第137話 初めて気付いたこと
この手紙には、はっきりそうとは書かれてはいなかったけれども内容を読む限り……想像がついてしまった。
「セシル…。ひょっとして、私のことを……?」
そう考えると、思い当たる節があった。
セシルはフィリップと私の結婚を随分反対していた。
フィリップが亡くなった後、アンバー家にとどまるように何度も訴えて来た。
そして義父母や両親が私とセシルを引き離そうとしていた事実……。
皆知っていたのだ。セシルが私のことを好きだと言うことに。
何も気付いていなかったのは私だけだったのだ。
「ごめんなさい……セシル」
手紙を封筒にしまいながら、謝罪した。
私は自分の知らない所でセシルを傷つけていたのかもしれない。
私とフィリップが離れで夫婦として生活してきた姿を……セシルはどんな思いで見ていたのだろう?
そう考えると申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それに姉のことでも気になることがあった。葬儀で会った姉は気になる言葉を口にしていた。
『本当に貴女とフィリップは愛し合っているのだと感じたわ。…やっぱり私の出る幕は無かったみたいね』
「あの言葉……もしかしてお姉さまはフィリップのことを……?」
だとすれば、私はセシルだけではなく、姉のことまで何も知らないまま傷つけていたのかもしれない。
「ごめんなさい、セシル…お姉さま……」
今の私が2人の為に出来ることは……謝罪の言葉を述べることしか思いつかなかった。
****
その日の夕食の席のこと――
「エルザ、今日荷物がアンバー家から届いたそうじゃないか?」
父が尋ねて来た。
「ええ、そうよ。全て届いていたわ」
「荷物だけしか届かなかったのか?」
父の言葉にドキリとした。
「ええ、そうよ」
何となくセシルから手紙が届いたことを言い出せず、つい嘘をついてしまった。
「そうか…」
神妙な面持ちで頷く父。
「ええ。何故そんなことを聞いてきたの?」
「いや、別に深い意味は無いさ」
父はそれだけ言うと、肉料理を口に入れた。
「そう……」
その時、私は父と母が一瞬目配せをしたことに気付いた。
「あのね、エルザ。貴女まだ出産してから一度も外出していないでしょう?もしよければ明日は日曜日だし…久しぶりに外へ行ってみない?」
それは思いもかけない提案だった。
出産後、あまり体調が優れなかったので実家に戻ってからはまだ一度も外出をしたことが無かった。
「そうね……。行ってみたいわ」
「なら決まりね。明日10時に出かけましょう?」
「はい、お母様」
ひょっとすると、父も母も私の様子がおかしいことに気付いたのかもしれない。
そこで外出の提案をしてきたのだろう。
この時の私は、そう思っていた。
父と母の本心を知ることも無く――。
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