第13話 あなたの味方で

 午前の探索を終え、中央会館に集合した優たちは昼食がてら昼休憩と相成った。


 いくら繊維や作りが工夫されていたとしても、長袖の制服で真夏の炎天下を半日も動き回れば 誰でも汗だく。

 乾けば風邪をひく原因にもなり、はりついた服は動きを阻害する。人によってはにおいも気になる年頃。

 空いている部屋で男女それぞれ順に着替えを済ませ、持ってきた昼食を食べていた。

 ローテーションを組んで、2人が会館の入り口にあるピロティで警戒、残りのメンバーが1階の休憩所で休憩する形をとる。


 南を向いた会館入り口。目の前には住民が集まってラジオ体操でもできそうな、空き地が広がっている。

 自動ドアの前に座った優とシアのペアが、最初の哨戒班だった。


 戦闘に備えて昼食は後回し。

 とは言っても、時折からりと乾いた風が暑さを和らげてくれるだけで、これといって敵襲の気配はない。


 「優さん、何か悩み事ですか?」


 今しかないと、シアが優に向き直り、探索中に聞けなかったことを聞いてみることにした。

 2人きりで、悩みを聞くには絶好の機会。何より、シア自身が、彼の力になりたかった。


 「いや――はい、そうですね」


 否定しようとしたが、悩みを相談することは優にとって恥ずかしいことでは無い。

 1人でうじうじと悩む方が、時間の無駄。そう考えて目線は目の前のアスファルトに向けたまま話し始める。


 「ここに来るとき、天と話していたことです」

 「確か……どんな特派員になりたいか、でしたか?」

 「はい。シアさんはどんな特派員に?」


 ちらりと一瞬シアに目を向け、聞いてみる。

 演習の時、シアにどうして特派員になりたいのかを聞いたことがある優。

 一方で、この質問はしたことが無かった。


 いつものように、表情を変えずに発された問い。

 しかし、その声にどこか必死さを感じ取ったシア。

 自分の答えが、優の悩みを解決する助けになるならと親身に応える。


 「私は、人々を守って、導くような特派員になりたいです」

 「それは天人らしく、ですか?」

 「はい」


 天人として。折について彼女が見せる考えや言葉。

 それがシアを縛る鎖になっていたと記憶している優。


 「前にも言いましたがシアさんはシアさんです。天人らしくいる必要、俺は無いと思いますよ?」


 シアという1人の“人”として生きて欲しい。そう思っての優の発言にシアは首を振った。


 「確かに少し前の私は、天人であることを前提とした考えも多かったですけど――」


 そこで目をつぶった彼女。そして、


 「そのおかげで、私はどんな特派員になりたいのか、わかったんです」


 かつて読んだ物語に出てきた“運命の女神”。彼女のように、人々を守り、導くような人になりたい。

 【運命】を司る天人の自分だからこそ、女神の姿に共感できたとシアは思っている。

 天人であることが自分の全てではないことは、目の前の少年が教えてくれた。

 同時に、天人であることも結局は自分の一部なのだと気づいたシア。


 天人らしく。そう考えてしまう自身の短所は、しかし、具体的な目標への手がかりでもあった。


 「あの時、天さんは変わらないで、と言いましたけど……。私は、優さんが望むのなら、どのように変わってもいいと思いますよ? それこそ、優さんらしく」

 「俺らしく、ですか」

 「はい。優さんが悩んで立ち止まるのなら、こうして隣にいます。変わろうとするのなら、協力だってします。それが、優さんを助けた私の責任ですから」


 助けた人の人生を背負う。それが助けた者の責任、覚悟だとシアは語った。

 それこそ、元神様らしい、傲慢な考え。同時にそれは、彼女覚悟だと優は思う。


 らしさ。自分らしさとは何だろうか。


 (天も、シアさんも。そういえばモノ先輩も言ってくれたが――)


 と、そこで携帯が10分経過を知らせるアラームを鳴らした。


 「残念、時間ですね。西方さんを呼んできます」

 「はい。相談に乗ってくれて、ありがとうございました、シアさん」

 「あ、いえ……」


 ズボンについた砂を払いながら立ち上がったシア。

 そのまま会館の中に消えて行くかと思われたが、


 「ゆ、優さん」

 「どうしましたか?」


 立ち止まり、意を決したような声で改めて優に語りかけるシア。

 息を吸って、精一杯の助走をつけて。


 「優さんがどんな答えを出したとしても、私は優さんを応援します!」


 優を主人公として選んだ、シア本人すら気付いていない想いに裏打ちされた言葉。


 「私はいつだって、優さんの味方でいます!」

 「……はい。シアさんの覚悟、参考にしておきます」


 話の流れから、その言葉が責任感から来るものだと判断して、優は頬を緩める。

 その顔に先刻までの思い詰めた様子はない。


 (良かった。少しは役に立てたでしょうか?)


 湧き上がる幸福感に急かされるように。


 「で、では!」


 駆け足で会館に戻るシアだった。


 そんな彼女と入れ替わるようにやってきたのは西方。

 彼との哨戒を終えれば、晴れて優も昼食にありつける。


 「神代君、シアさんと何かあった? 様子が変だったけど」


 腰を下ろした西方が開口一番、優に尋ねる。


 「どうだろう? ちょっと相談に乗ってもらっただけなんだが……」

 「そんな風には見えなかったけど……。よければ僕も聞いていい?」

 「そうだな。あと、口にケチャップついてる」

 「嘘?!」


 自分と西方はどこか似ていると感じていた優。

 彼の目指す特派員像はきっと、参考になるはずだとシアにしたものと同じ質問をする。

 それに対し、口元をティッシュでぬぐいながらも聞き届けた西方は、一切の迷い無く。


 「僕は義姉ねえさんみたいになりたいんだ!」


 優とよく似た“理想の特派員像”を語った。


……………


 ※再掲載になりますが拠点となる中央会館の見取り図を載せた近況ノートのURLです。気になる方がいらっしゃいましたら。(https://kakuyomu.jp/users/misakaqda/news/16817139555938774411

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