第47話 彼の役に立ちたい
「フィリップは貴方にそう言ってたのね?他には何か私のことについて言ってなかったかしら?」
「う〜ん…それ以外は何も特に言ってなかったなぁ…」
「そう…なのね‥」
思わず落胆のため息が漏れてしまう。
「ごめん…期待に添えなくて…」
セシルが申し訳なさげに頭を下げてきた。
「あら、気にしないで?私の方こそごめんなさい。変な事尋ねてしまって…」
「でも…さ…」
「何?」
「兄さんはエルザのことであまり話に触れることは無かったけど…俺には良く分かったよ。どれだけエルザの事を大切に思っているかってことがね…」
「え…?」
私はその言葉に耳を疑った。
フィリップが私の事を大切に思っている…?
結婚初日に離婚届を私に預けておいて?
いつも冷たい言葉と態度をとり続けていたのに…?
本当は…そうではなかったの?
「どうしたんだ?そんな顔をして…?」
セシルが不思議そうな顔で私を見る。
「え?あ…少し意外に感じただけよ。フィリップって…あまり多くを語らない人だから…言葉にしてくれなければ、良く分からなくて。ほ、ほら…私って、子供の頃から少し鈍感なところがあるじゃない?」
自分の葛藤している気持ちを悟られない為に、無理に笑みを作ってその場をごまかした。
「まあ、確かにエルザは少し鈍感なところがあったかもな。だからはっきり口にしない兄さんの心の内が分からなかったんだろう?でも俺は兄さんの行動で分かったぞ?どれだけエルザを大切に思っているかってことが。だってこの俺ですら知らなかった事実を兄さんは色々知ってたんだからな~。例えばエルザは片頭痛持ちだってことや好きな花はラベンダーってことすら知らなかったんだから。俺はてっきりローズさんと同じでエルザもバラが好きだとばかり思っていたのに…まさかバラのアレルギーを持っていたなんて…正直驚いたよ。そのことを知っていた兄さんにもね」
「…」
私の胸の鼓動が大きくなる。
本当に?本当にフィリップは私を大切に思ってくれているのだろうか?
セシルの言葉を…信じても良いのだろうか…?
「…だから…だろうな…」
不意にセシルは少し悲し気な笑みを浮かべてポツリと言った。
「セシル…?」
どうしてそんな顔で私を見るの…?
しかしセシルが悲し気な顔を見せたのは、ほんの一瞬のことだった。すぐに彼は笑みを浮かべると私に言った。
「兄さんが南部に出発するときに『エルザの事をよろしく頼む』とわざわざ言いにきたんだよ。だから兄さんが不在の間はこの離れに滞在させてもらうことにしたのさ。幸い両親も後数日は屋敷に戻らないし…その間ここで仕事もすることにしようと思ってね」
仕事…。
情けないことに私はアンバー家の人達がどのような仕事をしているのか、全く把握していない。本来であれば、私はここに嫁いできたのだからフィリップの仕事を手伝わなければならないのに、肝心の会話すらまともに出来ていない状況なのだから。
「仕事って?セシルは今どんな仕事をしているの?」
「俺は書類の整理や帳簿をつけたり、計算したり在庫管理や…その他諸々の仕事をしているよ。大部分は兄さんの補助的な仕事かな?でも最近俺に回してくる仕事が増えてきた様に感じるな…。もしかして兄さん…色々忙しいのかな?」
セシルが首を傾げる。
フィリップは今仕事が忙しい…。それで体調を崩してしまったのだろうか?けれど具合が悪いのに出荷品の状態が悪いからと、自ら足を運んで様子を見に行くなんて…。
私も…忙しいフィリップの役に立ちたい。
彼がセシルの言う通り、私の事を本当は大切に思ってくれているなら…邪魔に思わないでくれているのなら…彼のお手伝いをしたい。
だって、どんなに冷たい言葉を浴びせられてもそっけない態度をとられても…それでもやっぱり私は彼のことが好きだから。
「ねぇ。セシル。お願いがあるの」
私はセシルに声を掛けた。
「お願い…どんな?」
怪訝そうな顔で私を見るセシル。
「私に領地経営のお仕事のお手伝いをさせて?少しでもフィリップの役に立ちたいの」
「…ああ、分かったよ」
セシルは笑みを浮かべて頷いてくれた―。
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