第18話

 アレナに連れられて入る高級宿。

 

「ええさかい。ええさかい」

  

 アレナのその言葉に押された僕はその流れに押し切られてこの宿の中でも特別に高い部屋に通されていた。


「ふー」

 

 僕はアレナの厚意によって泊まらせて貰った宿の一室に置かれているベッドに僕は身を委ねる。


「さて、と……ここまでは想定通りだな」

 

 滞在場所を確保した僕は脳内に作っていたやることリストの一つにチェックをつける。


「んー。まぁ、予定通り泊めてもらえることになったし……このままいくらでもここに滞在しておけるようにしないとね」

 

 柔らかいベッドに寝っ転がったまま、僕は魔法の発動のための準備を開始する。

 魔法の発動に必要なのは詠唱、もしくは魔法陣。

 

 『魔法とは己の持っている魔力という謎のパワーでなんかこう良い感じに世界の法則に干渉する術であり、それを行うには詠唱と魔法陣が必要。詠唱と魔法陣は……世界に捧げる生贄的なsomething』 

 

 公式設定集にそうやって書いてあるので間違いない。

 魔法関連の細かい設定があやふやだから五感に働きかけることで相手に魔法の効果を付与するなんて言う無茶苦茶な技術が存在してしまうのだ。


「ほほいのほい」

 

 僕は魔法陣をサクッと書き終える。

 ちなみに魔法陣の書き方は簡単。脳内で絵を書くように魔力で魔法陣を書くのである。

 面倒。印刷は出来ないのか……。

 

「ん……」

 

 発動したのは己の気配を消す魔法と己のステータスを向上させる魔法。


「さて、と……行きますか」

 

 僕は自分の姿を隠し、闇へと溶かしたまま。

 双極の太陽がかけてきた夕方。

 この宿を遠くより監視していた存在、アレナを監視していた存在、商会の本部を監視していた存在。

 それらを完全に制圧したのだった……。

 

 ■■■■■

 

 扉の開く音。


「あっ……ようやく来た……ん?」

 

 それが聞こえ、後ろを振り向いた僕。

 僕の居た部屋に新しく入ってきた女性の姿を見て僕は首を傾げる。

 そこにいたのは肩まで伸びた黒い髪に紫色の瞳を持ったスレンダーな女性だった。


「あれ?アルファは?」


「申し訳有りません、マキナ様。現在アルファは取り込み中でして……」


「なるほどね。じゃあ、イプシロン。アルファの代わりをお願いできないかな?」


「おませください」

 

 女性、五賢会の一人であるイプシロンが僕の言葉に頷く。


「えぇっとね……ちょっとだけ頼みたいことがあって……」

 

 僕はさっき確保してきたばかりの奴らをイプシロンに渡して、やってほしいのことの説明を行った。

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