第21話 初めての投げ銭

 改めて、投げ銭をもらう為、と言ったらめっちゃ金の亡者みたいでいやらしいけど。私は満を持して二度目の生放送を行うことにした。

 ちなみの投げ銭は使うサイトによって名前が違うのだけど、今のサイトではスーパーチアー、略してスパチと言うらしい。


「と言うわけで、一週間ぶりの生放送です。スパチ解禁したんでおなしゃーす。なんちて」

「おい、さすがに無礼じゃろ」

「私可愛いから無罪だよ、きっと。ね?」


 カメラに顔を寄せてウインクして視聴者さんに同意を求める。


 《自意識高すぎて草》

 《うっ、可愛い》

 《ガチ恋距離ありがとうございます!》 ¥500

 《シロちゃんバージョンもお願いします》

 《解禁おめでとうございます。お祝いです》 ¥1000


 コメントが流れるのを見ると、だいたい好反応みたいだ。うんうん。だって私可愛いもんね!

 ん? ちょっと待って。


「え? 今ほんとにスパチしてくれた人いたよね!? うわー、えー、猫大好きさん、金の亡者さん。ありがとう! 愛してる!」

「お、おい。いくら何でも言葉が過ぎるじゃろ」

「あ、ごめんね。もちろんシロのことを一番愛してるよ」

「そ、そう言うことではないんじゃが」


 《てぇてぇ……》 ¥500

 《もっとして》

 《おらぁ! 俺の全財産をうけとれ!》 ¥4545


 眉をしかめられたので抱き着いて頭を撫でながら謝るとさらにコメントとスパチがとんできた。

 おお、最初だからご祝儀としてくれる人いるかな? と思ったけど思った以上だ。


「えー、かなぶんさん、ちゅうだしさいこうさん、ありがとう。最高さんは全財産なんて悪いね、でもシロの教育に悪い名前だからブロックするね」


 名前が悪意のある感じの漢字だったのでそこはブロックしておく。


 《今日最高額スパチなのに容赦なくて草》

 《でも一回は読むのなw》

 《だれかどう読んでもいけるやつ考えろよ》

 《ひらめいた》


「はいはい、変なのは怒るからね。さて、一週間たちましたが、嬉しいことに登録者さんは減らずに増えました。ぱんぱかぱーん、いえーい」

「うむ、汝が頑張ったお蔭じゃな」

「そんなそんな、シロも頑張ってくれたからだよ、ありがとう」


 《おめでとう!》 ¥500円

 《おいしいもの食べてもろて》 ¥2000円


「ありがとうございます。皆様からのスパチは美味しくいただきまーす。話がすすまないから、個別のお礼はまた最後に言いますねー。で、そんなわけでまろまろもまたたまってきているので、折角なので消化していきます。さ、シロ、お願い」

「うむ」


 シロに読みあげてもらって答えていく。シロは自分から積極的に発言するタイプじゃないから、このスタイルがちょうどいいよね。


「はい、おしまーい。あー、疲れたー!」

「うむ。やはり緊張するし、疲れるの」


 配信を終えて伸びをする。マイクも外して、パソコンの電源はそのままに後で自分の投稿状況確認できるように画面に出してから、目元をもむ。実際には目が疲れるってこともないはずだけど、何となく気分だ。


「んー、ちかれたぁ。シロぉ、疲れたねぇ」

「んむむ。うむ」


 シロは配信が終わるとソファにもたれながら猫になり、顔を洗いながら二本足で私の膝にのった。後ろから抱きしめて持ち上げ、頭に頬ずりする。あー、癒されるー。


 今回の配信もそこそこ盛況だった。生放送自体はいつでもできるけど、届いたまろまろを整理したり、前の生放送を動画にしたりした。最初は短く編集しようかと思ったけど、そう言う切り抜きって言うのは本人がするんじゃないみたいなので、カットはあんまりせずに生放送を見れなかった人向けにそのままにした。

 まあ、今のとこ切り抜きしてくれる有志さんいないんだけど。著作権もあるから、するならちゃんと私に連絡来るはずだけど今のところない。悲しい。もっと人気にならないと駄目なんだなぁ。


「しかし、今日の投げ銭はすごかったの。数万にはなったのではないかの」

「んー、どうだろ。あの金額そのままじゃなくて、手数料ひかれてだし」

「む。そうか。場所代がとられるんじゃったな。仕方ないのぉ。しかし、週に一度じゃから、四回で一か月の生活費じゃから、いくらくらいあればいいんじゃ?」

「まあ、税金もあるし、20くらいは欲しいかな」

「今のお金の価値はわからんが、まだまだ遠いのぉ」

「再生数でももらえるしね。特に猫動画の方は短いけどめちゃくちゃ再生されてるのもあるから、そっちも多少は期待できるんじゃないかな」


 再生数は一回で0.01円とかだっけ? 100回で1円? あー、まあ、全部合わせたらチリも積もればだし、いいんじゃないかな?

 うん、計算はめんどくさいから、振り込まれた時のお楽しみにしておこう。


「お、今日の配信で、次の生配信のリクエスト募集しておいたでしょ? さっそくツブヤイターに届いてる!」


 シロへの頬ずりタイムをやめてスマホを見ると、どうやら配信中にも届いていたみたいだ。

 シロと一緒に見ると、お料理のやつやってとか、猫シロの一日の様子が見たいとか、これは生配信と言うか生中継? ゲームやってとか、雑談してとか。雑談して? 雑談してとは? まろまろとは違うのかな?

