第14話 砂の町・カルトーラ-2
魔具屋はもう二軒ほどしか残っていなかったが、魔石をいくつかと使えそうな方陣札を買えた。
セイストに比べてもの凄く良心的な価格だったので、思わず購入してしまった。
買ったのは『俊敏の方陣』と『旋風の方陣』だ。
どちらも戦闘中に使えるし、旋風は炎熱より少ない魔力で使えるもののようなので使い勝手がよさそうである。
買い物を済ませて、町の小さい食堂で昼飯を食っていたら隣の席に座った奴等の会話が聞こえてきた。
「え、アーサスとの国境、完全に封鎖ってことか?」
「ああ、そうらしいぜ。戦争になりそうだな」
もともとガエスタ王国からアーサス教国へは、よっぽどの冒険者でないと入国させてもらえない。
このふたつの国は、ずーっと小競り合いを続けている仲の悪い国同士だ。
それが完全閉鎖となると……やはり当分、アーサス経由は無理だな。
「それにイグロストにも、あと半月ほどで入れなくなるし……南下した方がいいんじゃないのか?」
「南西のマイウリアも、革命派が政権奪取に失敗してから結構きな臭いんだよな。ロムルスの港から船で出るしかねぇかも」
え?
イグロストって……ウラクの国境のことか?
あと半月で通れなくなるって……セイストからだって、馬車がなかったら一ヶ月以上かかるぞ?
絶対に間に合わねぇじゃねぇか!
そうだ、イグロスト皇国は冬場の入国を制限しているんだった……
まずったなぁ……
俺のような銅段の冒険者じゃ、アーサスもウラクも冬場は通してもらえそうもない。
あいつ等がセイストで俺を切り捨てたのは、俺ひとりだったら絶対にセイストから一ヶ月以内にウラクへは辿り着けないと解っていたからだろう。
何があっても追い付けない、イグロストには入れない……と。
南下したとしても、冬の間はガエスタから出られないということになるが、それはまずい。
このままアーサスと戦争状態になったら、完全にウラクの国境は閉鎖になる。
冒険者への依頼も、戦争へ参加する『傭兵』は増えるに違いないが、その他は激減する。
戦争になんてなったら、港だって閉鎖の可能性がある。
アーサスからもガエスタからも、陸路でイグロストに入るにはあの国境門しかない。
堅固な守りのあの皇国は、絶対に戦闘状態の両国に手出しも口出しもしないだろうから戦争が終わったとしても国境は暫く開かれないだろう。
他国の者には信じられないほど冷たい国、冒険者に厳しい国だ……と、聞いたこともある。
だが、ガエスタを出国するなら今しかない。
かといって、方陣門で入れるマイウリアに戻ったとしても……
政変と革命失敗の国で何があるか解らないのに、行きたくない。
そんな国には、冒険者への依頼なんてまともなものはないだろうし。
俺が頭を抱えていると、また、隣から笑い声と一緒にある迷宮の情報がもたらされた。
「はははははっ! やっぱり失敗したのかよ、あいつ等!」
「だから、何度も止めとけって言ったのになぁ、あの迷宮だけは」
「いい気味だぜ。ちょっと強ぇからって随分威張り散らしていたしな。で、何人死んだ?」
「ふたりだってよ。でも遺体は持ってこられたらしいぜ」
「てことは、魔虫の苗床にはならなかったのか。ちっ、どーせなら全身に卵産み付けられちまえばよかったんだ」
怖ぇ……そいつら、そんなに恨みを買うような酷い奴等だったのかよ。
「『不殺の迷宮』で魔獣じゃなく仲間が死んで失敗とは、一番間抜けな失敗じゃねぇーか!」
『不殺の迷宮』
何度か、いろいろな町で聞いたことがある。
ストレステの西にある七十年ほどの迷宮で、一匹殺しただけで大量の魔獣や魔虫に一気に襲われてしまい、全く踏破できないと言われている迷宮だ。
何も殺さなければ、そこの迷宮の魔獣達はなぜか襲いかかって来るものは少ないらしい。
だが、虫一匹でも殺してしまうと……大量の魔獣や魔虫に、あっという間に集られてしまうというのだ。
そんな迷宮あるものかよ、と半信半疑だったが挑んだ奴等がいたんだな。
そして、失敗して仲閒を失った……と。
「あの迷宮、まだ七階層までしか入った奴がいないらしいから、八階層に行けりゃとんでもない魔具がたんまりありそうだって言ってたが、あいつら二階層でその様だってよ」
「広くないけど深いって言ってたからなぁ……どんな魔具があるかは気になるけど、あそこに入るくらいなら『毒霧の迷宮』の方がマシじゃねぇか?」
「毒霧も結構危ねぇけど、そんなに濃い毒じゃねぇ場所もあるらしいから対策はできるよな」
不殺と毒霧。
どちらも未踏破の、最奥の階層に辿り着いた者がひとりもいない迷宮。
……行ってみたい。
無謀だと解っているが、そういう迷宮こそ、興奮するってものじゃないか?
だが、一番の問題は……この国からの脱出だ。
迷宮よりこっちの方が深刻だぜ。
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