バグチェッカーズ編

バグチェッカーズ編1話 戦え!バグチェッカーズ!

「バグチェッカー、レッド!」

「バグチェッカー、ブラック!」

「バグチェッカー、レッド!」

「「「三人合わせて、バグチェッカーズ!」」」


商店街の真ん中で、三人の小学生がポーズを決めていた。


「おい、リンリン、なんでお前もレッドなんだよ。俺と被ってんぞ」

「えー! ワタシレッドがいい! カゲロウが降りるネ!」

「いーや、レッドはリーダーって相場が決まってんだよ。女の子はピンクって決まってるんだよ」

「ワタシピンクよりレッドがいいネ。女の子だからピンクって的にアウトな発言ヨ。が黙ってないヨ」

「おぉ……お前意味わかって言ってる?」


蝉丸が割って入った。


「ええやんか。もうレッド二人で」

「蝉丸、テメェもなんでブラックなんだよ! ブラックは途中から仲間になるんだぞ! ブルーにしろ!」

「いや、レッドに挟まれたからうちもレッドになるわ。朱に交わったらもう赤くなるしかないやん」

「なんだそのオセロみたいなルール! 色の意味ねーだろ! 個性無くなっちまうだろ! みんな違ってみんないいんだよ!」


ふとリンリンが指さした。


「あ、カゲロウ、あそこ!」

「どうした! リンリン!」


「自販機あるネ! 喉が渇いたからウーロン茶買ってくるヨ!」

「バグじゃないんかい!」


リンリンはペットボトルを手に取り、一口飲んだ。


「ふー、生き返るヨ」

「ほら、パトロールに行くぞ」

「はいネ!」


リンリンがペットボトルのフタを閉めようとした瞬間だった。


「ん?」

「どうした? リンリン」

「フタが……閉まらないネ!」


フタを閉めようとしても、透明な何かで既にフタがされているかのようだった。


「これは――バグか!?」

「え~ん! 全部飲まないといけないノ~? こんなに飲めないヨ~!」

「隊長、出番やで」


カゲロウは手に持っていた虫取り網を振りかざし、ペットボトルを包み込んだ。


「うおおお! 『バグ・キャプチャー』!」


空間からエネルギーが放出され、ペットボトルのフタが閉まるようになった。


「リーダー、ありがとネ!」

「当然だ! ニンムだからな!」


バグチェッカーズ――三人の小学生が始めた組織である。

紅一点のリン、参謀の蝉丸せみまる、そしてリーダーの影郎かげろうで構成されている。

はじめはごっこ遊びだったのだが、バグで困っている人を助けていくうちに奉仕活動となっていった。

カゲロウが持つ虫取り網は、原理は謎だがバグを取り除けることがわかっている。

三人はこれを使って町中のバグを取り除いて回っている。


「この調子で次のバグを探すぞ!」

「おーネ!」


蝉丸が次のバグを探しながら道路の方に目をやると、後ろ向きでローラースケートのようにスライドしていく子供を見かけた。


「た、隊長! あ、あれ!」


「ネコかわいいネ!」

「写真撮ろうぜー」

「話聞けや!」


蝉丸の声で驚いたのか、ネコは逃げてしまった。


「おい、ネコ逃げちゃったじゃんかー」

「それどころちゃうわ! いま、子供が後ろ向きで滑って移動してたで!」

「……ローラースケートかスケボーじゃねーの?」

「ホンマやって!」

「あのなぁ……バグってのは空間とか、物とかがバグることはあっても人がバグることはないんだよ。今までそうだったろ。きっとなんかの見間違いだ」

「……せやろか」


カゲロウたちは河川敷に場所を移し、バグを探していた時だった。

大声で叫んでいる子供の声が聞こえた。


「助けてくださーい! 友達が! 友達が!」


カゲロウたちは声を聞いてすぐ駆けつけた。

川の遠方で男の子が溺れていた。


「どうした!」

「ボールを取ろうとして川の中を歩いてたら、急に深くなってて――」

「とりあえずあの子をなんとかしないと!」

