第6話 魔王との会話

 アルファが率いる『シャリ』と共に邪神の情報を集め始めてから7経った頃。


「何の用でしょうか?」

 

 僕はいきなり魔王様に呼ばれ、困惑の表情を浮かべていた。

 

「……」


 我が居城の中央部に存在しているリビングのような立ち位置の部屋に置かれた巨大な大理石のテーブルに腰掛ける僕と魔王様。 


「……」

 

「……」

 

 魔王様は沈黙を貫き、僕も同様に沈黙を貫く。貫かざるを得ない。

 ここの雰囲気の中、魔王様を相手に口を開くのはかなり勇気のいることであった。


「……私にはわからない」

 

 長い沈黙の後。

 ようやく魔王様が口を開く。

 

「何故、君は私をここまで甘やかす?……ここでの生活は悪くない。監禁状態ではあるものの、出てくる食事はどれも美味であり、ある程度の自由も認められている。わからない。何故ゆえに君はここまで私を……甘やかすのだ?」

 

 魔王様の瞳に浮かんでいるのは疑念。

 人に、他人に裏切られ続けた人間の末路。他者を……信用することの出来ない人間の持つ破滅的なまでの疑念。

 人は残酷であり、自分が絶対に助けられることのない世界に絶望し、世界を滅ぼさんと欲すあまりにも強い魔王様。

 ただただ一人孤独に自分を愛し、救ってくれる人を欲すあまりにも弱い魔王様。


「それだけじゃない。……君は私に対してあまりも知りすぎている」

 

 魔王様の言葉は続く。


「君は一体何者なんだ?理解できない……私には何もわからないのだ。そして、私は何もわからぬまま大人しく座していられるほど大人しくはない」

 

 『シャリ』の面々が後ろで構えている中、魔王様は気丈に……僕に対して強い殺意を向けてくる。


「お前はなんだ。何故私を知り……何故私を甘やかす」


「ふふふ」

 

 魔王様の疑念。

 それに対して僕は笑みを返す。


「僕が一体何者であるか。それを話すことは難しいし……話したところで誰にも信じて貰えないだろう。でも、僕は多くのことを知っている。君の存在も。過去も。魔王様の後ろにいる邪神のことさえ知っている」


「……ッ!?!?」

 

 邪神。

 その名を聞いた魔王様の表情が驚愕に染まる。


「それでも……僕は魔王様に対して己が何故そこまで博識なのかを語る事はできない。でも、何故魔王様を僕が己のすべてを使って甘やかすのか。それを語る事はできる」


「……」

 

 無言で僕のことを見つめてくる魔王様に対して僕は真っ直ぐな気持ちと言葉を投げかける。


「僕はあなたのことを愛しています。理由はただそれだけです」

 

 これが答え。

 何故それほどまでに頑張るのか。その理由はこの言葉だけだ。

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