ドワーフ王国のドワ娘姫ー6
ドワーフ王国は大陸の南部に位置しており、四方を火山に囲まれた山岳地帯にある。
平地や草原などはほとんどないようで、丘陵地帯が国土の大部分を占めている。
当然、農業に適した場所は非常に少なく、斜面のなだらかな場所で果樹の栽培などが細々と行われているだけである。
一方で火山に囲まれたこの地域は地下資源が豊富にある為、王国では鉱物を利用した鍛冶が盛んに行われている。しかし持ち前の高度な技術や豊富な鉱物資源があっても、他国との交流が殆どなされていない現状では宝の持ち腐れと言えなくもない。
そんな辺境の王国を目指し、俺たちを乗せた馬車が山間の道をゆっくりと駆けていく。
「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「なんじゃ、急に改まって」
俺は道中ずっと疑問に思っていたことをドワ娘に訊ねてみた。
「自分の父親が幽閉されて大変だって時に、どうしてドワ娘はあんな場所にいたんだ?」
「あっ、ボクもそれ気になってんたんだよね」
ずっと続く同じ景色に退屈していたノジカは急に身を乗り出し話に割って入ってきた。
「わらわはナウグリム王の命を受け伯母上の元へ親書を届けに行っておったのじゃ」
「伯母って事はお前の父親の兄妹だろ? 王国で一緒に暮らしてないんだな」
「伯母上は別の一族の元へ嫁ぎに行ったからの」
「ふーん、なるほどね。それでドワ娘はその帰り道にあいつらに襲われたってわけか」
「まぁ、そんなところじゃ。本当ならしばらく向こうに滞在する予定だったのじゃが、到着して間もなく例の知らせが届いての。伯母上に留まるよう説得されたのじゃが、居ても立っても居られずこうして舞い戻ってきたというわけじゃ」
ドワ娘はやれやれと言った様子で肩をすくめてみせた。
――しかしどうもタイミングが良すぎないか?
もしかしたらナオグリム王は周囲の不穏な空気を事前に察知して、ドワ娘一人を伯母の元に逃がしたのかもしれない。
だとしたら、いまドワ娘を王国に連れて帰るのはまずいんじゃないか?
脳裏に嫌な予感が過った。
「なぁ、ドワ娘。今更だけど、戻るのは止めた方がいいんじゃないか?」
「ここまで来て何を言っておる! もう王国は目と鼻の先じゃぞ」
「それはわかってるけど、このまま向かって本当に大丈夫なのか?」
「そ、それは……」
ドワ娘自身も危険なことは承知の上なのだろう。
俺から視線を逸らし俯くとしばし言葉を詰まらせた。
「余計なお節介かもしれないが、きちんと情報を集めて誰かの協力を取り付けた方がいい」
「そ、そんなことはわかっておる!」
「なら――」
「……わかっておる、わかっておるのじゃ。じゃが、そんな悠長に構えておって、もし万が一父上の身に何かあったらわらわは、わらわはどうすればいいっ!」
彼女は震えた手で俺の服の袖を掴むと、胸の内で膨れ上がっていた不安を吐き出した。
そりゃ、そうか。
ドワーフ族のお姫様と言ってもまだ年端もいかない子供。
態度には現さなかったが今までずっと心細かったのだろう。
俺に言われなくても当然頭ではわかっていたに違いない。
それでも戻らずにはいられなかった。
こういうのはきっと理屈じゃないのだろう。
俺に大切な人がいたら、きっと同じようにしているだろうからな。
さてさて、どうしたもんかな。
この分だと誰が説得しても、父親を助けるために一人で敵陣に乗り込んでいってしまいそうだ。
ドボルゴの爺さんが何も言わずついてきたのも、全部理解してのことだろう。
俺が返答に困っていると、ノジカはここぞとばかりにドワ娘に近づき優しく抱きしめた。
「そんな心配しなくてもラックがきっと何とかしてくれるから大丈夫だよ、ね?」
子供をあやすようにドワ娘の頭を撫でるとノジカは俺と目が合うとわざとらしくウィンクをしてみせた。
「はぁぁ。わかった、わかったよ。しょうがない。乗り掛かった舟だ。出来る限りの事は協力する」
「ま、まことか!」
「あぁ。約束する」
「さすが領主様。良かったね、フレデリカ」
「ったく調子がいいな。いいか? お前も手伝うんだぞ、ノジカ」
「わかってるよ」
「ラック、それにノジカ。本当に、本当に感謝する」
「その代わり報酬はうんと弾んでもらうからな」
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