第25.5話

「やはり、逃げたか」

「はい。金だけでなく、部屋の備品まで持っていったようです」

「あの金に手を付けずに出ていっただけならば、見逃してやってもと思ったが。で、どこへ向かった?」

「どうやら北の国境門ではではなく、港……オルツの方です」


「ほう、少しは頭の回る奴のようだな。この時期にガストレーゼ山脈を越えるのは至難の業だ。おそらく、海路でヘストレスティアへ入るつもりだろう」

「ではオルツ港へ警戒の連絡を」

「うむ、できれば……上手く『片付く』とよいのだがな」

「……左様でございますね。そう、伝言しておきます」




(なんとか出られたが、この程度の金じゃ……この国の奴等は魔力が高いせいか、俺の魔法が全然効かねぇし……仕方がねぇ、ヘストレスティア行きの船に忍び込むか)


(あの積み荷、入れるな。間違いない、ヘストレスティア行きだ)


(やばいっ誰か来る!)



「そうね、その荷物、忘れずに積んで。ヘストレスティアから注文が来ていたわよね?」

「はい、ああ、こっちもですぜ」

「……」

「港湾長?」

「……いえ、なんでもないわ。ああ、これ、探していたのよ」

「はい、了解です。じゃ、こちらで」



(……行ったな。よし、この隙に……!)



「見ましたわね?」

「へぇ、しっかりと」

「それでは、然るべき処理をしてね。憲兵隊から『伝言』来ていたわよね?」

「はい。……『行方不明』です」

「……それなら仕方ないわ。さぁ、次の遠洋船の点検に参りましょう!」



(上手くいったぜ。これで、このまま船に……)

がこんっ

ががががっ

(いてて、積み込みが結構雑なんじゃねぇのか?)


(もう……船に載ったよな? ……あっくそっ、開かねぇ! なんでこんなに力が入らねぇんだ? くっそ重いっ! ヘストレスティアまでこのままかよ! くっそぅ!)



「おーい、おろすぞー」


(い、いけね、寝ちまってた。あれ? もう着いたのか? 流石、セラフィラントの大型船は速ぇな)


「ああ、この箱はこのまま『三番』だ」

「了解ですー。どのくらいですか?」

「これは……ああ、『虫殺し』って指示だから、蒸気で六時間だ」


(え? この箱……? う、動いてる? えっ、ま、まさか……)

シュー……シューーーーッ!

「うわっ、熱っ! 熱いっ! おいっ、開けろっ、熱い熱い熱いーーーーっ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」



「あれ? なんか聞こえましたか?」

「……いいや、なんにも?」



「……さっきの蒸気蒸しの箱、積み込んだあとも現地に到着するまで開くなよ」

「はい、温度も下がらねぇようにしてあります」

「ああ、それでいい」

「明日のヘストレスティア行きに載せるんですよね?」

「ああ、そうだ。魔虫なんかが居たら、まずいからな。ちゃんと【浄化魔法】もかけておけよ」

「はい!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る