第17話

 気が弱い人ならば、道具を見ただけで倒れてしまいそうな、挟まった血肉が腐り、血によって錆びている数々の拷問器具。

 培養液に浸されている壁一面の棚を埋め尽くすほど大量の人心臓。

 生命を冒涜しているとは思えない数々の生き物、魔物を合わせて作られたキメラの死骸。

 野ざらしで置かれているのに一切腐ることもなく残されている人間の子宮。

 一体何の生物なのか見てわからない小さなピクピクと動く肉塊。

 ギチギチという不快な音を死ぬことなく鳴らし続けるかご一杯に敷き詰められた歪な形の蝿たち。

 昔のことを記しされた石版、書物。


 そして。

 

 元々生まれたときに僕の体に入っていた数々の臓器、肉、骨、皮が地面に適当に転がっていた。

 僕の殆どの体は既に別のものへと変えられていて、今、僕と言えるのは脳だけだ。


「……?」

 

 下手な拷問室よりも……いや、この世界に存在しているどんな部屋よりも遥かにおぞましく、生命を冒涜しているその部屋。

 一般的にとてもきれいとは言い難いその部屋であるが、ここは僕の想像以上にきれいだった。

 

 別に管理自体はさほど難しくない。

 やり方さえ教えればレミアやアレナであっても可能だろうが……この村にそんなことができる人なんていな……い……。


「もしかして……レーニャ?」

 

 僕の頭の中に、まだこんな部屋を作らずに、レーニャの前で色々と非人道的なじゃない実験をしているところをずっと見ていたレーニャんの顔が思い浮かんだ。


「いや……まさかな」

 

 僕は己に飛来した考えをバカバカしいと一蹴し、自分の気の所為ということにした。


「さて……整理と、調整をするとしようかな」

 

 僕は異空間収納からナイフを取り出し、自分の肌に押し当てる。


 鮮血が舞う。

 

 狂気が嗤う。……その下には一人の少女の愛と献身が隠れていた。

 

 

 あとがき

 ちなみにだけど、レーニャは狂人じゃない。

 レーニャは人体がどうなっているとかよくわかっていないから、非人道的な実験をしているとあまりわかっていない。

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