第16話 協力者

 人手を探していたゆうたち。顔の広い春樹はるきそらが伝手をあたる一方、優とシアは寮のエントランスホールで任務の計画を練っていた。

 人手が足りない場合、数日に分けて該当範囲を捜索しようと考えていた優たちだったが――。


 「俺の方では、西方にしかた

 「私はシアさんの知り合いの方が良いかなってことで、常坂ときさかさんを」


 と、1人ずつ、同級生の知り合いを探し出してくれたのだった。




 西方春陽にしかたはるひ常坂久遠ときさかくおん

 2人は2回目の外地演習で犠牲になった候補生6人のとして第三校に入ってきた編入生だった。


 「えっと、僕で良ければ。よろしく、神代君、それから、シ、シアさん!」


 最後の方、声を上ずらせながら言う西方。優より少し低い160㎝半ばの背丈、耳の上あたりで切りそろえられた、いわゆるおかっぱ頭の少年。

 四角い黒ぶち眼鏡の奥にある垂れた目元には大きな黒い瞳、男子にしては華奢な体格。童顔なこともあいまって、頼りない印象を見る人に与える男子学生だった。


 「おぉ、西方か。ありがとうな、協力してくれて」

 「こちらこそ、よろしくお願いします。西方さん」


 西方に優、シアの順で挨拶を交わす。


 他方で。


 「よろしくお願いします……っ」


 俯いたまま、消え入りそうな声で言ったのは常坂。

 外向きにはねるクセのついたミディアムヘアー。猫背のせいで低く見えるが、背を伸ばせば西方より高く160㎝後半はあるだろう。

 気弱そうな目元の奥に沈む瞳の色は、ほんの少し青みがかった黒。

 優も同じだからわかることとして、彼女は間違いなく、人見知りする性質たちだ。それも、極度の。


 「常坂さん! 嬉しいです、よろしくお願いしますね」

 「う、うん。よろしくね」

 「ああ、食堂で会った……。よろしくお願いします」


 シアが、現れたのが友達だったことに嬉しそうに。

 続いて優がぺこりと会釈する。


 この6人は一度だけ、食堂で会ったことがある。

 小鉢を取って会計を済ませる定食屋方式の1階食堂――「一食いっしょく」。

 そこで、西方の方から優と春樹を誘い、一緒に昼食を食べていた時。たまたま常坂に一食を案内していた天たちに会っていたのだった。




 6人は同卓する形でソファに腰掛ける。


 「……誘う時にも確認はしたけど、大丈夫、常坂さん?」


 天の問いかけは、隣で借りてきた猫のようにジッと固まって動きを見せない常坂に向けたもの。

 一緒に任務に参加できるかというその問いに、彼女がコクコクと頷いたことを確認して、改めて天は兄に目を向けた。


 「じゃあ兄さん、シアさんと考えた計画をお願い」

 「わかった。まずは――」


 中央にタブレットを置き、任務が示す探索範囲をまずは示す。

 そこに向かうまでの経路、移動手段、注意事項をまとめていく。

 探索日数を増やすということは、外地に赴く回数を増やすということ、ひいては危険を冒す回数を増やすことでもある。

 どんな形であれ、西方と常坂の助力の申し出は優にとってはありがたいものだった。


 「6人いるなら、できれば1日で。当日は3、3で別れて――」


 折角組んだ優たちのフォーマンセルだが、そこは臨機応変に。そこにこだわってわざわざ初めての任務の難易度を上げる必要などない。


 楕円形の廃村を北と南、西と東でそれぞれ4分割。

 2つの班に分けて午前と午後に半分ずつ探索する計画だった。


 「そうだ春樹。サッカー部の先輩はどうだったんだ?」


 先輩との伝手がある春樹。

 優は彼に、経験豊富だろう先輩の協力を得られないか聞いてほしいとお願いしていた。


 「悪い、無理だった。近いうちにセルの人と稼ぎの良い仕事に行くって言ってたな」

 「私たちをしてケガでもしたら、セルの人に迷惑かかっちゃうもんね」


 扱い上公務員でもある特派員にとって、任務は仕事でもある。6段階あるそのランクに応じて給料が発生しているからだ。

 それはそのまま、生活にも直結している。

 第三校にいるうちは家賃や光熱費はかからないが、ひとたび卒業すれば、そこからは社会人。

 学生時代の貯蓄は多いに越したことは無い。

 そうでなくても、自由に使えるお金を求める人の気持ちも、優は十分に理解できた。


 「了解。残念だが仕方ないな。連絡してくれありがとうな、春樹」

 「まあ、そもそも。大規模討伐みたいに多ければ良いってものでもないしね」


 教務課の助言も受けながら、適正な難易度、人数を測ることもこれからは大切になってくる。

 どこかに特派員が固まるということは、どこかが手薄になるということでもあった。


 「適材適所。そのための計画書なんですね」


 シアが計画書の大切さをしみじみと確認する。


 「で、分け方はどうする? 西方、常坂さんに希望はあるか?」

 「僕は誰とでも大丈夫」


 見た目から少し頼りない印象を受ける西方や常坂。しかし、編入生たちはほぼ一芸入試と言っても良い試験内容を通ってきている。

 奇人変人が多いとされる彼ら彼女らだが、編入してきた時点でその実力は保証されていた。


 「わ、私は……」


 常坂がもじもじと、たどたどしく小さな声で語ったのは、天かシアがセルにいて欲しいというもの。


 「了解です。じゃあ――」


 最終的な部分と細かな注意事項を詰めて、出来上がった計画書。

 教務課任務係で職員の質問やアドバイスを受けながら少し修正が入ったものの。


 優たちは8月11日に初めての任務に赴くことになった。

 それは同時に、一生を内地で過ごしてきた優が、初めて外地の現状を知るということでもある。

 テレビやネットで、おおよそはもちろん知っている。それが現実と乖離しているだろうことも考えておくべきだろう。


 優は今一度、自分に問いかける。


 自分は、どんな特派員になりたいのか。


 外地を知った時、その答えが見つかる気がしている優。

 彼にとって今回の探索任務は、ただ現実にあるを探すだけでは終わらないものになりそうだった。




……………………


※ここで第一幕は幕引き。次話から早速、優たちは外地で任務を行なっていきます。そこで待ち受けるものとは? 編入生組の実力は? などなど。楽しんで頂ければ幸いです。


※ここまでご覧頂いてありがとうございます!

 私のモチベーション維持と作品の品質向上のために、

 よろしければ「★評価」や感想をいただけると幸いです。

 それらを栄養補給源にして、執筆を続けていけたらと思います。

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