第1話

「……」

 

 HRが始まるよりも前の朝。

 僕はその時間で本を読んでいた。

 

「好き!好き!好き!大好き!付き合って!!!」

 

 静かで、平和な時間。

 そんな時間をぶち壊すような大きな声が響いてくる。

 教室に入ってきたテレシアがいの一番に僕の方へと駆け寄ってきて、求愛の言葉を告げる。


「……断ったじゃん」

 

「いやぁー、モテ男ってのも大変そうやな。公爵令嬢からの求婚を受ける平民なんて前代未聞ちゃうかいな?」

 

 辟易とした僕の言葉に対して、隣に座っているアレナが楽しそうな声を上げる。


「はぁー」

 

 僕は深々とため息をつく。

 まさかテレシアがこんなにも粘着質だったとは……普通に予想外だ。

 普通は告白して、断られた後も平然と毎日のように愛の言葉を話し続けるとかどんな嫌がらせだよ。


「ふふふ。お父様からの教えだよ!一度狙ったえっものは必ず手放すなッ!ってね」

 

 得意げな様子でテレシアが告げる。


「……なんてことを教えてくれるんだ。テレシアの父親は」


「お義父さんって読んでも良いんだよ?」


「誰が呼ぶかッ!」


 僕はニコニコの笑みと共に告げられるテレシアの言葉に叫び声を返す。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 なんでこんなことで疲れなくちゃいけないんだ……。


「努力はいつか報われる!……そう信じているから!」


「信じるなし」

 

 本当にキラキラとした瞳を向けてくるテレシアを前に深々とため息を吐く。

 

「いえ。……努力は必ず報われますよ」

 

「あっ。おはよう」


「あぁ。おはよう。ラーニャ」


「……」


 僕は新しくやってきた人間の声を前にげんなりとした声を上げる。


「おはようございます。マキナ様」


「はい。おはようございます。第二王女殿下」

 

 僕は胡散臭さ全開の笑顔を浮かべて第二王女殿下へと挨拶の言葉を話す。


「はい。……それで?一体何の話をしていらしたのでしょうか?努力という単語が聞こえ、割り込んでしまいましたが……」


「いつもやってるテレシアの求愛の話やで。惚れてもらえるように一生懸命努力しとったら必ず報われるって言う話やで」


「なるほど……そういうことですか。私もそう思いますよ。正しき努力は必ず報われるものですから……」

 

 第二王女殿下は美しい笑顔を浮かべて、告げた。


「「……っ」」


「はぁー」

 

 その第二王女殿下の笑みは……人に底知れぬ恐怖を与えるのだった。

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