第20話
「……寒い」
「服、貸すよ」
僕は自分が着ている服を脱ぎ、レーニャに着替えさせる。
本当は温かい風を作れるのが一番なのだろうが、僕がそこまで器用ではない。
「ありがと」
僕とレーニャは夜風の冷たい中、幼少期によく居た木の下に座っていた。
空の上では既に星が見え始めていた。
「……」
「……」
代官が来る前のときのように僕とレーニャの間に沈黙が降りる。
「ねぇ……」
そして、またあのときのようにレーニャは沈黙を破るように口を開く。
今、彼女の言葉を遮る物はなにもない。
三天の月が見守る空の下、彼女話し始める。
「私はマキナのこと好きだよ……ずっと、ずっとこの村で平和に暮らしていて欲しい」
「……」
僕はレーニャの言葉に無言で耳だけを傾ける。
「でも、いつも、マキナは別のところを見ている。ただただ一つの場所に向かって走り続けている。想像を絶する術で。……私はついていけない。手助けすることも出来ない」
レーニャは一度言葉を区切り、僕の前に来て視線を合わせる。
「でも、忘れないで。あなたには居場所がある。……私は待っているから。疲れた時、羽を休める場として。やり遂げて燃え尽きちゃった時の最終地点として。いつでも来ていいから」
「……」
「私はいつでもここにいるから」
「……ありがと」
「えへへへへ」
僕はこれ以上無い幸せ者だろう。
こんな可愛い女の子からまっすぐに愛され、献身を受けて。
僕の中にはレーニャを愛おしく思い、一緒に過ごしたいと思っている自分もいるのだ。
あぁ、しかし。
しかし、それでも。
それでも僕の狂気は嗤うのだ。
狂おしいまでの僕と言う存在は、桐ケ谷零夜は魔王様を求め続けるのだ。
なんてひどい……なんて惨たらしい存在だろうか。
魔王様を心の底より求める僕は……別の異性のために命を捧げている僕は、レーニャに嫌いであると告げることができない。
僕は彼女の愛に浸り、応えず、何の言葉も返すことなく……ただただ愛に浸かって今を過ごし、また。
レーニャを置いていくのだ。
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