第2話 方針転換

 外山果歩そとやまかほを連れて中央会館まで戻った優たち。

 途中、外山家に寄って遺品となりそうなものを見繕ったこともあって、予定より5分ほど遅れた到着になった。


 時刻は15時を少し回ったところ。優たちは北から北東にかけて、探索予定範囲の半分ほどを。天、春樹、常坂のスリーマンセルも南から南東にかけて、半分を少し上回る探索を終えていた。

 なお、天たちが調べた南東側は先々月の襲撃で最も大きな被害があった区域。全半壊した建物も多く、ジョン達の実家もそこにあった。

 ロケットや写真などのかさばらないものを中心に、それぞれの家屋から回収している。




 「その子が、生き残り?」


 果歩をしげしげと見つめた天が言った。

 シアの背後へと逃げた果歩に興味を失ったように、また、時間が惜しいということもあって、天は方針を決める話し合いを始める。


 話し合いで出された案は2つ。今すぐ帰還して第三校に果歩を預け、残りの探索を後日に回す。もしくは、予定通り探索を続ける。


 しかし、前者を推したのはシアだけだった。


 「優さんは賛成してくれると思いました」


 どこか不服そうに言ったシア。


 そんな彼女に、優は考えを伝える。

 それは、果歩のように、残された人々がいるかもしれないというもの。

 目下、魔獣や魔人が確認されている今。一度帰還して再度ここを訪れる間に、その命が潰えてしまうのではないか。

 加えて、調べる必要がある建物が予想より少なく、ペースにも余裕があることも根拠として挙げた。


 「私としては、近くにいる魔人を殺し尽くすまで帰りたくない」


 言ったのは天。今探索している場所の近く――北方にはまだ健在の町があり、ここで魔人を見逃せば手負いの魔人は必ず脅威になる。

 果歩1人の命よりも、多くの命を天は優先するつもりだった。


 春樹、西方、常坂も探索続行に意欲を見せたため、全体の方針が決まる。


 すると、次はどう探索するのかという話し合いになる。

 探索終了まで、頑丈かつ健在なここに果歩をかくまうことは確定。

しかし、頭の回る魔人の襲撃を考えると、1人で置いておくわけにはいかない。


 その役割分担については、すぐに決まった。


 「私たちが、兄さんたちがやる予定だったとこもやる」

 「そうだな。だから、シアさんたちが果歩ちゃんを守ってやってくれ。果歩ちゃんもそっちの方が安心できるだろ」

 「(コクコク)」


 シアの意見を蹴った代わりだと、天たちが探索を申し出たため、優たちが拠点を守ることになった。

 そうしてかれこれ15分ほど話し合い、探索は再開された。




 正面玄関、吹き抜けになっている2階の通路。

 1階エントランスホールの両壁際にある階段の上で、優は入り口に気を配りながら作業をしていた。

 目の前にあるのは6人分の、学校から支給されたカーキ色のバックパック。

 容量と使い勝手を考えたそれは、登山用のものに近い構造をしている。

 2重底になっており、今回のような日帰り任務の時では弁当などをそこに入れる。


 そして、残された部分に入れるものは、今回の場合――。


 「多いな……」


 収集した物品や遺品等を家主の名前で整理し、分配していた優が呟いた。

 持ち帰ることも考えて小物が多いとはいえ、結構な量になっている。

 残りの家の数を考えると、全員で分担してどうにかといった量だ。

 優たちが集めた物の数が多いのは、できる限り多く持ち帰ってあげたいという優のワガママのせい。


 (とはいえ、重くなると帰り道が危ない。それに……)


 見つめる先にはシアと談笑する果歩の姿がある。

 シアは果歩のメンタルケアと話し相手の役割を担っていた。

 帰り際、果歩の身を守ることも考えると、もう少し選別しなければならないかもしれない。


 「何かあった?」


 同じく収集物を選別していた西方が、手を止めた優に確認する。


 「――悪い。なんでもない」


 西方の言葉に、すぐに作業を再開する優。

 しかし、シアの方を見ていることに気付いていた西方は、


 「シアさん。子供、好きみたいだね」


 仲良さげな2人を見た感想を言う。そんな彼をちらと見やって優は


 「そうだな。ジョンの弟達の時もそうだった」


 作業をしながら、外地演習で初めてシアと会った時のことを思い出す優。

その時も彼女は、マイク達と楽しそうに秘密基地で遊んでいた。


 「それに、天人なのに可愛くて、格好良いよね!」

 「ああ、全部同意だ。ついでに努力家なところもすごいと思ってる」


 顔を赤くしながら言う西方に対し、事実だと言わんばかりに優は顔色1つ変えない。


 「……前から思ってたんだが」

 「どうしたの?」


 聞くべきか悩んだが、優はやはり聞いてみる。


 「西方ってシアさんが好きなのか?」

 「えっ?! ち、違うよ?!」


 急に大きな声を出した西方。シアと果歩が何事かとこちらを見てきたので、優と西方は揃って何でもないと手で示し、今度は小声で話す。


 「違うよ!」

 「そうか。悪い、勘違いしていたみたいだ」


 尊敬する義姉が天人だからだろうか。西方が同じく天人であるシアを特別視しているのではないか、と、優は思っていた。

 実際、ネズミの魔獣から身を挺してシアを守っていたし、話すときはいつも緊張気味。それらの状況証拠をもとにした推測。

 どうやら自分と同じでただの憧れのようだった。


 改めて人をおもんぱかる難しさを感じる優。西方を想うのならば、そもそも、こういった話をするべきではないのだが、それを指摘する天も春樹もいない。

 何より。


 「あれ? でも、そうかも……」


 西方がそれを心地悪いと感じず、むしろ乗り気だった。


 「『そう』っていうのは……?」

 「僕、シアさんの事、女の子として好きかも!」

 「おぉ……」


 今気づいたと言わんばかりのその態度に、優も驚く。

 15、6にもなってここまで純情な男子はそうそう居ない。

 西方がシフレという義姉に憧れ、一途に特派員だけを見てきたのだと語るその態度は、一時期中二病と恋愛にかまけていた優にとってあまりに眩しいものだった。


 「ど、どうすればいいんだろう、神代君?」

 「どうって言われてもな……。それはもちろん、想いを伝えればいいんだろうが」

 「わかった!」


 えっ、と、間抜けな声を漏らした優が状況を飲み込むより早く。

 立ち上がった西方は、シア達の方へと歩き始めた。


 今いる「安全な拠点」が外地の中にあるということを、無意識に除外していた優たち。

 当然、そんな彼らを“脅威”が見逃すはずもなく。

 青春しようとする彼らに、禍々しいマナが近づきつつあった。

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