第48話 デルムト-1
三日後、門前町を出て俺は西方向のデルムトを目指す。
馬で半日、徒歩だと丸一日と言われたので、馬を買った。
なんか……目が合ってしまった馬を即決で。
『馬術技能の方陣』のおかげか、昼よりかなり前に辿り着けた。
分厚い隔壁が町を囲んでいる。
魔獣対策だろう。
お、冒険者組合がある。
地図を買っておかねぇとな。
厩舎のある宿を取り、町中を物色しつつ冒険者組合に顔を出す。
懐かしい。
賑わいはあるが、殺伐とした空気感だ。
本来、冒険者組合ってのはこういうものなんだろうな。
イグロストが変だったんだよ、うん。
ここにいる奴等は誰もが、一攫千金の迷宮踏破を目指している。
どの連団がどの迷宮に目をつけているかは、絶対に知っておきたい情報だ。
自分たちの狙っている迷宮へ先に入った奴等が、どうなったかの情報も集めているのだろう。
なんだろう。
わくわくしてきた。
このひりひりするような雰囲気も、値踏みするような視線も、なにもかもがどうでもいい。
ただ、迷宮に挑む、ということだけがとんでもなく楽しみで仕方ない。
「ようこそ、デルムトへ。どちらへの地図?」
「単独でいけそうな浅めの所で、肩慣らしがしたい」
「はいはい……お薦めは、この町の一番近くにある迷宮群の……そうですね、三十五番と三十一番かな」
勧められた迷宮は、どちらもまだ十五階層未満の所謂『初心者用』だそうだ。
育てている途中の迷宮なので、最奥の部屋にある魔具は取り出し不可。
単独でも入れるのはあまり強い魔獣がいないせいもあるが、魔獣の数が少ないというのも理由らしい。
そのせいで、魔具にまだろくな魔力が溜まっていない。
たいして金にならないものを、取り出す奴なんかいない。
踏破の証明には『最奥の扉』の中にある『記章』を持ってくる。
それを門番に見せて証明札をもらったら、両方を冒険者組合に提出すると踏破となるようだ。
記章は迷宮がある程度できて人が入れるようになった時に最奥まで行き、方陣門の札を仕掛けてくる。
そして十階層を越えたくらいの時期に、査定する者が中の魔獣などを調べてから、等級や難易度を設定するらしい。
それにしたって、よく襲われもせずにそんな作業ができるものだ。
なにか秘密があるんだろうが……そこまでのことだと国家機密って奴かもしれないな。
代金を支払おうとして、まだこの国の貨幣に両替していないことを思い出した。
「すまん、皇国貨でもいいか?」
俺がそう言うと、受付の娘が急に満面の笑顔になった。
「もっちろんですっ! 寧ろ、皇国貨、大歓迎ですっ! えーっと、初級地図二枚ですから、皇国貨なら百八十ですっ!」
皇国銀貨一枚と皇国銅貨八枚……安いなー。
そう思いつつ、じゃらっと貨幣を出したら受付の娘は目を輝かせる。
「ふわぁー! 皇国貨って、やっぱり綺麗ですねぇ……! あー、すごいっ! 本当に魔力が入ってる! あたし、初めて触りましたー」
……そうなのか?
「皇国貨ってのは、この国の貨幣に両替するとどれくらいなんだ?」
「えっと、今は皇国貨百がストレステ硬貨二百二十くらいですね。あ、でも……」
急に小声になり、俺に耳打ちするようにしゃべり出す。
「これからもっと、皇国貨は価値が上がりますよ。絶対に両替しない方がいいと思います!」
どうやら五日に一度交換率が変更されるらしく、ここのところ毎回皇国貨の価値が上がっているらしい。
娘の話だとアーサスからの物資とマイウリアからの輸送船が運んでくる物資が減っているそうで、ストレステにとってイグロストは命綱なのだという。
イグロストでは、他国の通貨での売買はできない。
そのこともありストレステとしては、なるべく皇国貨を集めたいのだろう。
……俺、あの国で稼いでてよかったなー。
宿に戻り、地図を広げた。
まずは、お勧めされた三十五番の迷宮。
ん?
『五』としか書いていないが……いちいち全部は表記しないものなのかもな。
ああ、もう一枚も『一』としか書かれていないから、そうなんだろうな。
ここからだと馬で行くより、歩いた方が良さそうだ。
すげーな、こんなに町の近くに迷宮があるってのに、魔獣に襲われてはいないみたいだ。
隔壁に守られているだけじゃなく、衛兵団も強いんだろう。
そういえば、あのデルクとかいう衛兵は……なんだって俺に付き纏っていたんだ?
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