 あ、お酒飲みながらの配信かー。私普段お酒あんまり飲まないんだよね。弱いからだけど、考えたら吸血鬼になったから平気になったのかも? 今度試してみよ。


「シロってお酒飲めるの?」

「飲んだことはないが、飲めるじゃろうな」

「ふーん?」


 そっか。興味あるな。

 今の時間は夜の10時。スーパーは空いてないけど、コンビニなら普通に空いてる。まだお風呂にはいってないし、夜だから日焼け止めをぬる必要もない。


「ねぇ、シロ」

「なんじゃ?」

「今日、一緒に悪いことしない?」

「ぬ?」


 にやっと笑って提案すると、シロは顔をあげて不思議そうに首を傾げた。可愛い。









 夜の冷たい空気の中を吸血鬼として歩くと、今までと見え方が違ってなんだか変な感じだ。その気になれば遠くまでよく見える。匂いも、ただちょっとしけっただけじゃなくて、遠くのガスや人々の匂いがする。

 夜の方がやっぱり感覚も敏感になるみたいだ。吸血鬼になってから夜に出てないし気付かなかった。


 それにやっぱり夜に出かけてるのはこの年でも普段しないから、ちょっと悪いことしてる気分もあいまって、何だか楽しい気分になってくる。


「しかし、夜に出歩くのが悪いこと、とは、ずいぶん可愛らしいのぉ。わらわを撫でによく来ておったではないか」


 マンションを出てすぐ、夜の空気を感じている私に横を歩きながらシロは顎をなでつつ、にっと笑った。そんな変なこと言ったかな?


「あれは言っても8時とかだし、それに買いものとかのちゃんとした外出じゃないから。こんな夜中にお出かけするのはやっぱり、親にも禁止されてたし、わざわざ危ない夜中に出る必要もないからね」

「危ないかの? 昔に比べたら平和な世の中じゃと思うがの」

「それって何百年前の話?」


 人切りとかいそうな大昔と比べたらそりゃそうかも知れないけど。


 シロは今、大人バージョンだ。先日の葵ちゃんの提案の記憶喪失者だから戸籍ゲットだぜ作戦を実行するため、大人になってもらったのだ。

 しかも器用なもので、髪や瞳の色を変えた日本人みたいな姿になっている。正直今隣にいてもなれない。顔つきはそのままだけど、背も30センチほど伸びている。

 どうせ実物と身分証の顔写真の印象違う、みたいになるから髪と目の色が違えばこんなものかってなるし、最初の手続きがスムーズにいくように一目で未成年じゃない見た目にするのは重要だと思うけど、なれないなぁ。


 お酒を買うなら、とシロは普通に大人になっている。それでも私より小さいけど、やっぱり身長があると顔つきが幼くても童顔なだけな大人と言われたらそう見える。


「ていうか、戸籍、まだ結果でないんだよね?」

「うむ。今日も何も届いておらんかったな。行方不明者との照合は結構時間かかるようじゃな」


 先日お役所に行って手続きしてきた。と言ってもいきなり来られても日々よくある内容じゃないからか役所もちょっと慌ててたけど、私が身元引受人として申請したし色々書類を書かされたけど普通に帰ってこれた。

 犯罪者じゃないかを指紋で照合したりとか、精神科医の診断を受けたりもあったみたいだけど、少なくともシロには本当に人間として生きてきた過去はないので、怪しまれると言うことはなかったみたいだ。

 ひらがなしか書けないけど、ちゃんと日本語を読めるし交通ルールとか一般常識も知ってるから記憶障害の一部だろうと思ってもらえてるみたいだ。


 今は行方不明者のリストにないか調べてもらっている段階だ。絶対ないので、それが終われば戸籍の仮申請ができることになっている。生活のことがあるし私の存在もあるからか、思ったより早めに仮の身分証をもらえるみたいだ。

 なので返事がくるのを待ってる段階だけど、まだ来てないみたいだ。手紙で来るはずで、もっぱら手紙の確認はシロがしてくれているけど、遅いなぁ。


「早く欲しいよね」

「わらわとしては、てっきり数年単位でかかるものかと思ったからの。思った以上に早いと思うぞ」

「うーん、まあ、シロの感覚だとそうなのか。そうだよね。焦ることないしね。初めてのお酒は何にする?」

「と、言われてものぉ。ワインくらいしか思いつかん」

「ワインね、おっけー」


 シロの実家? ってやっぱヨーロッパとかそっち系なのかな。ワインは私も飲んだことないんだよね。うん、いいかも。


 コンビニは歩いて3分ほどなので、会話してるとすぐ着いた。たった三分だけど、普段はわざわざ夜に買い物行かないしね。


「じゃあこれでいいかな?」

「ふむ。チリのワインか。わからんから何でもいいじゃろ」

「おっけー」


 口にあうかわからないから、私が飲めるレモンチューハイも買っておこう。基本的に今まで飲むってなると誰かと一緒に食事する時だったから、どこのお店にでもあるレモンチューハイが一番無難だし、単純に何にでもあうしよく頼んでたんだよね。


「コンビニはボトルワインも売っておるんじゃの。本当に何でも売っておるの」

「だねー。さすがにグラスとかはないけど、まあ普通のでいいよね」


 さあ、さっそく帰って酒盛りだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る