【運命】

第一幕……「外地演習に向けて」

幕間 始まりの物語

 “今”は、過去の積み重ねだ。何気ない言葉。何気ない表情、仕草、想い。全てが積み重なって今がある。その積み重ねをある人は人生と呼び、その少女は【物語】と呼んだ。

 そして、ある瞬間、誰かが誰かを選ぶとき。必ずそこには、想いがつのった物語がある。


『私はあなたに生きていて欲しい』


 瀕死の少年を前に願う少女にも、当人しか知らない物語があって、想いがあった。

 かつては“神”という名の、人間を管理する、ただの世界のシステムでしかなかったとしても。今や、少女には『シア』という名前があって、人間が言うところの感情――想いがあった。

 神が受肉して天人あまひとと呼ばれ、人間と同じ世界で生きるようになった現代。神々が人間を管理するために用いていた“技術”として、また、人々の空想や想いを代行するシステムとして『魔法』がある。


「私の願いをここに――」


 雨に打たれ、冷え切った体。それでも心に秘めた想いを薪にくべ、少女は呟く。”元”神として、人間には操ることのできない世界のことわりに干渉する。


「――【物語】」


 少女が言の葉を呟くと同時に、彼女を中心にして広がって行くのは穢れ無き白いマナ。誰も踏み入れたことのない雪原のような“白”は、魔法と呼ばれる過程を経て少女の想いと願いを現実のものとする。

 自らに課された呪縛――【運命】に翻弄され、受け入れるだけだった気弱な元女神。彼女は自ら選んだ【物語】の“主人公”と出会い、自分の足で立って生きるようになる。

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