第38話 バレンタインと告白
シロと恋人になれたわけではないまま、ずるずると体の関係だけ深めていっている。そんな現状に危機感がないわけではないのだ。だけど、だって、今の現状って恋人って言う名札がついてないだけで実質同棲している恋人そのものな状態だし、あえて告白してふられたら、さすがに出ていくとかはなくても距離とられるし。と日和るのはしかたないよね!?
とは言え、ですよ。いくら私がチキンで初めての恋にビビり倒しているとは言え、このままでいいとは思っていない。
だってさぁ、いくら現状がすでに最高とは言え、やっぱ気持ちって大事じゃん? 今ってシロに対して私の気持ち誤魔化してるみたいなものだし、いくらシロが許してくれてるとは言え、申し訳ない。
それに、シロのことが本気で好きなんだ。だからこそ、シロにも私に本気になってほしい。そう思ってしまう。
幸いと言うか、もうすぐ最高の切っ掛けがやってくる。そう、バレンタインだ。バレンタインで、本命チョコをプレゼントする!
「あのさ、シロ、バレンタインって知ってる?」
「ん? うむ。聖人の処刑日であり、恋人の日と言うイベントで、日本ではチョコを送り合うんじゃろ」
認識こわっ。処刑日って、いやその話は知ってるけどさ。まあ知らないよりいいか。
バレンタインを来週に控えた私はさり気なさを装って、パソコンを触ったままさり気なくシロに話題をふって確認したところ、ちゃんとバレンタインを知ってはくれていたみたいだ。そうじゃないと、渡してもただのプレゼントで終わるもんね。
「そうそう。好きな人に送る本命の告白チョコとか、友達同士で送る友チョコとか、付き合いで送る義理チョコとか、もちろん自分用のチョコとか、種類もあるから割とカジュアルなイベントかな」
「猫の時は縁のないイベントじゃったが、チョコレートは美味しいからよいな。次の配信はそれにするのか?」
シロは全然私の気合に気付いていないようで、普通に話をふってくる。まあそうだね。季節ネタにのるのは定番みたいなものだしね。
「そうだねぇ。チョコレートを手作りするのはどう?」
「手作り……いいと思うが、チョコレートはどうやってつくるんじゃ? と言うか、何でできておるんじゃ?」
「あ、手作りって言っても、売ってるチョコレートから加工するやつだから。チョコレートブラウニーとかどう?」
パソコンで検索した画面を見せると、シロは私の膝に立って覗き込んでほうほうと頷いている。ぴこぴこ動く耳先が鼻先にあたってシロのいい匂いがして、ちょっとドキッとしてしまう。
あれから普通の猫状態でもたまにドキッとしてしまうの、ちょっと自分でもどうかと思う。
夜はお風呂上がりだから自然に猫娘モードだし、流れとしてそっちでするし、さすがに猫のシロとはキス以上のことしてないけど、ちょっと最近自分で自分が不安な時あるんだよね。
「いいの、ブラウニー。美味しそうじゃ」
「うん。いいよね。じゃあ決まりね」
まあ二人でつくったのを本命としてプレゼントするのってどうかなって気もするけど、だからってお金をだして高級品を買うって言うのはちょっと私たちの関係的に重いよね。
いや、重い気持ちを伝えるんだし、謝罪の意味も込めるなら……うーん、でも、一人分だけ買うって違和感凄いし、多分シロ私に分けてくれようとするだろうし、だからって二人分買うって言うのも変だし。うん。やっぱ買うはないよね。
よし! バレンタインデーにかこつけて告白するぞ!
○
「じゃあそろそろ焼けたかなー?」
「うむ。よいのではないか?」
いい感じに焼けているようなので、オーブンから取り出す。ブラウニーの出来上がりだ!
粉糖をかけて仕上げて、お皿にとりわけてカメラでしっかり撮影する。
「めっちゃ美味しそうじゃない?」
「うむ。思った以上に見栄えが良いの」
一旦カメラをとめてテーブルに運んで、飲み物もセッティングしてカメラを定位置にセットする。そしてもう一度カメラで撮影を開始する。
「それではさっそく味見していきまーす、いただきます」
「いただきます」
一口。うん! 美味しい!
「美味しいね」
「うむ。今回は間違いなく大成功、と言っていいじゃろう」
「よかったー。じゃああとは、ラッピングしてプレゼントしあうだけだね」
「そうじゃな。ちと面倒じゃが、動画の為に仕方ないの」
このセリフはカットするべきか悩むな。って普通に動画に集中していた。編集は後ですればいいんだから、シロへの告白チョコとしてふさわしいラッピングにしなきゃ!
