第47話 ストレステ・門のある町
外壁門をくぐると、最終審査が行われている事務所があった。
身分証を提示すると俺は問題なく通過できたのだが、どうやら何日もここで待たされている奴等がいるようだ。
衛兵団の見張りがいたので訪ねると、冒険者の場合は銀段三位以下の者は魔法と剣や弓などの実力を試され基準に達していないと入れないのだという。
「こんなに早い時間にこの門まで辿り着いた冒険者なんて、十年振りくらいだぜ」
そう言って笑う衛兵は、親切にお勧めの宿まで教えてくれた。
行ってみると安い割になかなか良い宿で、普通に夕方に到着したら絶対に空いていなかっただろうと感謝した。
この門前町に最低三日以上逗留せよ、という規定があり、その三日間でストレステの『流儀』を身を以て学べということらしい。
至れり尽くせりだな。
冒険者は大切なお客だから、なるべく簡単に死なないように気を使ってくれているのだろう。
あ、ここの部屋の水、果実水だ。
旨いけど、イグロストの物よりちょっと薄いな。
宿の昼飯も悪くはなかったのだが、やっぱり香辛料が足りねぇ……
ロートアで胡椒を買っておいてよかった。
ちょっとかけると……うん、結構旨くなった。
「へぇ、贅沢なもん使ってんなぁ」
そう言いつつ、どっか、と俺の向かいの席に座ったのは、若い衛兵団の奴だった。
「最速の入国者ってあんただろ?」
ああ、とだけ答えて食事を続けてると、やたらと話しかけてくる。
なんで食ってる最中に絡んで来やがるんだ。
「で? どの連団に参加するか、決まってんのかい?」
丁度食べ終わったので答えてやるか……
「どこにも入る気はない」
「え? 単独……か?」
「ああ」
「……イグロストの魔法師が、冒険者の真似なんて止めた方がいいぜ?」
なるほど。
俺が優遇されたのは『イグロストの二等位魔法師』だからか。
「俺は、元々冒険者だ。偶々立ち寄ったイグロストで、魔法師登録をしただけだ」
俺がそう言って席を立つと、そいつは顔全体が目じゃねぇかってくらいに見開いている。
「あり得ねぇだろ……他国の冒険者が……イグロストで魔法師になれるのか?」
「俺はなれたが?」
「あんた、きっとすげぇ魔力と魔法があるんだな! どうだ? 冒険者より、衛兵団に入らねぇか?」
馬鹿かこいつ。
「冒険者じゃなけりゃ、この国に来る意味なんかないだろうが」
こういう絡んでくる奴への対応とか、実に面倒くさい。
俺はそのまま町に出て、攻撃系の方陣でもないかと魔具屋を探すことにした。
……付いてくる。
あの若い衛兵団の奴が、ニヤニヤとしながら隠れるでもなく。
そういえば……名前、デルクって言ってたか?
魔具屋は空振りだった。
どうやらイグロスト以外ではやはり方陣はただの補助であり、『役に立たないもの』のようだ。
本当の使い方を知らないって、こういうことなんだな……と、俺は溜息をついた。
古代文字の方陣が読めるなんてことは、絶対に言わねぇ方がよさそうだ。
だが、浄化や回復の方陣札がとんでもない高値だった。
使える奴が少ないのか?
この国では魔具屋は、魔石の補充が必要な時だけしか用がないだろう。
門前町は、たいして広くはないし、近くに迷宮もない。
店も決して多くはなく、そのせいかどの店も相場よりかなり高額だ。
ここで、迷宮への装備や食糧を全て調達するなんて難しいだろう。
元々ちゃんと準備していない奴は、この先に入るなよということなのかもしれない。
なるほど……
親切かと思ったが、そういう訳ではなかったってことなんだな。
イグロストでの三ヶ月半で、俺はすっかり『周りにいるのは善人』だと思う癖がついちまったんだな。
危険だ。
ここは『迷宮国』……この国の全てが、敵だと思うくらいの方がいいのかもしれない。
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