【魅了】
第一幕……「過去と現在」
幕間 託宣の巫女
5月。優たちが初めての外地演習に挑んでいたちょうどその頃。某所。とあるビルの中に収められた近代的な神社では、わざわざ少し広めに造られた薄暗い本殿に2人の天人が座していた。
そのうちの1人。黒い長髪を
指を絡めて手を組み、静かにうつむいていた彼女は不意に顔を上げる。
「ようやく始まるのですね」
大きな琥珀色の瞳に垂れた目元。赤く色づく唇。神妙な面持ちながらも、その声には待ち望んでいたように期待の色がにじんでいた。
彼女の名前はアマネ。司るのは【太陽】【真実】そして【未来】。かつて、多くの人々から信仰された偉大な神も時代と共にその意識と在り方を変える。そんな中、彼女は生まれて――意識が芽生えて――もうすぐ100年近くになる、日本でも屈指の力を持つ天人の1人だった。
「姉貴。何かあったのか?」
そう問いかけたのは背後に控えていた男性。雑に切りそろえられた黒の短髪、吊り上がった眉に細い目。その瞳は青い。どこか粗野な印象を受ける男だった。
天人であるアマネを姉と慕うように、彼も天人だ。司るのは【月】【豊穣】【水】【過去】。彼もまた、日本人にとって親しみ深い神が時と共に姿を変え、現代では天人として受肉した人物だった。数百年前まではもう1人弟がいたが、兄弟を同一人物だとする風潮が一般のものとなった。そして80年ほど前。こうして兄弟が概念を集約する形でノオミが誕生し、改編の日に受肉したのだった。
「うふふ。ノオミ、ようやく彼らが自らの足で立ち上がる。その時が来たようです」
「おっ。そうかい、そうかい。運命が回り出すってか? そりゃあ楽しみだな」
「はい、とても。それはもう、待ちわびたものです。――
姉弟の会話を楽しんだのち、アマネがある人物の名前を呼ぶ。すると、背後――拝殿に控えていた神主の男、
「準備を始めてください」
アマネがそう伝えるだけで、三宅はその意図を察する。
「お別れの時が近い。そう言うことでしょうか?」
「そうだろうな。まあ、今すぐにってわけでもねーだろうが」
恐る恐ると言った様子で言った三宅に、男の天人ノオミが答えた。
「最初から決まっていたことです。そう、全てはあなた達――人間の意思によって」
「……かしこまりました。では、微力ながら各方面に手を回しておきます」
礼をしたのち、三宅は拝殿を後にする。残されたのは天人の姉弟、ただ2人。
「終わりの始まり、ですね」
「そうだな。ラスボスはここだぜ人類ってな!」
魔力至上主義。そう呼ばれる人々の総本山でもあるそのビルの一室で。神話にもなった天人の2人は、それはもう愉しそうに笑っていた。
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