「私はこれかなー。で、青いリボン」
「ふむ。ではわらわは赤いリボンにしよう」
並べたラッピング用の素材からそれぞれ選んで包装する。と言ってもブラウニーをラップで包んで透明の小袋にいれて、そこから百均でそろえた可愛い袋にいれて、と言う感じなので、ちょっと手作り感強すぎる気もするけど。そこは仕方ない。
「かーんせー! シロ! ハッピーバレンタイン!」
「うむ。ありがとう。でもわらわからも茜に。ハッピーバレンタイン、じゃな」
「わーい。ありがとう。えへへ。嬉しい。それじゃあみんなも、ハッピーバレンタイン! またね」
「ハッピーバレンタインじゃ」
ここで撮影を終える。よーし、これでひと段落。よし!
「さて、ではさっそくじゃが、開けて食べるとするかの」
「あ、待って、シロ」
「ん? なんじゃ?」
シロは普通に開封しようとするけど、ちょっと待って。食べながらだとさすがにカッコつかないよね。このプレゼントは本命チョコで、ちゃんとした告白なんだって、言わなきゃ。
「あのさ……今のチョコレートのプレゼントだけど、その、ほ、本命チョコだからね!」
「ん、そうか。ふふ。わらわもじゃよ。茜の気持ちじゃからの、大事に食べるとしよう」
勇気を出した私の言葉に、シロはほわっと嬉しそうに微笑むと、優しく頷いてそっと開封して普通にお皿に出した。
んん? いやあの、本命って、意味わかってるよね? 気持ちじゃからとか言ってるし。
なのに普通に、わらわもとか、普通に食べるとか、えぇ……ぜ、全然本気で受け取られてない?
え? めっちゃ子供扱いされてるってこと? 本気で告白してるのに、めっちゃスルーされた上に、わらわもとか、完全に子供扱いされてる?
「う、うん……ありがとう。わー、何回食べてもおいしー。やっぱシロの気持ちこもってるもんねー」
……いや、さすがにちょっと、ショックなんだけど。シロ。まじか。そこまで眼中にないってこと?
あんなことまでしてるのに告白はスルーって、ようは今の関係変える気は一切ないってことだよね。シロは優しいし私のことも嫌いじゃないからするのはいいしこれからも一緒にいてくれるけど、恋人って言う関係になる気はないから、こんな子供をあやすようにさらーっとスルーするんだよね。
うわ。ダメージえぐい。嘘でしょ。なんだかんだ言って、いけると思ってました。だってシロめっちゃ優しいし! いつでも許してくれるし! そんなん勘違いするでしょ! ただの家族愛だった……うっ。いや、いいんだよ!? 家族愛大事だし!? 恋とかより全然長続きしそうだし!? 全然、悪くはないですけど。
……ちょっと、シロの顔見れないわ。
「ごちそうさまー。お腹いっぱいになっちゃったし、ちょっとお昼寝しようかな」
「ん? そうか、珍しいの。ではわらわが片づけをしておくから、ゆっくりするがよい」
「ありがとう、シロ」
「うむ。構わんよ。茜はいつも頑張っておるからの」
何とかシロの前で泣き出したりめんどくさい取り乱し方はしないまま完食したので、ちょっと顔を見られないようにして気持ちを落ち着けたくてそう言うと、シロはそこまでわかっているのかいないのか、優しく私の頭を撫でてから立ち上がった。
いくら告白もせずになあなあにしてたしセクハラしてたし、私にも悪いところあるとはいえ、告白を完全スルーはひどいと思う。なのにシロはいつも通り優しくて、その微笑みに胸がきゅんとしてしまう。
「うぅ、シロ、好き」
「にゃはは」
あああああ、またスルーされるぅぅ。もうやだ! シロの馬鹿! 好き!
ああああ、私あと何年生きたらシロに大人扱いされるの!? 千年!? 千年生きてもシロの半分も生きてないじゃん! はあぁぁぁ、ムリゲーじゃん。しかもそれまでシロが他の人を好きにならないとも限らないし。もうまじで、辛すぎる。
私はシロに隠れてちょっと泣いた。だってさすがにさ、ひどくない?
そりゃ、断られてもシロが気まずくならないようにとは思ってたし、だからこそ変に仰々しすぎないこの形でのバレンタイン告白がいいとも思ったけどさぁ! 気にしなさすぎじゃない!? 幼稚園児に告白された保母さんの対応じゃんかぁ!
こうして私の初恋の初告白は完全な玉砕で幕を閉じた。
でも諦めない! 絶対、シロに私のこと意識させて、次こそ絶対告白を成功させるんだから!
…………まあ、その次は、さすがにすぐは無理だけど。
なお、そのまま本当に寝てしまった私は、起きるとシロに膝枕されていて、ますますシロのことを好きになってしまうのだった。
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