「なんとかって……どうするネ!」

「それは……」


カゲロウは必死に考えた。

自分も泳いでいく? 子供が下手に行くと共倒れになってしまう。

大人を呼ぶ? それでは間に合わない。


「カゲロウ! リンリン! ペットボトルを投げるんや!」

「!! 浮力か!」


空のペットボトルは空気を含んでいるので水に浮く。

小さなペットボトルに捕まれば、子供の体重であれば浮くことができるはず。

蝉丸は学校の防災の授業で聞いたことをよく覚えていた。

カゲロウはリンリンからウーロン茶のペットボトルを奪い、飲んだ。


「カゲロウ! 全部飲んだらあかんで! 少しは残さんと遠くまで飛ばへん!」

「か、間接キス……ネ」


カゲロウはペットボトルを4分の1だけ残し、溺れている男の子に向かって放り投げた。


「受け取れ!」


男の子はペットボトルを掴み、顔が水面から出る状態を保つことができた。


「そのままこっちへ泳げるか!」


男の子はこちらへ向かって泳いできた。

しかし、途中で止まってしまった。


「どうした!」

「お兄ちゃん! これ以上進まないよ!」


あと数mで岸に着くというのに、見えない壁にはばまれているようだった。

カゲロウは必死に頭を回転させるが、何もいい案が思い浮かばなかった。

バグだとは思うが、あそこまでは虫取り網がとどかない。

岸にいる子供たちがつぶやいた。


「あそこって陸なんじゃないの?」

「そうだ! そこを登れ!」


しかし、男の子は陸を登れないでいた。


「ダメだよ! さっきまで陸だったのに、手で掴めない!」


カゲロウはハッとした表情を浮かべると、突然虫取り網を川に入れた。


「これは浅瀬なんかじゃない! バグだ! 行くときは見えない床になって浅瀬になっていたんだ! それが時間が経って見えない壁になったんだ!」


浅瀬がバグだったのなら網が届く。

虫取り網を使って川の中を探ると、手ごたえを感じるポイントが見つかった。


「ここだ! 『バグ・キャプチャー』!」




無事に男の子は岸へ上がることができた。

恐怖から解放されたのか、川で遊んでいた子供たちは全員泣いていた。

後に集まってきた大人たちからも感謝された。

しかし、帰り道を歩いてる時、カゲロウは依然として険しい顔つきをしていた。


「カゲロウ、顔、怖なっとるで」

「ああ、悪い」


カゲロウは一呼吸置いた。


「なぁ。蝉丸」

「なんや」

「バグって無くならないのかな」

「……せやなぁ」


蝉丸も返答に困った様子だった。

重い空気を割くようにリンリンが口火を切った。


「ちょっと! 思い出したネ! カゲロウ、あのとき間接キスしたネ! どういうことヨ!」

「ああ? しょうがねぇだろ。緊急事態だったんだから」

「お嫁に行けなくなっちゃったらどうしてくれるネ!」

「いいだろ間接キスくらい。減るもんじゃねーし」


リンリンによって三人の緊張が一気にほぐれた。

蝉丸が笑っていると、遠くで子供の首が横切ったのを見た。


「二人! あれ! また! 首だけ! 子供!」

「落ち着けって。今度はなんだ?」

「あ……」


カゲロウが前を向いた時にはその子供はいなくなっていた。


「変やなぁ。さっき、首だけの子供が横切ったんやけど――」

「蝉丸、今日どうした? おかしなことばっか言いやがって。疲れてんじゃねぇの?」


蝉丸は疑問を抱えたまま家路に着くのだった。




翌日――


「ハチ。昨日は何してたんだ?」

「バグの調子試してた。SSスーパースライドと、めり込み! だんだんコツが掴めてきたよ」

「そうか。それはよかった」


ハチたちはこれから大きな騒動に巻き込まれるなど思いもしなかった。

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