い部屋に入るなり、雷光剣の攻撃を放った。
キーーーーーッェェェェッ!
な、なんの鳴き声だ?
採光で明るくして確かめると、青っぽい鳥の魔獣がひっくり返ってピクピクしている。
掌くらいのあまり大きくはないものだが……確認部位が解らねぇ……
仕方ない。
血を出さず息の根を止め、袋に入れて……あ、菓子の空き袋しかねぇな。
まぁ、これでいいか。
口をしっかり閉じておけば大丈夫だろう。
便利だな、この袋。
残りの大量にいる魔虫共は全て焼却。
おおっ、かなりの量だからか緑の炎がもの凄くデカくなった。
煙が部屋に充満する。
これ、吸い込んだらまずい奴かも、と俺は通路へと一時避難した。
燃え尽きた頃に『旋風の方陣』で煙を吹き飛ばし、辺りを浄化してから先へ進もうと右側の魔力溜まりへと向かった。
回廊の先に、魔力溜まりのあった部屋がある。
魔虎……がいたのだが、目や顔を押さえて倒れている。
もしかして、さっきの煙か?
そうか、こいつ等鼻がいいから臭いにやられて、煙で目が利かなくなっているのか!
うわー、魔虫が役に立ったことなんて初めてだな。
目の前に伏せている魔虎に、素早く光の剣の三段目で二撃。
簡単に麻痺してくれたので労せずして確認部位の前足の爪と、ついでに牙をバキバキと折って回収する。
それにしてもセイリーレで買ったこの剣は、もの凄く良い切れ味だな。
しかも洗浄が付与されているせいで、血糊が残らずいつでも綺麗なままだし。
前の剣だったら絶対に魔虎の前足なんて、一発で切り落とせなかっただろうな。
毒があるのは牙の生えている根本近くの皮膚の裏側だから、戦闘にならずに倒せたってことは牙には一切毒が付いていないってことだ。
毒が付着していても浄化すればかなり高額で引き取ってもらえるのだから、これなら結構良い値段になりそうだ。
そして六匹の魔虎を焼却し終わったころ、なんだか腹が減ってきた。
どこかに安全そうな場所がないか……と見回していると、丁度ひとりくらいは入れそうな壁の窪みを見つけた。
近寄って覗いてみると部屋になっている。
そうか、魔獣からの退避場所として、今まで入った奴等が造ったのかもしれない。
この隙間からは、魔狼も魔虎も入れないもんな。
中に入ってから念のため近くの岩を動かして下半分を塞ぎ、岩に前室の扉にあった『浄化門の方陣』を展開しておく。
よし、なんか食べよう!
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