第4話

「ただいまー。マキナちゃんは大丈夫でちゅかー」

 

 狭く、ボロい家の中に女性の声が響く。


「……ん」

 

 僕は声が聞こえてきた玄関の方へと視線を向ける。

 そこにいるのは一人の女性。

 ボサボサの赤髪に赤い瞳を持ったそばかすの目立つ女性……僕の母親の女性であるマリーナである。


「おかえり、ママ」

 

 僕は自分のお母さんに向かって声をあげる。


「マキナちゃんは今日も大人しく待てて偉いねぇ」

 

 マキナ。

 それが今世の僕の名前となる。名前が女の子っぽく、ちゃんづけされると完全に女子にしか聞こえない。


「お父さんももうすぐ帰ってくるからね」

 

「ん」

 

 僕は短い言葉で頷く。

 今ここで僕が流暢な言葉で会話したりしたら、お父さんにもお母さんにも驚かれてしまうだろう。

 そのため、流暢に会話することは出来るが、あえて言葉足らずに話している。

 まぁ、今更のような気がしてならないが。一切泣かず、暴れず……淡々としている僕は他の子供と比べて大人しすぎるだろう。


「良し!それじゃあ今日もご飯を作っていくわよ」

 

 キッチンに立ったお母さんが夕食を作り始める。

 作るのは日本での生活とは考えられないまでに貧相で寂しい食事だ。

 この食事だけでこんな世界に転生してきてしまったことに大きな落胆と悲しみを覚える。

 それだけひどい食事なのだ。

 

 異世界に転生してからの僕の生活。

 それは両親が仕事で留守にしている朝から夕方にかけては散歩したりして、帰ってきた夕方からは両親とともに家で過ごす。

 

 この世界の大人たちは生きるのに必死。

 母親が家で家事なんてしている暇なんかない。少しでも人手を必要としている。そのため、両親が家に居ないなんてことは僕の家だけでなく他の家でもよくあることなのだ。

 

「帰ったぞー」

 

 無精ひげを生やし、お母さんと同じくボサボサの髪で肌が荒れに荒れている男、ガクが家の中に帰ってくる。

 お父さんが家に帰ってくるだけで家に悪臭が広がり、不快度指数が増加する。

 ……お風呂がないこの世界では匂いも、汚れも落ちず、ものすごい匂いを撒き散らすのである。

 加齢臭オブ加齢臭。どこかの国民的アニメのお父さんの靴下レベルの激臭をうちの父親は保有している。

 それだけでお父さんの匂い戦闘力の強さがわかるだろう。


「おかえりなさい、あなた」

 

「ん。おかえり」

 

 僕とお母さんは帰ってきたお父さんに向けて声をかける。


「もうすぐ夕食が出来るから待っていてちょうだい」


 不平不満の貯まる僕の異性界生活……それはゆっくりとのんびり過ぎ去っていくのだった……。


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