第3.5話

「ちっ、なんであれしきの魔獣、倒せねぇんだよ!」

「また失敗か……ナスティの魔法が、全く役に立たないせいだろうな」

「あたしのせいじゃないでしょ! オーデンの動きが鈍いのよ」

「俺は、剣が重いから仕方ないんだ! それを魔法で補うのが、ナスティの役目だろうが!」

「なんでこうもツいてねぇことばかり……他の依頼、探して来いよ」

「あたし、しょぼい『採取』とか、絶対に嫌よ!」

「ろくな魔法使えねぇくせに、何言ってやがる」


「……! おい、セイストで殺さなかったあの『銀段』、憲兵に訴えたみたいだぞ!」

「え?」

「手配書が貼られている。あれだと……オーデンって……解っちまいそうな感じだ」

「じゃあ、今すぐにでも出ないと駄目じゃない!」


「だけど、次のレムトまでは、歩いてなんて無理だぜ?」

「ローエスじゃ……憲兵の目が厳しいから『借り』られねぇしな」

「そうね。でも、国境付近は危険だって言うし、乗合馬車はないの?」

「今、確認してくるっ!」



「ちょっと、ニルエス、どうだったの?」

「うん……乗合馬車、あるんだけど高い。ひとり七百だ」

「何よ、それくらいならあるでしょう?」

「皇国貨で、七百なんだよ」


「え?」

「おい、いくらなんでもそれは高すぎだろうが!」

「皇国貨なんて、三千も持ってないよ……」

「ちょっと待てよ、なんでそんなに少ないんだよ?」

「そうだぞ、金のかかる奴がいなくなったというのに、何に金を使ったんだ?」


「あたしは普通に、みんなの分の食べ物を買ったりしていただけよ」

「オーデン、あなたこの間、剣を修理していたじゃない。それが高かったんじゃないの?」

「それを言うなら、リーチェスもだろうが」

「ガウリエスタ硬貨はあるんだろ? 両替すれば……」


「両替しようにも、セイストまで戻らなきゃ無理だわ」

「オーデン、あいつの、ガイエスの奴が持ってた方陣札とか、魔石を売りゃなんとかなるんじゃねぇのか?」

「ああ、そうだな! 方陣札なら……」


「ないわよ」

「ないってどういうことよ、ナスティ」

「だって、あの時、馬車の中に置いていけって言ったのはリーチェスでしょ?」

「あ、あの袋に入ってたのかよ! なんで持ち歩いてねぇんだよ!」


「どうしてあたしが、荷物持ちなんかするの? あたしは、魔法師よ! 荷物なら力がある男が持つべきじゃない!」

「てめーっ、この……!」

「止めなさいよ、リーチェス。ない物は仕方ないでしょ。他の方法を考えましょう。ちょっと、こっち、来て」


(……マグレットが止めるなんて、珍しいこともあるもんだな……なんか企んでるのか?)



「なんだよ、マグレット! あのガキ、最近つけあがり過ぎなんだよ、三流魔法師のくせに!」

「そうよ、あんなでき損ない魔法師なんか相手にするなんて、あなたの格が下がっちゃうわ、リーチェス」

「ま、まぁ、そうだが……」

「大丈夫よ。あたしに任せて? ね」



「すまなかったな、マグレット。おまえの装飾品を売らせることになってしまって」

「いいのよ、オーデン。みんなで旅ができるならあれくらいは」

「やっぱりマグリットは優しいな。流石、俺の女だぜ」

「もうっ、くすぐったいわ、リーチェス」


「どうしたんだい、ナスティ?」

「……い、いいえ、なんでもない……」

「あれ、怪我……?」

「なっなんでもないわ! 昨日……ちょっと、階段で滑っちゃったのよ……」


「あら、危ないわねぇ。そそっかしいのね、相変わらず」

「あんた……よくもそんな……っ!」

「ナスティ、なんだと言うんだ? マグレットは親の形見の首飾りを売って、馬車の代金を工面してくれたんだぞ?」

「……」



「ふふふ」

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