【 桜色 】

「桜、今年も綺麗に咲いてるよ……」


 そうつぶやきながら、私はおかわりをした温かい紅茶の中へ、その花びらと同じサクラ色の金平糖コンペイトウをまたポトリと落とす。


 今は誰も座っていない向かいの席から、昔、彼が言った言葉が聞こえてきた。


「金平糖をこの紅茶に入れると美味しいんだ。金平糖はね、このポルトガルから日本に伝わったお菓子なんだよ」


 そう言って笑った彼の顔が、真正面に見えたような気がした。


 その少しサクラ色に染まった温かい紅茶を口にする。

 なぜだか、不思議とほんのり桜の味がする気がした。


 ヒラヒラ、ヒラヒラ 

 いくつも、いくつも、このやさしい西欧の風に舞い踊る桜。


 まだ私は、彼から卒業できていないんだと思う。

 でも、それでもいい。


 うん、それでもいい……。


 私は笑顔で、この大きな窓から見える満開のサクラに向かって、こうつぶやいた。



「もう1日だけ、ここで待ってみようかな……」



 窓に映る私の顔も少しだけ、サクラ色に染まっているように見えた。





~サクラ・コンフェイト~




(了)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サクラ・コンフェイト 星野 未来@miraii♪ @Hoshino_Miraii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