第200話 懐かしい便り

  12月のとある土曜日――


仕事が休みの私は温かい日差しの差し込むルークの部屋にいた。

ルークは読書、そして私は刺繍と2人で思い思いの時間を過ごしていた。


コンコン


その時、突然部屋の扉がノックされた。


「はーい、どうぞ!」


ルークが返事をすると扉が開かれ、家政婦が室内に入ってきた。


「失礼致します。エルザ様宛にお手紙が届いておりますので、お持ちしました」


「私に手紙?どうもありがとう」


受け取ると彼女は頭を下げて部屋を出ていき、室内は再び私とルークの2人だけになった。


「手紙って誰からなの?」


ルークが興味深気に尋ねてきた。


「待ってね。今差出人を見てみるわ……え?」


差出人の名前を見て驚いた。

それはセシルからだったのだ。実に2年ぶりの便りだった。


「セシル……」


「え?セシルって、セシル叔父さんのこと?」


「ええ、そうよ」


ルークにはセシルのことは時折話していた。

私の幼馴染であり、フィリップの弟であることを……。


「一体突然どうしたのかしら?」


突然の便りに動揺する自分がいた。

もしかすると、セシルに身に何かあったのではないかと……。


「ルーク、ハサミを貸してくれる?」


「うん」


ルークは机の引き出しからハサミを取ると、差し出してきた。


「はい」

「ありがとう」


早速ハサミで開封すると、流行る気持ちで手紙を取り出して目を通した。




****


エルザへ



久しぶり。

実に2年ぶりかな?元気にしていたか?ルークはもう10歳になっただろう?

突然だけど、もうすぐ『カリス』から帰国することになったんだ。


それで本当に勝手な話ではあるけれども、もしあの時の約束がまだ無効になっていないならば兄さんの眠る教会に来てくれないか?


勿論無理にとは言わない。

ただ、連絡を取らなくなった2年の間に何が合ったか直接会って話がしたいんだ。


俺の話を聞いてくれるなら12月18日の日曜日、あの教会の前に来て欲しい。

決して無理強いしているわけではないから。


だけど……待ってる。



セシル




****



「セシル……」



手紙を読み終えた私の脳裏に10年前の別れの夜が思い出される。



『うん……待ってる…かもしれない』

『ほ、本当……か…?エルザ……』



あの時、目を見開いて私を見つめていたセシルの顔が忘れられない。




「お母さん?どうしたの?」


不意にルークに声を掛けられて我に返った。


「ううん、何でも無いわ」


そしてじっとルークを見つめる。


この10年の間……両親からは何度も再婚の話やお見合いを持ちかけられたけれども、私は誰とも見合いはしなかった。


何人か、私を思ってくれる男性も現れた。

彼らには自分には子供がいると説明したうえで、それでも構わないから結婚して欲しいと求婚されたこともあった。

けれども何故かその気にはなれず、結局私は全ての求婚を断ってきた。


その理由はやはり、セシルと交わしたあの夜の言葉が原因だったかもしれない。

明白な約束こそしなかったけれど、私はセシルに「待ってるかもしれない」と返事をした。


結局、私は自分自身の言葉に縛られていたのかもしれない……。


「お母さん……?」


「あのね、ルーク。セシルが帰ってくるみたいなの。明日、2人で会いに行かない?」


そしてそっと、ルークの頭を撫でた――。



 

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