第41話

 『大いなる災厄を予言し天空の大狩猟団』


 北欧神話において語られる大いなる災厄の予兆。

 

 ワイルドハント。

 

 晩秋から春にかけての嵐の夜に天空を疾駆する『ワイルドハント』……オーディンの狩猟団が顕現ス。

 凄まじい咆哮、雄叫び、悲鳴、鬼哭、呻吟、暴風が耳をつんざき、空気を切り裂き、八本脚の怪馬にまたがったオーディンが配下の者とともに狼や猟犬やカラス、魔物や妖怪、非業の死を遂げた者たちを引き連れ、空を渡ってゆく。

 ワイルドハントが目撃されれば、疫病、天災、大恐慌、戦争といった災厄が起こるとされ、当然見た者は命を絶たれ、亡霊となって彼らへと縛り付けられる。

 

 僕の魔法である『大いなる災厄を予言し天空の大狩猟団』のモデルはこの『ワイルドハント』であり……僕の魔法は災厄までが再現される。



「……ッ!?」

 

 当然。

 僕の体から魔力が膨れ上がったのを感じ、


「ど、どこにそんな力が……ッ!?」

 

 アルファたちは僕とは違って天才と呼ばれる人種だ。

 そして、勇者のもつ力は天才なんて矮小な呼び名を超える。あれはただのチートだ。

 彼、彼女らにはそんな才能……心底もったいない。だからこそ、僕が利用しよう。


「ふー」

 

 ラーニャが勇者に使った繭の魔法に僕は細工を施した。

 あいつの力を強制的に引き出し、利用出来るようにする小細工を。気づいていないだけで……眠っている膨大な力を。

 

「起きろ……スルト」

 

 膨大な炎が僕より溢れ出、この世界を、熱く……黒く染め上げていく。

 どこまでも……どこまでも黒く、熱く。


「……まずッ!?」

 

「炎の剣」

 

 災厄が起こる。

 終わりが起こる。

 北欧神話におけるラグナロクの……最期の一撃が放たれる。


「……ッ!?」

 

 僕が開放した炎が容易く魔王様を飲み込んでいく。

 イカれ腐った凡人の刃は……魔王様にほんの僅かな傷を残した。

 この魔法を防ぐことが難しくなるレベルの。


「これで終わりだ」

 

 僕は地面に倒れたまま、一言呟いた。

 すべて計算通りに。

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