第3話 計算違い
瓦礫による魔人の攻撃を完璧に無力化したのは、片膝をついて目を閉じた常坂。
「〈紅藤〉」
〈探査〉で物の位置と空間を把握。そこに〈創造〉した刀を振るう。居合の構えを応用した、魔剣一刀流の刀技だった。
(生き物は無理でも、物であればためらいなく斬ることができるのか……)
「やっぱり、格好良いじゃないですか……」
改めてみた格好良い彼女の姿に心震わせる優。
そんな彼に自分たちは大丈夫だと言うように。手を大きく振った常坂と、親指を立てた春樹はロータリーを後にした。
「シアさんはまず、後方7時方向にいる魔獣をお願いします」
「了解です……。はい、見つけました」
春樹の状況報告にあった魔獣の処理をシアにお願いする優。
純白の〈魔弾〉が、背後の雑木林から迫っていた鹿のような魔獣を捉え、木端微塵にした。貧弱な魔獣。やはり魔人が残していた食料と見るべきか。
「春樹の〈探査〉で、少なくとももう他に魔獣はいないはずです」
「わかりました。では、あとはあの魔人だけですね」
向き直った優とシアに、魔人が剣を振り下ろす。
今回は互いにフォローし合えるよう、なるべく行動を共にすることを心掛ける。
よって、避ける方向も2人同じだ。
「天はどうでしたか?」
「気を失っているだけみたいでした。制服のおかげで外傷は無いと思いますが、ケガの具合は正直分かりません」
と、不意に魔人が腹部から生やした腕を伸ばしてきた。
人間サイズの手のひらだが、捕まればそのまま上部にある口まで持っていかれることだろう。
「はぁっ!」
狙いを定め、マナを絞って迎撃するシア。
手のひらを失った腕が魔人のお腹に引っ込んでいく。
(もしかして、あの魔人。腕を修復するだけじゃなく、生やすこともできるのか?)
まずい、とこぼしそうになるのを堪えた優。
春樹を常坂につけたのは、魔人の手数が減ったと思っていたから。
しかし、もし、魔人が腕を生やしてその手数を増やせるというなら話は変わってくる。
「どうかしましたか?」
「いえ。伸びてくる腕に注意しながら、まずは向かって右の足……腕を狙いましょう」
「はい!」
2人同時に駆け出す。
シアは念のために〈身体強化〉を。優はマナの余裕がないため使わず、代わりに回避に専念する。袈裟懸けに振り下ろされる剣を、前に加速することで2人は回避。そのまま10mあった距離を一気に詰め、
「フゥッ!」「やぁっ!」
優が切り裂いた箇所にシアが〈魔弾〉をすかさず打ち込む。
攻撃の際だけ〈身体強化〉を使用し、踊るようにナイフを振るう優。その勢いのまま魔人の腹部に潜り込み裂傷を刻もうとする。
もちろん、魔人も対抗する。腹部の肉が不自然に盛り上がったかと思うと、4本の細い腕が生えてきた。
骨が無いらしい、くねくねと
肉の盛り上がりという前兆があったため、首を倒してギリギリ避ける優。そのまま細い腕の付け根ごと、魔人の腹を斬りつけることに成功した。
シアは残す3本の腕に襲われる。1本に〈魔弾〉を、1本は避けることが出来たが、注意の外から迫っていた手に足を掴まれる。
そのまま引き倒される――前に、その腕の付け根を優が切り落とし無力化。
と、シアの目の前で黒いマナが集まっていくのが見えた。〈爆砕〉か、あるいは〈魔弾〉か。
いずれにしても。
「させません!」
想いを込めた〈探査〉を使用。〈領域〉と似た要領で、己のマナの放出を利用してマナの凝集を阻害。魔法が完成する前に処理する。
そのおかげで、2人同時に爆散する未来はどうにか防いだ。
一方で、仕方ないとはいえ、近くでシアの〈探査〉による強烈なマナの波動を浴びた優。三半規管が刺激され、船酔いのような軽い酩酊感に襲われる。
少しふらついた彼の異変を、魔人は特有のマナ的な感覚でとらえた。
すぐに腹部が割れて、新たな口が現れる。舌の代わりについている侵食する腕で、カエルのように優を捕まえ、捕食しようとした。
優はそうして自身の頭部に伸びる手のひらを屈むことでどうにか回避。
頭上にある
最初にいた場所とは反対。雑木林が魔人越しに見える、ロータリーの中央付近。
「すみません、優さん!」
「いえ、最善の手でした」
〈探査〉について詫びたシアの言葉に首を振った優はそれよりも、と、話を進める。
「〈探査〉の結果はどうでしたか? 魔人の魔力は?」
「まだ、魔獣は周囲にいません。魔人の魔力は特派員2人分ほど、でしょうか?」
つまり万全の優の魔力の4倍弱。
とはいえ、魔人は今も体の傷を、マナを使って修復している。
もう少しだけ減っていると見て良いだろう。
『
理性を取り戻しつつあるのか、ついに言葉を話すようになった魔人。女性の声と触手の魔人の鼻声が重なったような声で言って、腕で地団太を踏む。
揺れる地面に足を取られないよう気を付けながら魔人を観察していると、またしても魔人はアスファルトを掴み、瓦礫を投げる動きを見せた。
常坂のような例外でもない限り、投げられた後の対応では間に合わない。
「シアさん、〈防壁〉をお願いします!」
「は、はい!」
すぐさま優とシアを包み込む真っ白な盾が創造される。同時に重さのほとんどないマナで出来た盾が飛ばされないよう、優がそれを押さえた直後。
いくつもの
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