第46話 義父母と両親の隠し事

 セシルが運んできてくれたハーブティーのお陰で、今はすっかり頭の痛みは消えていた。



「今日と明日は俺もこの離れに滞在するよ」


向かい側のソファに座るセシルが不意に口を開いた。



「え?本館を離れても大丈夫なの?お義父様もお義母様もいらっしゃらないのに?」


「だからだよ。父も母も俺が離れに行こうとするのを妙に嫌がるからな…」


言いながら、チラリとセシルは私を見た。その視線が妙に気になった。


「セシル…もしかしてその原因って…私なんじゃないの?」


するとセシルは突然頭を下げてきた。


「ごめん!エルザッ!」


「ど、どうしたの?不意に謝ってくるなんて。何かあったの?」


「俺が以前君に言った言葉を覚えているか?エルザが嫁いでから俺が初めて

この離れにやってきた時のことだよ」


セシルが嫁いできた私に言った言葉…?そこで私は思い出した。


「もしかして、あのことかしら?『何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ない』と私に言ったこと?」


すると、セシルは申し訳無さそうに目を伏せた。


「そうなんだ…。俺は何も知らずにあんなことを言ってしまったんだよ。…兄さんは何も言ってくれなかったから…」


「どういう事なの?」


セシルと話せば話すほどに謎が深まってくる。


「エルザ、両親は…君を…いや君と言うか、ブライトン家を良くは思っていない」


「ええ、その事は知っているわ。実家に戻った時に母から話を聞かされていたから」


「そうなのか?」


セシルが目を見開いた。


「ええ。お義父様もお義母様も…お姉さまがフィリップとの結婚間際に別の男性と駆け落ちしてしまったことに大層激怒したのでしょう?」


「そうなんだ…俺は同じ屋敷に住んでいながら、少しも気づかなかったんだよ。恐らく俺とエルザの仲が良かったからなのかもしれないな?」


「そ、そうね」


私とセシルの仲が良かったことなどあっただろうか?私の記憶の中のセシルは意地悪で、子供の頃は良く泣かされていたというイメージしか無かった。


「父と母は君の姉さんに馬鹿にされたと思って、体裁が悪いからエルザを代わりに兄さんに嫁がせることにしたんだよ。君の実家を脅迫してね。エルザをアンバー家に嫁がせなければ仕事の取引を辞めるって」


「!」


その話は聞いていなかった。…やはり両親はそこまでの話は私には知られたくなかったのかもしれない。

けれど私はフィリップのことが好きだったから、私に彼との縁談話が回ってきた時はとても嬉しかったのに…。


「兄さんはエルザがこの家に嫁いでくれば、父や母に虐げられるのでは無いかと思っていたんだよ。もともとローズさんは結婚後はこの離れに暮らすことを条件に出していたから部屋を用意していたらしいけど…両親は君の部屋は本館に用意させようと考えていたんだよ。そこを兄さんが猛反対して…結局離れのローズさんの為に用意した部屋に住まわせることで妥協したらしいんだ。…兄さんがそう、話してくれたよ」


「そう…だったの…?」


セシルの話を聞きながら、私は頭の中で目まぐるしく考えていた。

お義父とお義母様は私がバラアレルギーがあるのを知っていながら、私があの部屋に入ることで納得した。


それは私に対する嫌がらせだったのかもしれない。


けれど、2人が領地巡りで不在になった途端、新しく用意された私の部屋。

しかも私の好きなラベンダー模様の家具や室内の装飾まで合わせて…。

恐らくフィリップは2人にばれないように、ここを離れるチャンスを狙っていたのだろう。


そして、私に頑なに本館へ行かないように釘を指した。

…冷たい言葉で。


「どうかしたのか?エルザ?まだ頭痛があるのか?」


セシルが押し黙っていた私に声を掛けてきた。


「いえ。頭痛はもう大丈夫よ。あのハーブティーを飲んだから。それで…フィリップは貴方に…私の事、何と話していたかしら…?」


私はフィリップの本心が知りたい。


きっとセシルになら、胸の内を明かしているかもしれない。


ドキドキしながらセシルの返事を待つ。


「兄さんか…。うん、『エルザの事をよろしく頼む』って言ってたな」


え…?


あまりにも呆気ないフィリップの言葉に私は喪失感を感じた―。


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